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【詩】早春


甕に白梅の蕾の充ちる

彼女の踊れば踊る程――


まるで一幅の画の様な

景色を月が映し出す

無観客の舞台 冴え冴えと

あおく しろく 染められた

静寂の庭で彼女は踊る

とうに壊れたオルゴール

枯れた手脚は疲れを知らず

音なき調べをなぞるだけ


ざらざら乾き 汚れ切り

砂に地面に紛れた甕は

空に虚ろに ぽっかりと 

口を開いたまま じっと


打ち捨てられて 誰からも

忘れ去られた庭の隅

未だ固い蕾は咲かずして落ちる

未練も無念も執着もなく

惜しまず惜しまれないままに

歓喜からも不安からも 永久に解き放たれた



(――何の用途も見出されないまま粛々と甕は充たされていく――)



黎明は遠く

庭が春風の香に薫る日は来ない





(忘年弐月)



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