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人口減少の時代、医療の世界でこれから何が起こるのか?──(2)避けられない地方消滅

1.止まらない人口減少と収縮する社会
2.地方消滅の必然性
3.崩壊に向かう地域医療
4.VRHによる医療改革をめざせ
5.直面する課題と求められる意識改革

2.地方消滅の必然性

前章で述べてきたことは、国全体の人口の変化であるが、人口減少の姿は地域によって大きく異なる。

東京都の渋谷駅前の交差点の写真がしばしば放映されているが、都市部では、人口減少の実感はない。若者も多いし、街は活気がある。しかし、人口減少の進む小規模自治体では事情は全く異なる。人口減少、とくに若者の減少が進み、日中とはいえ街で出会う人は少なく、たまに出会ってもそのほとんどが高齢者という地域も少なくない。

地域には、空き地、空き家が多く、商店街はシャッターを閉めた店が並び、公共交通機関であるバスも、時刻表を見ると1日に数本というところも珍しくない。

地方に行くとしばしばこのような光景を目にするが、もちろん地域の状況はさまざまである。そのような地域もあるが、それぞれの自治体は、地域振興の努力をしており、他の地域からの移住の促進等によって人口減少が止まり、わずかではあるが人口が増加に転じると予想されているところもある。

しかし、国全体の人口が大きく減少しつつある現在、大都市から多数の人たちが地方に移り住むのならばともかく、逆に首都圏の人口に増加傾向もみられる状況では、各自治体の努力や願望にに関わらず、多くの地方において人口減少は深刻な問題である。

それがどれほど深刻か。数字をみて確認しておこう。総務省が2017年に設置した「自治体戦略2040構想研究会」が、これからの地方自治体のあり方について検討し、2018年に報告を発表している。

その報告の「概要」に、2015年から2040年までの25年の間に、すべての市区町村で人口がどのように変化するかを類型化した一覧表が掲載されている。(下記の写真がその一部)

それによると、大半の自治体で人口は減少する。しかも、2015年の時点での人口規模が小さい自治体ほど、減少率も大きい。たとえば、2015年時点での人口が3〜10万人規模の自治体のうち、300近い自治体は、25年間で人口が30%以上減少する。

それが、人口3万人〜1万人の自治体では、30%以上減少する自治体が350ある。そのうち、半分以下に減る自治体が126。さらに、人口1万人以下の自治体では、30%以上減少するところが390、半分以下になるのが121自治体である。最も減少する自治体の減少率は70%を超える。その自治体は、現時点で1000人強の人口であるから、2040年ごろには300人台になるということである。

地域としては北海道、東北、山陰、四国の農村地域の小規模自治体の減少率が大きい。しかし、今はまだ一定規模の人口を有している自治体でも、大都市圏やその周辺の一部の自治体を除いて、同様の右肩下がりの人口カーブを描いて減少していくことはまちがいない。  

人口が急減しつつある山間部の小規模な自治体では、当然、地域社会のあり方が大きく変わる。かつてはそれほど人口が多かったわけではなく、戦後の経済成長に伴って拡大した地域のコミュニティの場合は、再び元の小規模な状態に戻ったと考えれば、それほど問題視することもない、といった声も聞かれるが、数字の上での規模は同等でも、その実態は大いに異なる。

かつてのそのような地域社会では、小さくともまとまっており活力があったのかもしれないが、その当時の人口構成はピラミッド型で、若い世代の人たちが多くの比率を占め、高齢者は少なかった。当時の医療、衛生状態では、多くの者が長生きできず、60歳を超えて生存している人は少なかったのである。

しかし、今は違う。人口規模は同等でも、住民の多くが長生きし、高齢者の数が多い。若い世代の人たちは、高度成長期には職を求めて、故郷を出て都市に移り、当然にその次の世代も減ってきた。

その結果、先述した「自治体戦略2040構想研究会」の報告書のフレーズを借用すれば、

 1.若者を吸収しながら老いていく東京圏と支え手を失う地方圏
 2.標準的な人生設計の消滅による雇用・教育の機能不全
 3.スポンジ化する都市と朽ち果てるインフラ

という状態が発生することになろう。役所の文書の記述としては、異例の暗い表現であるが、とかく努力すれば何とかなる、国の補助金を使って解決しようという楽観的な風潮がみられる中で、あえて水を差すような厳しい現実を指摘する表現であり、しっかりと受けとめるべきである。

一度、人口も増加し、一定規模の地域社会としてのインフラや制度・産業等をもつに至った地域は、人口が減り、経済活動の規模も縮小してくると、それがもつ社会施設にせよ、インフラ設備にせよ、オーバースペックになり、それを維持することが負担になってくる。

建設時は、適正規模であった公共施設も、人口が減ってくると過剰になり、かつては満席のホールも客が減りガラガラの状態が続くようになる。設備更新期に廃止の決断ができれば負担は減るが、現実にはそれは容易なことではない。

とくに、道路、橋梁、上下水道等の社会インフラは、耐久年限がくると更新が必要になるが、人口減少でニーズが減る一方で、これまでの規模を維持しようとするならば、巨額の更新費用がかかる。

現在各地で生じているのが、このような問題である。上水道のように、利用する各戸に負担が求められる場合には、利用者数の減少は、一戸当たりの負担額を増加させ、ますます更新に要する公的財政負担が増加する。

商業や飲食業等の産業も同様である。人口減少は顧客の減少を意味する。飲食店で客が減り、採算がとれなくなれば閉店するしかない。スーパーマーケットも、客が減り売り上げが減れば、その地域から撤退することになろう。それによって買い物が不便になり、生活に支障が出るようになれば、生活水準を下げない限りその地域に住み続けることは難しい。

交通はもっと深刻である。すでに指摘されているように、過疎地域の鉄道事業は採算がとれず、路線の廃止が進められている。バスも同様であり、便数を減らしても採算がとれない路線は廃止が相次いでいる。結果として、その地域の公共交通手段はなくなり、自分の車で移動できない人たちの生活は、非常に厳しいものとなりつつある。

自家用車の利用も、高齢者の運転リスクから、運転免許証の返上が推奨されているおり、高齢者がそのような地域に住むことはますます困難になりつつある。残った公共交通手段であるタクシーも、利用者が減れば減車が行われることになるし、最近では、ドライバーの高齢化により、夜間に利用することが困難になっているという。

さらにいえば、先祖代々の墓がある寺も、檀家が減り、墓参りをする家族が減って、寺そのものの存続が難しくなってきているという。

このように、人口減少が進むと、ある時点から急速に社会のさまざまな機能が低下する。長くそこに住み続けてきて、そこで最期を迎えるつもりの高齢者にとっては、社会的な機能が低下し暮らしにくくなったからといって、容易に他の地域、都市部に移住できるかというとそれは難しいであろう。

たとえ、不便になっても、若い世代の家族がその地域を出ていったとしても、一人でも住み続けようとする人は少なくない。そのような高齢者の多くは、何らかの健康上の不安を抱えている。

そのような地域社会においても欠くことができないのが、医療である。しかし、その医療機関も、わが国の医療制度の下では、患者を治療し診療報酬を得ることによって経営をしている。医療サービスの顧客である患者が減少するということは、そのような医療機関の経営が苦しくなることであり、ある線を越えて患者が減るとその医療機関も地域から撤退することになりかねない。

現時点では、公的な補助によって支えられているそのような地域の医療機関の多くも、今後存続ができなくなる状態が近づきつつあるのではないか。そのようなとき、住み続ける住民の健康を管理し、病気を治療するために、何が可能なのか。その前に、そのような地域における医療の状態は、現在どうなのか。

それを次に見ていくことにしよう。

(3.に続く)