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【NJRPG】アラスカ・イン・ザ・メイルシュトローム・オブ・オキナワ#4

(前回までのあらすじ:海中に潜むUMAを追い、放棄洋上ユニットに隠されたヨロシサンの地下研究所に忍び込んだ報道特派員の2人。重要情報を掴んだかと思われたその時、突如として襲い来るグロブスターの大群を前にナンシーが連れ去られてしまう……!)

この記事はDiscordのプライベートサーバーにてプレイした(かもしれない)「ニンジャスレイヤーTRPG」のリプレイ風小説風リプレイです。

実卓リプレイであるア・ヒキャク・レイド・オン・ニンジャズ・ハウスの後、登場人物のひとりであるアラスカデストラクターは余暇をどのように過ごしたのか?をテーマにシナリオ(もとい創作小説)を書きながら、気分でダイスを振ったり振らなかったりして展開を決めてゆくという奇妙な進行方式を採用しています。

TRPGには多様性があり、こういう遊び方をしてもいい。わかったか。

インデックス:◇1 ◇2 ◇3 ◇4


注:シリーズパロディを目的として、本作ではニンジャスレイヤー本編の下記エピソードより、幾つかの描写を引用・改変する形でお借りしています。インスピレーションの源となった素晴らしい作品シリーズと執筆チームに、この場をお借りして謝辞を。

【バイオテック・イズ・チュパカブラ】
【テラー・フロム・ディープ・シー】
【アポカリプス・インサイド・テインティッド・ソイル】

◆登場人物

◆アラスカデストラクター(種別:ニンジャ)
カラテ		6	体力		6
ニューロン    	5	精神力		5
ワザマエ		3	脚力		4
ジツ		1	
◆装備や特記事項
◇カナシバリ・ジツ
◇アイテム:家族の写真
◇サイバネ:▶生体LAN端子、▶▶ヒキャク+
◆ニンジャスレイヤー(種別:ニンジャ)	
カラテ		13	体力		13>11
ニューロン	7	精神力		7
ワザマエ		10	脚力		7
ジツ		0	万札		10
							
◆装備や特記事項							
◇装備:家族の写真
◇スキル:『連続攻撃3』、『連射2』、『時間差』、『マルチターゲット』、
     『ヘルタツマキ』、『ツヨイ・スリケン』、『ナラク・ウィズイン』
◆ナンシー・リー (種別:モータル/ハッカー)
カラテ		1	体力		2>1
ニューロン	12	精神力		6
ワザマエ		4	脚力		2
ジツ		ー	万札		10
◆装備や特記事項
◇カルマ:【善】
◇装備:生体LAN端子、サイバーマグライト、デリンジャー(チャカガンと同等)
◇スキル:『IRCコトダマ空間認識能力』


◆◆◆


「ハァーッ! ハァーッ!」地下直結の高速エレベーター内で、ミリタリーめいた装束のニンジャが壁にもたれ荒い息を整える。不気味なバイオ生物を始末し、コンソールを起動するため電源系にアクセスした途端、先と同様の腐肉めいた大量のクリーチャーによる襲撃を受けた。

今回の件、最初から裏があると睨んではいたが、まさかあんな生き物が大量に放し飼いにされているとは想像もしなかった。要するに、自分はあれの処理係、場合によっては成果も見込める当て馬として危地に送り込まれた、といったところか。

苦々しい顔でキャニスターを締め直し、ガスマスクの気密性をチェックする。酸素濃度は問題ない。有毒ガスも、ひとまずは大丈夫だろう。ガイガーカウンターの値も許容範囲内だ。ニンジャはナックルガード付きのタクティカルグローブで、左腕に巻いたアナログな計器のガラス面を拭った。

装束も含め、これらはオキナワのブラックマーケットで調達した、軍放出のデッドストック品である。実際ローテク品だが、最低限動作すれば問題はない。まとまった装備を調達できただけ幸運だったというものだ。

古いミリタリ調の装備で覆ったその姿は、オキナワに似つかわしくない重武装の密漁ダイバーか、前時代主義の傭兵めいて見えた。

過剰とも言えるその装いは、過酷なアラスカの環境で生まれ育った彼女の無意識的な習性に基づくものである。未知に足を踏み入れるとき、そこにどんな脅威が潜むのかは傍目に計り知れない。無慈悲な世界でサヴァイヴするためには知恵と、それから備えが重要なのだと、かつての失敗から彼女は学んでいた。彼女はそっと手を伸ばし、サイバネ脚に触れた。


『トト到着ドズエ』エレベーターが減速し、ノイズ混じりの合成マイコ音声が鳴り響いた。そのニンジャ、アラスカデストラクターはクナイを片手にマグライトを構え、ゆっくりとエレベーターから歩み出る。

彼女が受けた依頼は、放棄された海事博物館の地下調査施設から『忘れ物』を回収してほしいというものだった。『ヨロシサン製薬所有』の『放棄されたユニット』という時点で警戒はしていたが、よもや好戦的なバイオ生物が徘徊しているとは。警戒度合いを引き上げねばなるまい。

アラスカデストラクターは秘密の直結エレベーターが隠された重役室をくまなく調べ、目当ての品がないと分かると扉を開けて通路へ出る。捜索対象の特徴とおおよその隠し場所は伝えられているが、その具体的な在り処は分かっていない。つまり、どこまで広がっているのかも分からない地下施設を虱潰しに探す必要がある。

脳内UNIXに重役室とエレベーターの情報をマッピングすると、アラスカは無数のパイプが這い回る潜水艦めいた通路を進み始める。ニンジャ視力でも見通すことの難しい闇の中、頼れるのは手元の古い軍用マグライトの灯りだけだ。

ハッカーの協力者がいれば電気系統を再起動し、UNIXから地図データを取り出せたかもしれない。しかし生体LANこそ埋め込んでいるものの、アラスカデストラクターはテックに強くはなかった。であれば、地上階でそうしたように、足を使って物理操作盤を見つけ出す他ない。

アラスカデストラクターは左右に設けられた扉の先を次々とあらため、精確にマッピングしてゆく。幾つも枝分かれした地下施設の暗闇は底知れない危険をはらんでいたが、彼女はただ淡々と作業を進める。

海洋調査を目的として建造された孤島の洋上ユニット、タカラ・オムニ。それが表向きの偽装であろうことは、この地下の調査を始めてすぐに分かった。研究機材や資料といった「備え付けではない」備品はことごとくが撤去されていたものの、各所に残される謎の大型装置や、奇形のバイオ生物が浮かぶシリンダー水槽が醸し出す独特のアトモスフィアは見逃せるものではない。処理コストの関係で、そのまま放棄されたといったところか。

残された設備は随分と老朽化が進み、ときに時代を感じさせた。そこから推測するに、ここがかなり以前に放棄された施設である可能性は高い。外界から隔離されたオキナワの遠洋で、かつてヨロシサンが如何なるバイオ実験を行っていたのか、それはもはや想像の域を超えない。

地上階で襲ってきた謎のバイオ生物も、もしかするとここで行われていた非人道的な実験の成れの果てだったのかもしれない。アラスカデストラクターはシリンダー水槽に浮かぶ正体不明の腐敗死体を一瞥する。崩壊した肉体からはヒトの肋めいた奇妙な骨格が突き出していた。


埃にまみれたシリンダー水槽の表面を軽く指で弾き、ガスマスクの下で露骨に嫌な顔をしたアラスカデストラクターは部屋を後にする。

その時、ブーンという音とともに、地下施設内全体の電灯が灯り、どこか遠い場所からタービンや大型排気ファンの作動音が聞こえ始めた。

(これは……!)アラスカデストラクターは慌てて壁を背に、姿勢を低くする。ニンジャの視界は即座に明順応するが、すぐにはその場を動かない。待ち伏せされた?もしくは自分以外にも侵入者が?……ヨロシサンの掃除部隊か? 用心深く周囲を警戒しながら、アラスカは素早く思考を巡らせる。

ナンシーから聞いた失踪事件の原因がこの場所にあると仮定して、騒ぎを聞きつけたヨロシサンが封じ込めの失敗に気が付き、隠蔽工作を開始した。ありえなくはない話だ。事実として、遭遇した未知のバイオ生物は非常に好戦的で、何故か放し飼いの状態だった。

(厄介なことになった……!ヨロシサン製薬、忌々しい連中!)海中の基底部をピンポイントで破壊すれば、特殊構造のユニットは簡単に自壊させることができるだろう。一通りの可能性を模索したアラスカデストラクターは先程以上に苦々しい表情をしながら、身につけた装備類を素早く点検する。

支配の象徴として日本に君臨する暗黒メガコーポ群。もれなく無慈悲であるという点で彼らに大差はないが、アラスカはその内のヨロシサン製薬を嫌忌していた。あまりにも非人道的、そしてモータルには許されない領域での生命の冒涜。無実のモータルがヨロシサンにいくら苦しめられていようと、彼女は気にも留めないだろう。ただ、そうした身の程を弁えない振る舞いは、少なからず不快だった。

物思いに耽っていたアラスカデストラクターは、遠くから聞こえる物音に気がついた。まさか、もう掃除部隊が近くまで?彼女は姿勢を低くしたまま、その正体を確かめるべく移動を開始した。




◆◆◆




「アイエエエ!?」情けない悲鳴を上げながら、アラスカデストラクターは地下施設の狭い通路を全力で走る。アラスカデストラクターが聞きつけたのは、群れをなして移動するグロブスターが立てる物音だった。どの通路を覗き込んでも、大量のバイオ生物!そして今彼女の背後からは、恐ろしい数のグロブスターがひしめくように、腐った体を引きずりながら迫っている!

一体誰が彼らの怒りを買ったのか?その狙いはアラスカデストラクターではないように思われた。しかし、バイオ生物はアラスカが逃げようとしたありとあらゆる方向から現れる! 必然的に、彼女はグロブスターが向かう場所へと追い込まれる形となってしまった。

「アイエエエ!」腐臭を放ち、全身から気味の悪い粘液を垂れ流す恐るべきクリーチャーの群れ! アラスカデストラクターは必死で走る。

CRACK!CRACK!CRACK!ヒキャクで金属製の地面を蹴りつけ、アラスカデストラクターは直角に通路を曲がる。さらに続く通路の先には意外なことにも、開けた空間! プレートの表記は「潜水室」。

アラスカデストラクターはその先に、予想外の物を幾つか見る。グロブスターが融合したかのような、青白い巨大な肉塊。今まさに、グロブスターに喰われんとするナンシー・リー!?「……コーッ! シュコーッ!?」アラスカのニューロンが高速で思考する。心臓の鼓動がやけにゆっくりと、大きく聞こえた。

 彼女が何故ここに? ヨロシサンの関係者? ナンシーを助けるべき? 厄介事に巻き込まれないか? あの肉塊はなんだ? 疑問と憶測が次々と湧き上がり、アラスカを苛む。

(今は考えるな……!)アラスカデストラクターは頭を振って猜疑心を思考から追いやる。彼女は冷酷なニンジャであり、功利主義者だ。だがしかし、純粋な善意を向けてくれた人を見捨てるような恥知らずではない!今はただ、カラテあるのみ……!




一歩、そして二歩。踏み込まれた左のヒキャクが、上体を僅かに捻ったニンジャを宙に射出し、カラテ衝撃が地面を砕く。「イヤーッ!」空中で腰を返したアラスカデストラクターは真横を向き、曲げた右足を弾き出す。「アバーッ!」カラテ斥力の乗った殺人トビゲリが、ナンシーに襲いかかるバイオ生物をゴムボールめいて吹き飛ばした!

クオオオー!地を削るヒキャクが唸り、アラスカデストラクターは潜水ドックに片脚で着地した。「ニンジャ!?」突然のインタラプト者の出現に、ナンシーは地に倒れたまま驚愕の表情を浮かべる。「ドーモ、私は……」

「アブナイ!後ろよ!」「ハイヤーッ!」アラスカデストラクターはナンシーが叫ぶよりも速く半身を捻り、背後へと270°の弧を描く左脚のパンデ・トルリョチャギを繰り出していた。「アバーッ!」新たに襲い来るグロブスターの腐敗した肉塊にかかとが叩き込まれる!

◆グロブスター(種別:バイオ生物)
カラテ		4	体力		4
ニューロン    	2	精神力		ー
ワザマエ		2	脚力		4
ジツ		ー	
◆装備や特記事項
◇『虚弱体質』:『ボス級の敵』から近接攻撃によるダメージを受けたとき即死する。
◇『巨体』:近接攻撃が敵に命中した時、その相手を自動的に『拘束状態』にする。
      この時『ボス級の敵』は再度【回避】判定を行い、拘束を回避しようと試みることもできる。
◇『盲目』:「カナシバリ・ジツ」や「フラッシュ・グレネード」から影響を受けない。

「ARRRGH!」SPLAAASH!海中から新たなグロブスターが飛び出し、潜水ドックに這い上がる。「ハイヤーッ!」直立姿勢から右手首を掴み、半身の回転から捻りを加えた下段キックを繰り出す。これはカンフー・カラテにおいてナイケ・ケンと呼ばれる流派の連携ワザ、アックスメレイ・ケリ! 「アバーッ!」SPLAAASH!グロブスターは海中に叩き落とされる!

「話は後に!とにかくここを……」「アブナイ!」「ARRRGH!」ただそこにあるだけであった巨大な腐肉塊から、突如としてグロブスター塊が豪腕めいて振るわれる!これは……!?「ハイヤーッ!」踏み込みからの独特なサマーソルトキックがこれを蹴り上げ、軌道を逸らす!

DOOOOM!!豪腕がドックの壁に叩きつけられ、セクション全体を揺らす。「……コーッ! シュコーッ!……まさか……何だと……!?」ナンシーを庇うようにカンフー・カラテを構えたアラスカデストラクターは、恐るべき事実に気がついてしまう。

「AAAAAAAAAAAARGH……ドーモ、ギガンテウスです」おお、見よ! ただの腐肉塊かと思われたそれは不快な音を立てながら動き出し、異形の巨人めいた姿を取ると、唸るようにアイサツした! ニンジャだ!

◆ギガンテウス(巨人体)(種別:バイオニンジャ、UMA?)
カラテ		4	体力		25
ニューロン    	6	精神力		ー
ワザマエ		1	脚力		1
ジツ		ー	
◆装備や特記事項
◇『異形』、『ダメージ軽減1』、『盲目』、『虚弱体質』、『増殖』、『ハイブマインド』
◇「近接攻撃ダイス:10」、「射撃ダイス:5」、「連続攻撃2」

『異形』:このニンジャは常時『大型(4x4)』となる。攻撃の基本リーチが3マスとなる。
     「素手」状態の基本ダメージが3、「スリケン」の基本ダメージが2となる。
     【体力】はカラテ値の5倍となるが、人間サイズの敵からの攻撃の回避難易度が全て+1される。
     『サツバツ!』の効果は全て無視され、出目6の場合のみ基本ダメージ+D6となり、
     それ以外の出目は単に基本ダメージ+D3ダメージとなる。

     また、以下のバイオサイバネと同等の効果を得る。
     ▲▲バイオサイバネヘッド(重度)、▲▲▲バイオサイバネ腕(多腕)、▽▽吸血バイオ器官+

『盲目』:「カナシバリ・ジツ」や「フラッシュ・グレネード」から影響を受けない。
『虚弱体質』:「電磁ショック」や「火炎ダメージ」から受けるダメージが3倍になる。
       『ボス級の敵』から受ける『近接攻撃ダメージ』が+1される。

『増殖』:特定の条件を満たしている時、毎ターン【体力】を1回復するか、
     それを放棄して難易度:UHで【ニューロン】判定を試みても構わない。
     判定に成功したとき1d3体のグロブスターを周囲の任意のマスにPOPさせる。
     ただしマップ上に同時に存在できるグロブスターの数は、ギガンテウスのニューロン値が上限。

『ハイブマインド』:NMが認める特定のマップ上において、次の効果を得る。
          戦闘ターンの開始時、『ギガンテウス』の回避ダイスを任意の数だけ消費し、
          その数だけ複数『グロブスター』の攻撃に『時間差』や『連続攻撃』を付与する。
          この効果は『ギガンテウス』が戦闘に参加していなくても使用することができる。


「アイエエエエエエエ!!」サイバーマグを探っていたナンシーの絶叫が潜水ドックに響いた!「ドーモ、私は……アラスカデストラクターです」アラスカデストラクターはUMAニンジャへの恐怖を精神力で抑え込み、拳を平に突き当て素早くアイサツを返す。

「ARRRGH!!」アイサツからコンマ数秒後、ギガンテウスはイカめいた異形の多椀を破壊的に振り回す!「イヤーッ!」アラスカデストラクターはこれを蹴り、危険な攻撃の軌道をナンシーから逸らす!

DOOM!DOOM!巨人の腕が潜水ドックの床を破壊しながらバウンドする!「ハイヤーッ!」攻撃反動で硬直する腕に、アラスカデストラクターは再びサマーソルトめいた強烈なキックを食らわせる!「ARRRGH!」しかし浅い!ギガンテウスの傷は即座に再生!何たる非凡なニンジャ再生力か!

「ARRRGH!!」DOOM!DOOM!DOOM!DOOM!反撃に怒り狂うギガンテウスは不気味に身悶えし、その腕は周囲を無差別的に破壊し始める!

(シマッタ……!これではナンシー=サンが……!)一瞬、アラスカデストラクターの心に迷いが生じる。そこには衝動的にこの場に飛び込んでしまったことへの後悔も混じる。この敵を相手に、ナンシーを守りながら戦い続けられるのか!? そしてその葛藤が致命的なウカツを生み出す!

「ARRRGH!!」次の瞬間、巨大腕のスウィングがアラスカデストラクターを直撃!その体を横薙ぎに吹き飛ばす!「ンアーッ!?」

アラスカ 回避:3d6>=4+4d6>=4 = (1,2,1 :成功数:0) + (6,4,4,4 :成功数:4)
アラスカデストラクター HP 6>4

全身の骨がきしみ、その体は地面で数度バウンドする!「ARRRGH!!」「アバッ……!チクショ!」アラスカデストラクターは受け身を取りながら片腕で体を跳ね上げ、ゴーストリープめいた動きで追い打ちの触腕を飛び越える!

一撃一撃が極めて重い。そしてどこからリソースを得ているのかも分からぬ、異常な再生能力。このままではジリー・プアー(注:徐々に不利)だ。アラスカデストラクターはひび割れたガスマスクをかなぐり捨て、ひどく青ざめた素顔を露わにする。

「あなた……アリシア=サン!?そんな……!」地面を這いイクサ場から逃れようとしていたナンシーが驚愕し、呻くような声を出す。

アラスカデストラクターは無言のまま、再びニューロンを高速で回転させる。巨人を相手に万が一にでも勝機はあるか?ナンシーを連れて逃げ切れるか?「「ARRRGH!」」海中から新たなグロブスターが飛び出し、ギガンテウスはさらなるカラテを引き絞る。 その時!



「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」


その場の全員が、遠くから響くジゴクめいたシャウトを耳にし、動きを止めた。


「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」


アラスカデストラクターはこの恐るべきシャウトに聞き覚えがあった。背中を伝い、大量の汗が流れ始める。


「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」
「「「アバーッ!!!」」」


再びのカラテシャウト、そして悲鳴。その発生源が徐々に近づいてくる。ナンシーとアラスカデストラクターは同時に、それぞれ異なる感情を込めてその名を叫んだ!

「「ニンジャスレイヤー=サン!」!?」


「「エッ!?」」


「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「「「アバーッ!!!」」」通路からはボロクズめいて殺されたグロブスターが次々に吐き出される。

2人は互いの口をついて出た名前に、驚いた顔を見合わせた。


(((アイ、アイエエエエエエエエエエエ! ニンジャスレイヤー=サンだと!? ネオサイタマから私を追ってきた!? 何故ナンシー=サンがその名前を!?))) アラスカデストラクターのニューロンが超加速し、世界の動きは静止したかのように鈍化する。

フハハハ!追ってくるが良いニンジャスレイヤー=サン! アラスカデストラクターはパニック状態に陥りながら、かつて言い放った苦し紛れのセリフを思い返し、酷い後悔に襲われる。ソウカイヤの任務中に突如として出現。以降、地下ダンジョンを探索中の妹の前に出現。そして休暇中の自身の前に再び出現。

ニンジャスレイヤーはまず間違いなく、アラスカデストラクターとその家族周辺をつきまとっている! 恐るべきストーカーニンジャ真実を前に、アラスカデストラクターは泣きそうな表情で震えた。


「ARRRGH!!」「アブナイ!」ギガンテウスの咆哮とナンシーの声が響き、アラスカデストラクターは我に返った。

迫り来る破壊的カラテストレート! しかしアラスカデストラクターは決断的に右腕を捻り上げ、右脚を胴体に引き寄せた片脚立ちの構えを取る。これはカンフー・カラテの大技、イーグルシャドウ・ダイ・マトイの構え! 「ハイヤアーッ!」 アラスカは後ろ蹴りめいた動作から反動スウィングする右脚を大地に打ち込み、カラテを集約した右腕の掌底を繰り出す!

パァン!「アバーッ!?」カラテ衝撃がギガンテウスのおぞましい腕を粉砕!狙いを逸れたカラテストレートは背後の壁に突き刺さる!アラスカの左腕がカブキめいた動きで跳ね上がり、カラテ反動を逃す!

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「「「アバーッ!!!」」」通路からボロクズめいて殺されたグロブスターが次々に吐き出される!その声は更に近づく!

「イイイヤーッ!」「ンアーッ!?」アラスカデストラクターは決断的に走り出すと、粘液でヌルヌルと輝く破れたダイブスーツ姿のナンシーを抱え上げ、全速力で逆方向の通路へと向かう!マインドセットを済ませたプロフェッショナルのリアリスト的思考が、この場での最善手をはじき出したのだ!

敵はどちらも相手取るには強大過ぎるカラテ。今のワザマエでは太刀打ちもできまい。であれば、両者をぶつけ、その隙に逃げる!アブハチトラズ!

アラスカデストラクターはニンジャスレイヤーのカラテに内心舌を巻く。異常ストーカーでありながら、瞬時に三打を打ち出すその恐るべきカラテ速度!彼であれば、敵を十分に足止めしてくれるに違いない。

「ARRRGH!」DOOOM!「イヤーッ!」「ンアーッ!?」ナンシーを放り投げ、連続前転で圧倒的質量を逃れる!「ARRRGH!」「イヤーッ!」ナンシーを再キャッチし、トライアングル・リープでグロブスターを飛び越え、ギガンテウスの攻撃の届かない通路へと走り込む!「ンアーッ!?」激しく揺られるナンシーが悲鳴をあげる! 背後からは恐ろしい咆哮とジゴクめいたシャウト! 走れ、アラスカデストラクター、走れ!


◆◆◆



「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「「「アバーッ!!!」」」通路からはボロクズめいて殺されたグロブスターが次々に吐き出される。次いで、UMA存在を殺し尽くした暗黒殺人カラテ戦士が遂にその姿を現した。

グロブスターの青白い肉塊が粘土細工めいて混じり合う、多椀の巨人がそちらへとぎこちなく体を向ける。

「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」全身から蒸気を立たせるニンジャスレイヤーが潜水ドックにエントリーし、腐肉の巨人とタタミ四枚の距離で向かい合いながら、ジュー・ジツを構えた。

「まさか、オヌシが……ニンジャか!」

「AAAAAAAAAAAARGH……ドーモ、ギガンテウスです」


◆ニンジャスレイヤー(種別:ニンジャ)	
カラテ		13	体力		13>11
ニューロン	7	精神力		7
ワザマエ		10	脚力		7
ジツ		0	万札		10
							
◆装備や特記事項							
◇装備:家族の写真
◇スキル:『連続攻撃3』、『連射2』、『時間差』、『マルチターゲット』、
     『ヘルタツマキ』、『ツヨイ・スリケン』、『ナラク・ウィズイン』


ナンシーからの咄嗟のPINGが、その生存と居所の情報をニンジャスレイヤーにもたらした。そしてニンジャ聴力がもたらした断片的情報が正しければ、ナンシーは居合わせた誰かと行動しており、少なくとも今は無事だ。ならば、今はカラテあるのみ!「ニンジャ殺すべし……!イヤーッ!」

ニンジャスレイヤー 連続攻撃3 5d6>=4+4d6>=4+4d6>=4
 = (3,3,6,3,6 :サツバツ!) + (6,5,6,3 :サツバツ!) + (6,3,1,1 :成功数:1)

跳躍するニンジャスレイヤーは恐るべき速度で3連続の回し蹴りを叩き込む!「アバーッ!?」ギガンテウスの体はトーフめいてえぐり取られるが、即座に再生!「ARRRGH!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは無差別的なスウィング腕を蹴り返し、それを破壊しながら飛び離れる!「ARRRGH!」

「「「ARRRGH!」」」SPLAAASH!海中から新たなグロブスターが飛び出し、潜水ドックに這い上がる。「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「「「アバーッ!!!」」」ニンジャスレイヤーの連続殺人カラテチョップがグロブスターを即座に海中に叩き落とす!

「ARRRGH!!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーのイアイめいたカラテチョップが、背後から逆スウィングで迫るギガンテウスの豪腕をカウンター切断する!「ARRRGH!?」バイオ体液が撒き散らされ、切断塊が不気味にのたうつ! コワイ!

「「「ARRRGH!」」」SPLAAASH!海中から新たなグロブスターが飛び出し、潜水ドックに這い上がる。「イヤーッ!」状況判断したニンジャスレイヤーは連続前転でギガンテウスに接近し、その勢いのままジゴクグルマめいた連続の踵落としで腐肉を削り取る!「ARRRGH!」しかしその肉体は即座に再生!

ニンジャスレイヤーは薄っすらと透ける肉体の奥に、膨れ上がった人影や魚影を見た。恐るべきUMAニンジャは、肉体再生やグロブスター生成のリソースとして、喰らった生物を体内に備蓄しているのだ!

「ARRRGH!!」反撃に怒り狂うギガンテウスは不気味に身悶えし、恐るべき速度でビッグカラテめいたカラテストレートを打ち出す!だが!「イヤーッ!」致命的バイオストレートを素手のチョップ突きが真正面から迎撃する! これは伝説の暗黒カラテ技、ドラゴン・クロウ・ツメ……!

ニンジャスレイヤー 回避 3d6>=4 = (6,6,6 :成功数:3)

ニンジャスレイヤーのチョップ突きは止まらぬ!「イイイヤアアアアーーーーッ!」 ニンジャスレイヤーはギガンテウスの腕を三枚卸しめいてチョップ切断しながら走り抜けると、胴体を蹴り上がり、それを更に心臓部へと突き立てる!

ニンジャスレイヤー サツバツ:1d6 = (6) = ヤリめいたチョップが敵の胸を貫通!
追加ダメージ:1d6 = (1) = 1
※あまりにも芸術的な出目だった為、サツバツ!カウンターとして例外的に処理された。

「アバーッ!?」ギガンテウスがもだえ苦しむ!しかし、浅い!あまりもの巨体に、チョップが致命箇所まで届かないのだ! 「ヌウッ……!」ニンジャスレイヤーはチョップ突きの先端に妙な感覚を覚える。

「「「ARRRGH!!!」」」攻撃直後のニンジャスレイヤーにグロブスターが飛び掛かる!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは連続バック転でギガンテウスから飛び退き、間合いを取り直す。今の感覚は一体?

刹那、ニンジャスレイヤーを激しい頭痛が襲い、不愉快なかすれ声が脳裏に鳴り響いた。 (((ド、ド、ドーモ、ニ、ニ、ニンジャスレイヤー=サン))) ジツによる精神波攻撃であろうか!?あるいはUMAを前にして、己の精神が何らかの狂気に呑まれてしまったのか!?ニンジャスレイヤーは目をカッと見開き、抗った!

(((俺を……)))「オヌシは、まさか……!」ニンジャスレイヤーはその声が、眼前のおぞましいバイオニンジャの内から発せられていることに気がついた。

(((俺を、殺してくれ)))

「「「ARRRGH!!!」」」飛び掛かるグロブスター!「イヤーッ!」それを蹴り殺すニンジャスレイヤーは跳躍し、トライアングル・リープキックを繰り出す。「ARRRGH!!」ギガンテウスは空中を腕でなぎ、これを叩き落とそうとする!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはその腕を蹴り、更に高く飛び上がる!

「ARRRGH!!」「イイイイヤーッ!」逆腕スウィングをニンジャスレイヤーのギロチンチョップが切断!「アバーッ!?」

「安心せよ。私はそのためにここに来た」メンポから蒸気を吐き、ニンジャスレイヤーはジュー・ジツを構え直した。

「ニンジャ殺すべし……!」


◆◆◆


「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」

ナンシーを抱えるアラスカデストラクターは全身の痛みを堪え、行く手を阻むグロブスターを蹴り殺しながら走る! 目指すは侵入経路である直通エレベーターだ! しかしその道程のなんと長く感じられることか!

「TAKE THIS!」BLAM!「アバーッ!?」冷静さを取り戻したナンシーがそこに加勢する。「イヤーッ!」「アバーッ!」(ダメだ……こんなカラテでは……!)グロブスターを蹴り殺しながら、アラスカデストラクターは己のカラテの未熟さに歯噛みする。

「TAKE THIS!」BLAM!「アバーッ!?」「イヤーッ!」「アバーッ!」(もっと、もっとだ。もっと速く……!)アラスカデストラクターは歯を食いしばりながらカラテを振るい続ける。そのニューロンにはソーマト・リコールめいて、ニンジャを完膚なきまでに叩きのめすニンジャスレイヤーの驚異的カラテ光景が繰り返し飛来していた。

「TAKE THIS!」デリンジャーから弾丸は飛び出さない。アウト・オブ・アモーだ!「SHIT!」ナンシーは弾切れのデリンジャーをグロブスターに投げつける!「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」アラスカデストラクターは荒く息をしながら淡々とカラテを振るう!

アラスカの足取りが鈍り、そこにグロブスターが襲いかかる!「ARRRGH!!」「左のホルスターを……!」「……!借りるわ!」ナンシーはニンジャの左太腿に装着されたホルスターから咄嗟に橙色の銃を引き抜き、グロブスターへ向け決断的にトリガーを引いた!

「TAKE THIS!」BLAM! 瞬間、赤い閃光が全員の視界を埋め尽くす!それは実弾銃ではなく、高光度の照明弾を打ち出すフレアガンだった! 「アババーッ!」BOM! 照明剤から引火した炎は一瞬で全身に回り、グロブスターは爆発四散!? これは……!

飛散するバイオ体液を全身に浴び、死にそうな顔になるアラスカデストラクター。「これだわ……!」一方、ナンシーは予想外の効果に呆気にとられながらも、その意味するところに気がついた!

◇『虚弱体質』:『ボス級の敵』から近接攻撃によるダメージを受けたとき即死する。
        また陸上で「火炎ダメージ」を受けると即死する。


「ARRRGH!!」「TAKE THIS!」BLAM!「アババーッ!」BOM!「イヤーッ!」「ARRRGH!!」「TAKE THIS!」BLAM!「アババーッ!」BOM!「イヤーッ!」「ARRRGH!!」「TAKE THIS!」BLAM!「アババーッ!」BOM!「イヤーッ!」「ARRRGH!!」「イヤーッ!」「アバーッ!」

ナンシーが撃ち、飛び散るバイオ体液をニンジャがカラテで弾き飛ばす!永遠に続くとも思われたそのカラテスパイラルの中、アラスカデストラクターのカラテは徐々に研ぎ澄まされつつあった! (ここに来た理由を思い出せ! 帰るべき場所を思い出せ! アラスカでの生活を思い出せ! あのジゴクめいたシャウトを思い出せ! 私は……ニンジャだ!)

「ハイヤーッ!」「「アバーッ!」」 時間差のニ打を生み出す蹴り技、ヨンソクトラチャギがグロブスターを弾き飛ばす! 「ハイヤアーッ!」「「アバーッ!」」 さらに襲い来るグロブスターを振り向きざまの中段バンダルチャギで壁のシミに変え、アラスカデストラクターは尻もちをつくようにしてエレベーターへ乗り込んだ!

「ボタンを……!」


◆◆◆


「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはマウントポジションを取るグロブスターの肋骨を両腕で掴み、ニンジャ膂力で真っ二つに引き裂く!「アバーッ!?」

◇『巨体』:近接攻撃が敵に命中した時、その相手を自動的に『拘束状態』にする。
      この時『ボス級の敵』は再度【回避】判定を行い、拘束を回避しようと試みることもできる。
      『ボス級の敵』がこの『拘束状態』から脱した時、『グロブスター』は死亡する。

「ARRRGH!!」そこに襲い来る追撃のカラテストレート!DOOOM!「イイイヤーッ!」ニンジャスレイヤーはギガンテウスの腕を駆け上がり、その首にトビゲリを食らわせる!「ARRRGH!?」カラテ衝撃が青白い肉体を震わせる!しかしその巨体は揺らがない!なんたる非凡なニンジャ耐久性か!

「ARRRGH!」SPLAAASH!海中から新たなグロブスターが飛び出し、潜水ドックに這い上がる。このままではジリー・プアー(注:徐々に不利)だ!しかしその時、ニンジャスレイヤーのIRC端末にメッセージが飛び込む……!


『# UMAOKNW:YCNAN:弱点は炎よ!』


「これは……!」簡潔かつ的確な情報!ニンジャスレイヤーは危機的状況においても冷静な彼女の胆力に、改めて敬意の念を抱いた。「ARRRGH!!」そこに襲い来るギガンテウスの圧殺カラテ! アブナイ!

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは体操選手めいて跳躍し、錐揉み回転しながら着地。そしてその場で高速回転し始めた。スリケンが次々にグロブスターに突き刺さる!「「「アバババーッ!!!」」」回転はさらに加速する!「イイイヤァーッ!」

恐るべきヘルタツマキが全方位に放つスリケンは、徐々にギガンテウスの胴体へと収束し始める。しかし巨体はスリケンの的になってなお、一切痛痒を感じる素振りはない。飛び道具に耐性があるのだ!「ARRRGH!!」ギガンテウスがカラテを振り上げる!ニンジャスレイヤーの回転は止まらない!彼は何をしようというのか!?

「ARRRGH!!」DOOOM!!ニンジャスレイヤーは跳躍して殴打を回避!「イイイヤァーッ!」そして空中でも回転を継続!スリケン!スリケン!スリケン!やがてスリケンは、ギガンテウスの胴体に突き刺さるスリケンそのものにぶつかり、金属音を立て始める。飛び散る火花! こ、これは……!

「イイイヤァーッ!」KRASH!KRASH!KRASH!KRASH!KRAAASH!「アバ、アバババーッ!?」突如として、ギガンテウスの青白い体が燃え上がる! ゴ、ゴウランガ! 見よ! ニンジャスレイヤーの投擲したスリケンを! それはスリケン同士の度重なる金属摩擦を受け赤熱し、ジゴクめいた高熱を放つまでになっていた!

KRASH!KRASH!KRASH!KRASH!KABOOOM!KABOOOM!スリケンが衝突するたび火花が散り、ギガンテウスの腐敗ガスが火種に油を注ぐ!「ARRRGH!!」 巨人は闇雲に暴れまわり、その燃える拳が地下施設の床を、壁を破壊する!しかし、もはや巨人になす術はない。

「イイイヤァーッ!」「GBBBBBHHHH!!」 やがて悲鳴を上げながら、炎に包まれたギガンテウスの巨体は地に倒れ伏す!ニンジャスレイヤーは既に回転を止め、剥がれるように取り残されたギガンテウスの脊髄部分を、中腰の姿勢で睨みつけていた。

ギガンテウスの脊髄。否、そこに該当する箇所から上半身だけが突き出した、腐乱死体めいた人影が小さく咳き込んだ。

ナムアミダブツ!この腐乱死体めいた人影こそが、ヨロシサンの非道バイオ実験の過程で偶然にも生み出された異常増殖バイオニンジャ!そしてこの海域を恐怖によって支配するグロブスターの発生源であった!

◆ギガンテウス(本体)(種別:バイオニンジャ)
カラテ		ー	体力		4
ニューロン    	6	精神力		6
ワザマエ		ー	脚力		ー
ジツ		ー	
◆装備や特記事項
◇バイオサイバネ狂気:『自我希薄化』
◇『盲目』:「カナシバリ・ジツ」や「フラッシュ・グレネード」から影響を受けない。
◇『分裂』:巨人体の【体力】が0以下になった時、自動的に【精神力】を1消費して
      2ターン後に巨人体を再POPさせる。その際の【体力】は本体の【体力】の2倍で算出する。

※『ギガンテウス(巨人体)』の【体力】が0以下になるまで攻撃対象にならない。


「ハイクを詠むがいい。ギガンテウス=サン」(((ジゴクから……二度目覚める……)))「イイイイヤアアアアアーッ!」ギュン! ニンジャスレイヤーの背中に縄めいた筋肉が浮かび、右腕の強烈なスナップから全膂力を乗せたスリケンが射出される! それは奥義ツヨイ・スリケン!

「ゴボッ……」凄まじい勢いで投げ放たれたツヨイ・スリケンが、ギガンテウスの頭部を吹き飛ばす!「サヨナラ!」ギガンテウスは爆発四散した!



「スゥーッ……ハァーッ」ニンジャスレイヤーはザンシンののち、チャドーの呼吸を整えた。地下施設から海中に金属の悲鳴が響き渡る。天井の亀裂を押し広げながら、海水が流入し始めた。



◆◆◆




「「そんな……!」」ナンシーはニンジャスレイヤーの身を案じて、アラスカデストラクターは目的の達成が叶わないと知った絶望から。それぞれ異なる理由から、2人は同時に悲鳴のような声をあげた。小型クルーザーの船上から彼女たちが見つめる先では、激しく振動していた洋上ユニット『タカラ・オムニ』が中央部に吸い込まれるようにして海中に崩落してゆく。

「おしまいだ……」アラスカデストラクターはガクリと膝をついた。抜け目なく再潜入を計画していた彼女の前で、最期の希望が崩れ去っていった。「ニンジャスレイヤー=サン……!」船べりでナンシーが祈るように呟く。

アラスカはそのキーワードを聞きつけ、ピクリと反応する。必死の逃走劇に頭の隅へと追いやっていたが、何故かお互いが『ニンジャスレイヤー』という名を知っていた。これはいったいどういうことか?

うつむき加減でニューロンを回転させていたアラスカへ、ナンシーが不意に声を掛ける。「アリシ……いえ、アラスカデストラクター=サン。命を助けられたわ。本当にありがとう。その、傷の手当だけでも……」「どうしてニンジャスレイヤーという名前を知っていた?」自身も傷つきながら、相手を気遣うナンシー。その言葉をアラスカデストラクターの冷たい声が遮った。

「……えっ?」「何故ニンジャスレイヤー=サンを……」顔をあげ、立ち上がろうとしたアラスカデストラクターは言葉を途切った。その視線はナンシーの腰元に据えられた、小さな金属製の箱に留まっていた。タコとクジラをモチーフにしたエンブレム!それこそ探し求めていた品!

「……ナンシー=サン。その箱を渡してくれないか」「……悪事を暴く重要な証拠よ。渡せない」ゆらりと立ち上がったアラスカデストラクターの前で、思考の追いついたナンシーの顔がみるみるうちに青ざめる。「何故これを、あなたが欲しがるの」「必要だから」震える声に対し、淡々とした声が返される。

ナンシーは一歩下がった。その手がアルミ製のボートアンカーに触れた。「ニンジャスレイヤー=サンを、知っているのね?そして彼を……恐れている。あなた、ソウカイ……」ナンシーはそれ以上、言葉を発することはできなかった。全身が凍りついたように動かない。嫌な汗が滴り落ちる。

「残念だ、ナンシー=サン」沈みゆく太陽の逆光に照らされ、アラスカデストラクターの姿が黒く塗りつぶされた。「あなたとは仲良くなれそうだと思っていたのに」冷ややかな青い目だけが、浮かぶようにあった。

表情も知れないニンジャが手を伸ばす。
ナンシーは声もなく悲鳴を上げた。





◆◆◆




「依頼の品だ」濡れた髪を拭いながら、アラスカデストラクターが金属の箱を投げ渡す。「……箱が開いているみたいだがね?」受け取った老婆は、その箱のファイアウォールが破られていることを即座に見抜く。

「私じゃあない。詮索好きのジャーナリストから奪った」「それで、そのジャーナリストは?」「わざわざ訊く必要があるのか?」老婆の問いに、アラスカデストラクターは冷たく応えた。「……いいや。他に問題はなかったかね?」ニンジャは全身の痛みを堪えながら淡々と返す「ああ」。

しばしの沈黙が訪れる。老婆は箱を開き、中のフロッピーを確かめた。少し離れた場所では、柱により掛かるシンハーが油断なくこちらに警戒している。随分と信用のないものだ。

「……ふむ、まあいい。あんたに頼んで正解だった。ご苦労だったね」息を吐き、老婆が沈黙を破る「あれも、報われたろうよ」。「約束の品を」

「随分とせっかちだね。あんたは」老婆はのそのそと動き、2つの品をアラスカデストラクターに手渡した。ひとつは古びた本、もうひとつは真新しい木箱。「まあ、いろいろと個人的に書き込んではいるがね。好きに使いな」「この箱は?」ニンジャは怪訝そうな表情を浮かべる。

「あんたが書いたショドーさ。良い出来だったから、飾れるようにしておいてやった。まあ、ボーナスさね」「……そうか」アラスカデストラクターは2つを手にしばらく考え込んでいたが、すぐに踵を返した。

「では……オタッシャデー」「ま、がんばんなさいな」アラスカは早足でその場から立ち去り、その姿は熱帯樹林の陰に隠れてすぐ見えなくなった。

「あいつ、何を急いでいたんだ?」シンハーが訝しげに呟く。「ああ、そろそろフライトの最終便だろうからね」「……そうなのか?」シンハーは納得が行かない様子で、首を傾げた。「細かいことは良いんだよ、一件落着なんだから」老婆は含みある様子でぶっきらぼうに言い放つと、シンハーを置いて建物に引っ込んだ。

すっかり日は沈んでいたが、トカラ・セクションを蝕むテックの灯りは煌々と空を照らし続けていた。




◆◆◆




翌早朝、トカラ・セクションのビーチからホテルへの道をトボトボと歩く2つの人影があった。「チクショ!完全にしてやられたわ!」モリタ特派員の肩を借りて歩くナンシー・リー特派員が心底悔しそうな表情を浮かべる。「スマヌ、ナンシー=サン。先に助けに向かうべきだった。私の落ち度だ」

ナンシーはアラスカデストラクターの謎めいたジツにより『箱』を奪われた後、ビーチに漂着したクルーザーの上で意識を失っていた。海底ダイブから泳いで生還したニンジャスレイヤーと彼女が合流し、互いに全ての顛末を知ったのはつい先程のことであった。

「あなたのせいじゃないわ。元はといえば、アリシア=サンよ!」「アリシア=サン?」「飛行機で隣の席だった……彼女、ニンジャだったのよ!アラスカデストラクターと名乗っていたわ」「アラスカデストラクターだと……!」その名を聞いたニンジャスレイヤーの表情が一気に険しくなる。

ニンジャスレイヤーは飛行機に搭乗した時点で、既に複数のニンジャソウルを感知していた。しかし彼がネオサイタマを離れているという事実をソウカイヤに知られるわけにはいかない。闇に潜むニンジャたちに、絶えず恐怖を与え続け無くてはならない。そう考えるが故、ニンジャスレイヤーは邪悪なニンジャソウルを抑え込み、その気配を押し殺していた。それが仇となるとは……!

「彼女を知っているの?」「はみ出し者、異端者を集めた狂人グループ。ソウカイヤでさえ存在を認めないその集団を取り纏める危険なニンジャだ……!」ニンジャスレイヤーは歯噛みする「奴はかつて私が取り逃した相手のひとり。あの集団を甘く見ていた。どうやってか私の動きを察知し、ネオサイタマから後をつけて来ていたに違いない」

「まさか……!とてもそんな風には思えなかったわ」ギガンテウスとの戦闘でカメラは破壊され、『箱』は奪われた。全ての手掛かりを失ったことにナンシーは落胆し憤ってもいたが、結果的にナンシーの命を救った、あのニンジャの善意自体は欺瞞であると思えなかった。

「私とナンシー=サンの関係性を疑い、接触してきたのだ。スマヌ、私のウカツだ」「そう……なのかもしれないわね……」複雑な心中のままナンシーは軽く微笑んだ「少し休むわ。また走れるようにならないとね」。ホテルはもうすぐ目の前だった。

「用心しろ。ストーカーニンジャたちがまだ潜んでいる可能性は高い。私は周辺を偵察してくる」ニンジャスレイヤーは赤黒の風となって姿を消した。

太陽の輝く空を見上げ、大きく息を吸うと、ナンシーはホテルへ歩き出す。全ての手掛かりは失われ、事件の真相は闇に葬られた。消えた人々の存在さえ、やがては忘れ去られてしまうのだろう。

だが、少なくとも、この海域で理不尽な事故に遭う人はこれでもういなくなる。陸で永遠に彼らの帰りを待ち続ける人が、これ以上生み出されることはない。そしてなにより、理不尽に抗うナンシーたちの戦いは、まだ始まったばかりだった。

「私たち、よくやったわよね」ナンシーは誰に言うともなく呟いた。



「ナンシー・リー様ですか?」ホテルに足を踏み入れたナンシーへ、静かに歩み寄る人影が声を掛ける。まさか、待ち伏せか!?緊張に表情がこわばった。ナンシーは恐る恐る視線を動かす。

「あなた宛に預かり物があるのですが……」そこに居たのはホテルのスタッフだった。「え、ええ。ナンシーです」こっそりと安堵の息を吐きながら、ナンシーは応えた。思っていた以上に、ニューロンが疲弊しているらしい。心の中でナンシーは苦笑する。しかし預かり物とやらに心当たりはない。

「ああ、良かった」「それで、その、預かり物とは?」「"頼まれていた写真のコピー"と伺っていますが……ああ、受け取りのサインをお願いします」ナンシーは怪訝な表情で、受け取った封筒を覗く。そこには真新しいフロッピーが1枚だけ収められていた。ナンシーは目を見開く。

「これは、まさか……!一体これを誰から……」




◆◆◆



周囲の旅行客に溶け込むラフな装いに身を包んだアラスカデストラクターは、飛行機の柔らかな座席に身を沈める。彼女は旅程を2日も繰り上げて、逃げるようにオキナワを発った。空の旅は快適であったが、その表情は浮かないものだった。

(ナンシー=サン……次にどんな顔をして会えば良いのか……)全身の痛みに顔をしかめながら、スシを口に運ぶ。彼女がニンジャスレイヤーと何らかの繋がりを持つのであれば、むしろ今後の接触は避けたい。しかし、決して穏便とは言えない別れになってしまったことには少しばかり気が咎めていた。

(私はあなたの敵なのだろう。でも、その善意は……報われるべきだった)

過酷な世界において、誰も独りでは生きられない。与えられるだけの善意はやがて尽きる。善意には善意を、偽善であれ互いをそうして繋ぎ止めねば、サヴァイヴするための熱は瞬く間に奪い去られ、そして死ぬ。アラスカの大地でもそうだった。だからこそ、彼女は行動を起こす決断をした。

「言ってなかったな……私は、ヨロシサンが好きじゃないんだよ」彼女は誰にも聞こえないほど微かな声で呟く。オキナワに残したささやかな贈り物を思い出し、断片的でも少しは役に立つだろうかと、不安に駆られながら。


ノーフューチャーな末路を拒もうとするならば、あらゆる行為には美しさが、美徳が必要なのだ。誰もがそれを忘れてしまっているからこそ、ネオサイタマではインガオホーが人々に死をもたらす。アラスカはその意味を改めて噛みしめた。たとえそれが欺瞞であっても、何を為すかなのだ、と。

(あなたと……それから願わくば、私の善意がいつか報われますように)恐怖のストーカーニンジャの存在を思い出し、アラスカデストラクターは身震いする。 隣の席は幸いにも空席だった。



『アラスカ・イン・ザ・メイルシュトローム・オブ・オキナワ』終わり。



◆余暇:アラスカデストラクター オキナワ強化合宿(カラテ)
 ◇カラテ 成長の壁(1)突破
  ◇カラテ 6>7 連続攻撃2 獲得
◆忍◆ ニンジャRPG名鑑#XXX 【アラスカデストラクター】 ◆殺◆
料理裁縫を筆頭に家事全般を得意とする恐るべきニンジャ。カンフー・カラテを主軸に様々な足技を融合させた、独特なカラテ・スタンスの使い手。両脚は完全なサイバネティクス。双子の片割れもまた、ニンジャである。



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