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【NJRPG】アラスカ・イン・ザ・メイルシュトローム・オブ・オキナワ#3

(あらすじ:秘密のレシピを探し求め、オキナワの地を奔走するアラスカデストラクター。その一方でナンシー・リー報道特派員とイチロー・モリタ報道特派員は、大量失踪事件の陰に潜む謎のUMAの正体を暴くべく、クルーザーでトカラ・セクションの遠洋へと繰り出していた)

この記事はDiscordのプライベートサーバーにてプレイした(かもしれない)「ニンジャスレイヤーTRPG」のリプレイ風小説風リプレイです。

実卓リプレイであるア・ヒキャク・レイド・オン・ニンジャズ・ハウスの後、登場人物のひとりであるアラスカデストラクターは余暇をどのように過ごしたのか?をテーマにシナリオ(もとい創作小説)を書きながら、気分でダイスを振ったり振らなかったりして展開を決めてゆくという奇妙な進行方式を採用しています。

TRPGには多様性があり、こういう遊び方をしてもいい。わかったか。

インデックス:◇1 ◇2 ◇3 ◇4


注:シリーズパロディを目的として、本作ではニンジャスレイヤー本編の下記エピソードより、幾つかの描写を引用・改変する形でお借りしています。インスピレーションの源となった素晴らしい作品シリーズと執筆チームに、この場をお借りして謝辞を。

【バイオテック・イズ・チュパカブラ】
【テラー・フロム・ディープ・シー】
【アポカリプス・インサイド・テインティッド・ソイル】

◆登場人物

◆アラスカデストラクター(種別:ニンジャ)
カラテ		6	体力		6
ニューロン    	5	精神力		5
ワザマエ		3	脚力		4
ジツ		1	
◆装備や特記事項
◇カナシバリ・ジツ
◇サイバネ:▶生体LAN端子、▶▶ヒキャク+


◆◆◆


「確かなのか、ナンシー=サン」イチロー・モリタ報道特派員が、波形モニタに映る色とりどりのスペクトル・パターンを険しい顔で一瞥する。「この海域に何かが……いや、UMAニンジャが潜んでいるという話は」

「少なくとも、この海域の限定的なエリアで、何かが起こっている裏付けは取れているわ」圧着式サイバー・ダイビングスーツを纏ったナンシー・リー報道特派員が、ソナーレーダーの波形調整をしながら言った。「消えているのは人だけではなかった。事件は海中でも起きていたのよ」

「でも、今回の事件にニンジャが関わっている可能性は25%に過ぎないの」ナンシーはスーツの締め付けと気密性を確認しながら、すまなそうに首を横に振った。「25%あれば十分だ」モリタ特派員は、ソナー・レーダーの波形から実際の海面へと視線を戻した。


トカラ・セクション。そこは主要なオキナワ・リゾート圏から外れた、未開発区画が多く残る特殊な洋上ユニット。6区分割されたユニットの各セクターには、それぞれが自治権を有する漁業水域が与えられている。ここ数ヶ月の間、海上での失踪事件と謎のUMA漂着物「グロブスター」の報告がしきりに挙がってきていたのは、そのうち第2から第4セクターが管轄する水域でのことであった。

この日、第4水域における謎の大不漁について偶然耳にしたナンシーの提言を受け、2人の特派員は第4セクターと第3セクターのちょうど中間に位置する遠洋の調査に乗り出していた。

各セクターに海域に関する自治権が与えられているのは、何も強い権限やマネーパワーを有するからではない。土着的な漁業文化を営む地元の漁師たちの強い主張のため、あるいは彼らの体裁上の保護のため、暫定的にそうした区割りが設けられているだけに過ぎないのだ。

それ故に、日本政府はこの海域について無関心であった。彼らが一帯の調査に乗り出す気配はない。地元の漁師たちは自治権の獲得に浮足立ったが、同時に政府の庇護を失ったことには、こうした事態に陥るまで気がつくことはなかった。もっともそうでなかったとして、経済的な見返りも乏しいセクションに政府が関心を払っていたかどうかは怪しいものである。


こうした状況下で戦うのは、ナンシーにとって極めて分の悪い賭けである。ただし……UMAが実在するならば話は別だ。現状、物証として存在するグロブスターはバイオクジラの腐乱死体としてメディアに処理されている。だがその発生原因を突き止めUMA映像を撮影できたならば、その報道特番は必ずや無関心な世論を動かすだけの視聴率を得て、オキナワに隠された不正を白日の元に暴けるに違いない。

今回の事件、ナンシーには何らかの形でUMAが関わっているという漫然とした確証があった。その根拠は漂着するグロブスターと、そこから発見されたビーコン装置だけに由来しない。かつて彼女はヨロシサン製薬のプラントに潜入した折、僅かばかりの機密情報を盗み出すことに成功していた。

その中には労力をかけてオキナワの遠洋に建設されながらも、採算不足により閉鎖に追い込まれた実験施設の位置情報も含まれていた。表向きはオキナワの自然環境を調査する名目で設立されたこのユニットが、海中に極秘研究セクションを有していたことをナンシーは知っている。

そして外界から隔絶されたそのユニットが存在する海域こそ、トカラ・セクションが管轄する遠洋であった。特派員たちはこの偶然を見逃さなかった。

「必ず、真実を暴いてみせるわ……!」ナンシーは己の覚悟を確かめるようにつぶやき、潮風を胸いっぱいに吸い込んだ。


◆◆◆


そして出発から数時間後、目的の海域に到着した調査班は、無人で漂うクルーザーを発見する。

「間違いないわ、UMAに襲われた犠牲者の船ね」横に近づけたクルーザーの上から、ナンシーは慎重に漂流船を観察する。デッキは何かが這い回ったかのように粘性の液体が線を引き、そこからは酷い腐敗臭が漂ってくる。「なんて酷い……!」ナンシーは思わず口元を抑えた。

モリタ特派員は完全防水のサイバーカムを手に、既に漂流船へと飛び移っていた。「やはり人の気配はない……ニンジャの気配もだ」四方の海に対する警戒と撮影を続けながら、そのカメラフォーカスは徐々に船内の映像へと移る。不快な痕跡はデッキから船内へも続いている。

ミハル・オプティ社製のミリタリーカムは、大きく歪んだキャビンの入り口を映像に捉える。まるで何かが無理に押し広げて通り抜けたかのようだ。モリタ特派員はそこに付着した白色の繊維を見逃さない。それは、漂着するグロブスターの肉塊を覆う体毛に酷似していた。

カメラは入り口をくぐり抜け、割れたマグの破片を踏みしめる音と共に、操舵室へと辿り着く。「これは……!」モリタ特派員は船内に踏み入った時点で、腐臭に混じる血の臭いを感じ取っていた。そして今、カメラが捉えているのは……人の腕である!

それは助けを求めるかのように操舵輪の底をしっかりと握りしめている。しかし……ナムサン……!肘から下が存在しない!この腕の持ち主は、一体どこに消えてしまったというのだろうのか……!

その時!

「アイエエエ!?」船外からナンシーの悲鳴が響く!「シマッタ……!ナンシー=サン!」モリタ特派員は連続側転で漂流船から飛び出した!

特派員のクルーザー上には膨れ上がった謎の肉塊。あれは……グロブスター!?「イヤーッ!」「アバーッ!」モリタ特派員は咄嗟に跳び蹴りを繰り出し、ナンシーに襲い掛かるグロブスターを海中に叩き落とす!

「グロブスターだと!?これは一体……!」

「まだよ!ソナーには他にも反応が……!」

「ARRRGH!」SPLAAASH!白い水しぶきを上げ、海中から新たなグロブスターが現れる!その腹部は口のように大きく縦に裂け、肋に酷似した乱杭歯めいた骨組織が無数に突き出していた!「イヤーッ!」「アバーッ!」ナンシーが警告するよりも早く、モリタ特派員のカラテチョップがそれを海中に叩き落とす!

◆グロブスター(種別:バイオ生物?、UMA?)
カラテ		4	体力		4
ニューロン    	2	精神力		ー
ワザマエ		2	脚力		4
ジツ		ー	
◆装備や特記事項
◇『虚弱体質』:『ボス級の敵』から近接攻撃によるダメージを受けたとき死亡する。
◇『巨体』:近接攻撃が敵に命中した時、その相手を自動的に『拘束状態』にする。
      この時『ボス級の敵』は再度【回避】判定を行い、拘束を回避しようと試みることもできる。
◇『盲目』:「カナシバリ・ジツ」や「フラッシュ・グレネード」から影響を受けない。

「まだ来るわ!」「ARRRGH!」SPLAAASH!海中から新たなグロブスターが飛び出す。「イヤーッ!」「アバーッ!」モリタ特派員は決断的右手カラテチョップでこれを海中に叩き落とす!

◆ニンジャスレイヤー	(種別:ニンジャ)	
カラテ		13		体力		13
ニューロン	7		精神力		7
ワザマエ		10		脚力		7
ジツ		0		万札		10
							
装備や特記事項							
 装備:家族の写真
 スキル:『連続攻撃3』、『連射2』、『時間差』、『マルチターゲット』、
     『ヘルタツマキ』、『ツヨイ・スリケン』、『ナラク・ウィズイン』

「ARRRGH!」SPLAAASH!海中から新たなグロブスターが飛び出す。「イヤーッ!」「アバーッ!」モリタ特派員は決断的左手カラテチョップでこれを海中に叩き落とす!

「ARRRGH!」SPLAAASH!海中から新たなグロブスターが飛び出す。「イヤーッ!」「アバーッ!」モリタ特派員は決断的右手カラテチョップでこれを海中に叩き落とす!

「ARRRGH!」SPLAAASH!海中から新たなグロブスターが飛び出す。「イヤーッ!」「アバーッ!」モリタ特派員は決断的左手カラテチョップでこれを海中に叩き落とす!

「「「ARRRGH!!!」」」SPLAAASH!海中から次々と新たなグロブスターが飛び出す。「イイイヤーッ!」モリタ特派員は連続カラテ円舞によりこれを迎撃。「「「アバーッ!!!」」」カラテ衝撃波により不快な肉塊が弾け飛ぶ!

「ARRRGH!」SPLAAASH!海中から新たなグロブスターが飛び出し、クルーザーの後部に這い上がる。「イヤーッ!」「アバーッ!?」2枚のスリケンがグロブスターに突き刺さる。「ARRRGH!」しかし仕留めきれぬ!不気味なUMA生物は身を震わせ、逃げるように海中へと飛び込む!

無線LAN接続したソナーレーダーを監視し続けていたナンシーが声を上げる。「ニンジャスレイヤー=サン!レーダーの反応が……!」レーダーに映る海中の動体反応は、グロブスターが海に逃げた途端、一斉に同じ方向へと動き始めていた。

状況判断したモリタ特派員はすぐさま黄色い救命胴衣を脱ぎ放ち、赤黒のニンジャ装束となり、クルーザーの操縦席へとダイヴする!

ゴウン!勇ましいエンジン音を響かせながら、クルーザーは急転換する!「先ほどの戦いで、微かだがニンジャソウルの気配を感じた。グロブスターを操っているニンジャがどこかに居るはずだ……!」

「追い掛けましょう。そのニンジャがいるとすれば、グロブスターが逃げる先に違いないわ」ナンシーは額の汗を拭いながら、デッキの手摺を掴んで体を起こす。「もしやその方向とは……」「そう、ヨロシサンの放棄洋上ユニットよ」

◆◆◆


「イヤーッ!」ニンジャ握力がチェーンロックを破壊し、お世辞にも厳重とは呼べない防護柵を開く。

ナンシーとニンジャスレイヤーは海中を潜行するグロブスターを追い、ヨロシサンの海上放棄ユニットに辿り着いた。ソナー反応はユニットの陰に消えた。即ち、このユニットの下に何かがあることは自明であった。

タカラ・オムニと名付けられた小型の洋上ユニットは、表向きヨロシサン製薬による海洋調査施設と対外的な海洋・海事博物館として建造されている。現在こそ無秩序なバイオ樹林の生い茂る無人島めいた様相だが、役に立たないフェンスを越えて敷地に入ると、コンクリート固めの舗装路などの痕跡が見つけられた。

カラテ警戒するニンジャスレイヤーを先頭に、特派員一行は強行軍を決行する。「この荒れ具合、他にもUMAが潜んでいたって驚かないわ」緊迫した表情のナンシーは、マチェーテでカンブリアめいた植物を切り払う。


グロブスターという恐るべきUMA襲撃者の存在が明るみになった今、この海域全体はどこも安全であるとは言えない。生物の死体ではなく、よもや死体めいたUMA生物の死体であったとは、誰も想像しなかったことだろう。

この未知の驚異を前に、ナンシーは引き返して調査をニンジャスレイヤーに任せるという選択肢を吉とせず、このまま放棄ユニットに乗り込むことを決断した。それは彼女のジャーナリストとしての覚悟であり、UMAを前に迂闊をさらしてしまったことに対するケジメでもあった。ニンジャスレイヤーはナンシーの決定を尊重し、何も口を挟まなかった。


蔦の垂れ下がったネオン看板のアーチを越え、調査班は背の高い草に隠れた裏口の小さなドアから侵入した。額に収められた海中の写真がいくつも飾られた、白基調の通路が姿を見せる。

「電気系統がまだ生きている……?」意外なことに、施設内部では摩耗した照明がおぼろげな灯りを周囲に投げかけている。「誰かが、電源系を再起動した?まさか、先客が居たのかしら」ナンシーは訝しげな表情でつぶやく。

「用心しろ、ナンシー=サン。生体反応はないが、妙な敵が相手だ」ニンジャスレイヤーはカラテ警戒を解かないまま施設の暗闇を進む。「妙?」その後ろからLAN直結したサイバーマグライトで前方を照らすナンシーが続く。

「あのUMA、殆ど熱反応がなかった。ここでも、いつ奇襲を受けるかわからん」ニンジャスレイヤーはひとつひとつ通路の扉を開けて中を確かめながら、ニンジャ聴力で警戒網を張る。奇襲を受けるとすれば背後。そうなるとナンシーの身が危険だ。

「まさか……」グロブスターがズンビーめいた存在であるという可能性に思い至り、ナンシーは小さく身震いする。周囲の展示物は、海底に潜む未知のバイオ生物をテーマとした不気味なものに変わっていた。


「ここだな」二人は「モニタ室」と書かれた部屋の前で立ち止まった。ドアは施錠されていたが、ニンジャ握力を持ってすれば障子戸に等しい。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは一息にドアノブをねじり切った。

 そこは標準的な給湯室と警備室が合わさったような部屋であった。コンクリート打ちの半室には幾つかのUNIX端末が置かれ、残りの半分は火鉢とコタツが置かれた畳敷きの茶室になっている。茶室の壁には「定時」と毛筆された虫食いだらけの掛け軸が飾られている。

「ここなら地下への手掛かりがあるはず」ナンシーは厚く積もったホコリを拭い取ると、UNIX端末にLANケーブルを接続する。「カメラの映像は出せるか」ニンジャスレイヤーがそう言うよりも早く、埃だらけの監視ディスプレイには映像が映し出される。

「これは……先客がいた事には違いないらしい」ニンジャスレイヤーはディスプレイ映像の、血液に塗れたグロブスターの死体に目を留める。「施設を逃げ回りながら戦っていたのかしら」大半の映像チャンネルは機器の故障により虚無的な砂嵐しか映し出さないが、その死体は複数箇所に、少なくとも2体分確認できた。不幸な侵入者の末路は想像する他ない。

「記録映像はダメね。劣化がひどすぎる」ナンシーはUNIXからLANケーブルを引き抜く「でも、研究所への入り口は分かったわ」。部屋全体が振動し、ゆっくりと降下を始める。エレベーターだ。


長い長い下降を経て、茶室は不気味な機械音とともに停止する。茶室に面するドアは地下階への到着を示しているのか、白色から警告を表す緑色に変わっていた。

「開けるぞ」緑色の扉の先に、無数のパイプが這い回る潜水艦めいた通路が現れる。「行きましょう。この先に手掛かりがあるはず」ニンジャスレイヤーは頷き、警戒しながら通路の暗闇へと足を踏み出す。

それから二人は無言のまま、幾つも枝分かれした廊下を歩く。アリの巣めいた地下施設において、彼らが最初に目指すのは上級管理者のオフィスだ。幸いにも通路の各所には標札が設置されている。これを辿り、地下の詳細な地図とアクセス権限を盗み出す。慎重だが、確実な方法だ。

区画を隔てる水密ドアを開き、通路の左右に設けられた扉の先をひとつひとつ確かめながらニンジャスレイヤーは歩みを進める。

やがて「課長室」と書かれた部屋の前で二人は足を止めた。「不気味なほど静かね」ナンシーは道中に発見した謎のバイオ奇形生物の入ったシリンダー水槽を思い出し、扉の前で身構えた。「まて、何かが居るぞ」ニンジャスレイヤーは静かにナンシーを静止すると、扉に勢い良くキックを入れる「イヤーッ!」

CRAAASH!!金属製の扉がひしゃげて破壊され、ナンシーがすかさず最大光量にしたサイバーマグの光で課長室の内臓部をえぐり回す。「ARRRGH!!」突如ライト照射を受けた肉塊が激しくのたうち回る!「グロブスターよ!」

◆ナンシー・リー (種別:モータル/ハッカー)	
カラテ     1		体力	2
ニューロン  12		精神力	6
ワザマエ    4		脚力	2
ジツ       -		万札	10
◇装備や特記事項
 カルマ:【善】
 装備:生体LAN端子、サイバーマグライト、デリンジャー(チャカガンと同等)
 スキル:『IRCコトダマ空間認識能力』

「イヤーッ!」「アバーッ!?」ニンジャスレイヤーの右腕がムチめいてしなり、同時投擲された2枚のスリケンがグロブスターに突き刺さる!「ARRRGH!!」しかし仕留めきれぬ!やはり、飛び道具に耐性を持つのか!?何たる非凡なUMA耐久性!

「ARRRGH!!」グロブスターはのたうち回りながら、大口を開けてニンジャスレイヤーに襲いかかる。ニンジャスレイヤーは中腰姿勢から左手でパンチを繰り出しこれを迎え撃つ!「イヤーッ!」「アバーッ!」壁に叩きつけられたグロブスターは不快なゴアオブジェと化す!

「こんな地下にグロブスターが……いえ、きっとここはもう海中なのね。洋上ユニットの陰に、パイプめいて張り巡らされた」ナンシーは異臭に顔をしかめながら、小型ガスマスクを取り出して装着する。「つまり、どこかに海中からの入口があるということか」

「ここで放し飼いにされていたのでなければね」ナンシーが課長室に侵入し、デスクに埋め込まれたUNIX端末にLAN直結とシステムハックを試みる。十秒後、ブーンという音とともに、地下施設内全体の電灯が灯り、どこか遠い場所からタービンや大型排気ファンの作動音が聞こえ始めた。

「やったわ、施設全体の構造図を見つけた。二箇所に潜水ドックがあるみたい」ナンシーはケーブルを繋ぎ直し、抽出した地図データをサイバーマグライトで投影した。「そのどちらかからグロブスターが出入りしているということだな」「もしかすると、どこかに奴らの巣があるのかもしれないわね」

壁を伝ってグロブスターからバイオ体液が滴り落ちる。

「このUMAの正体は分かりそうか?ただのバイオ生物とは思えない」ニンジャスレイヤーは警戒しながら、潰れたグロブスターの死体に目線をやる。

「ダメね。このUNIXからアクセスできる範囲では、研究データは全部消されている。この調子だとあまり期待できないけど、所長クラスなら……待って、これは?」その場を立ち去ろうとしたナンシーは、デスクの後ろに貼り付けられた小さな金属製の箱に気がついた。

手に取った箱にはタコとクジラをモチーフにしたエンブレムが刻印され、LAN端子が備えられている。「もしかして……!」ナンシーがファイアウォールを素早く焼き切ると、小さくクリック音が鳴り箱の物理錠が解錠された。

ナンシーは微かに震える手付きで箱を開く。「ブッダ……!」そこにはラベルに4643とマーカーで書き殴られた1枚のフロッピーディスクが収められていた。来る日の研究再開に備え、職員が機密データを密かに保管していたものに違いない!

「ニンジャスレイヤー=サン!大当たりよ!」思いがけない発見に興奮するナンシーとは対照的に、ニンジャスレイヤーの目つきは鋭い。「話は後だ、ナンシー=サン。今すぐ移動するぞ」

ニンジャ聴力で油断なく警戒を続けていたニンジャスレイヤーは、再起動したタービンの作動音に紛れて、遠くから近づいてくる物音を聞き逃さなかった。ナンシーはニンジャスレイヤーを見た。「生体反応?」「遠いが、複数だ」ニンジャスレイヤーは眉一つ動かさず即答した。「備えろ」

「イヤーッ!」「アバーッ!?」通路に飛び出したニンジャスレイヤーは、遠く向こうから猛烈な速度で迫るグロブスターにスリケンを投擲する。命中するも、その背後には更に別のグロブスターの姿!

二人はサイバーマグライトで地図を確認しながら、進入路とは逆方向の潜水ドックへ向かって走って移動する。「イヤーッ!」「アバーッ!?」ニンジャスレイヤーのスリケンが追手に突き刺さる。「どうして私達の場所が分かったのかしら?」「皆目見当がつかん。だが、ニンジャが関わっていることは確かだ」

「迅速に元凶のニンジャを見つけ出し、殺す」ニンジャスレイヤーが淡々と言い放った、その時!「ARRRGH!!」曲がり角から突如グロブスターが襲いかかる!「イヤーッ!」「アバーッ!」カラテで吹き飛ばされるグロブスター!「待ち伏せされた……!?」

「「「ARRRGH!!!」」」この遭遇を皮切りに、アリの巣状に張り巡らされた通路のあちこちからグロブスターが出現する!「ナンシー=サン!私から離れるな!イヤーッ!」飛び掛かるグロブスターをニンジャスレイヤーのメイアルーア・ジ・コンパッソが吹き飛ばす!「「「アバーッ!」」」

「「「ARRRGH!!!」」」アリの巣状に張り巡らされた通路のあちこちからグロブスターが出現する!「イヤーッ!」切れ味鋭いカタナのようなチョップがグロブスターを真っ二つに切断! 「アバーッ!」「イヤーッ!」死体を蹴って飛び上がったニンジャスレイヤーは空中で二度蹴りを繰り出し、残るグロブスターを壁のシミに変える!「「アバーッ!!」」

「「「ARRRGH!!」」」「イヤーッ!」「「「アバーッ!」」」ニンジャスレイヤーは飛び掛かるグロブスターの勢いを利用し、ナンシーを襲おうとする別のグロブスターに背負投げめいて投げつける。「どんどん来るわ!キリがない!」BLAM!BLAM!BLAM!オートマチック銃のトリガーを引きながらナンシーが叫ぶ。このままではジリー・プアーだ!

「ヌウッ……!」新たなグロブスターをサイドキックで粉砕しながら、ニンジャスレイヤーは歯噛みする。このUMA存在はただ襲って来たのではなく、襲撃しやすい場所まで二人を追い立てていたのだ。今でさえ、敵は時間差で死角から襲いかかってくる。どこかに指揮官がいるに違いない……!

◇『???』:特定の状況下において、複数のグロブスターによる攻撃に
       『時間差』ないし『連続攻撃』のスキルを付与する。

「NO!?」カラテ打撃を逃れたグロブスターの1体がナンシーにのしかかり、粘性の液体を垂らしながら、タイトなサイバー・ダイビングスーツに包まれた体を飲み込んでしまう!「NOOOOOOOO!」「シマッタ!グワーッ!」示し合わせたかのように大量のグロブスターがニンジャスレイヤーに飛び掛かり、マウントポジションを取る!

この混乱に乗じ、ナンシーを飲み込んだグロブスターはどこかへと消え去ってしまう! ナムアミダブツ!

「「「ARRRGH!!!」」」「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」「「「ARRRGH!!!」」」カラテ戦闘の音が遠ざかるにつれ、ナンシーの意識もまた遠く遠くへと薄れていった。




◆◆◆





BEEP!BEEPBEEP

「ゲホッ! ゲホーッ!?」ナンシーはけたたましい電子音に意識を取り戻す。しかし同時に、自身がまだ冷たいグロブスターの腹の中に囚われていることにも気がついた。(((何?どうしてまだ私は無事なの?それともこのまま、ゆっくりと消化されるのを待つ運命ってわけ?)))

恐怖にニューロンが悲鳴を上げ始める。BEEPBEEPBEEPナンシーの脳裏にソーマト・リコール現象めいて、オキナワでの調査の記憶や、散々目にしてきた漂着グロブスターの映像が去来する。

BEEPBEEPBEEP

(((嫌よ!認めないわ!死にたくない!死ぬわけにはいかない!まだ私には成すべきことがあるのよ!)))真実の一端を手にしながら為す術もない無念さに、ナンシーのニューロンは泣いていた。おお、彼女もまた、あのおぞましきグロブスターの一部と成り果ててしまうのだろうか!?

BEEPBEEPBEEP

しかし、暗い思考を邪魔するかのように鳴り響く発生源不明の電子音が、かえって彼女のニューロンを冷静にさせる。体の感覚はある。怪我も大したことはない。そして手には……まだデリンジャーが握られている!

(((動いて!動くのよ、私!相手はニンジャじゃない……!)))ナンシーは疲労で固まった腕を少しずつ動かし、闇雲に銃のトリガを引いた!BLAM!BLAM!BLAM!「アバーッ!?」「ンアーッ!?」

BEEPBEEPBEEP

突然の銃撃にのたうつグロブスターは勢いよくナンシーを吐き出す!敵の非凡なUMA耐久力を知るナンシーは、地に倒れたまま震える手で銃を構え直し、苦しむグロブスターに再度銃撃を加えた! 「TAKE THIS!」 BLAM!「アバーッ!」力を失った肉塊はぐったりと地に倒れ伏す。

BEEPBEEPBEEP

「ハァーッ! ハァーッ!」ナンシーは地に伏せた姿勢で息を整えた。体が滑り、うまく立ち上がれない。破れかけたダイブスーツは、謎めいたバイオムチン粘液によってヌルヌルと輝いていた。

BEEPBEEPBEEP

アドレナリンが引き、カジバ・フォースの反動と極度疲労から体の節々が痛み始める。「一体、何……」そこでようやくナンシーは、電子音の発生源が腰元のビーコンであることに気がついた。これは即ち、探し求めていた別のビーコンが近くにある証拠である。

BEEPBEEPBEEP

ナンシーは恐る恐るビーコンの方位表示を目にした。その矢印ははっきりと、ナンシーの真後ろを指し示していた。

そしてナンシーは背後の陰に気が付き、振り向いた。

「ヒッ!」それは十数メーターはあろうかという巨大な腐肉の塊。否、無数のグロブスターの集合体! それがナンシーの僅か数メーター後ろで、新鮮な得物を待ち受けるかのように蠢いている!

BEEPBEEPBEEP

ナンシーはまだ薄っすらと透ける青白い肉塊を通して、あり得ない形状にまで膨張した複数の人影らしきものを見た。

読者の皆さんはもうお分かりのことだろう。グロブスターとは単に人間を襲って食べるバイオ生物ではなく、彼ら自身がこのネストに連れ去られた後、何らかの手段で異常変質させられた人間の成れの果てだったのである……! コワイ!

肉塊の上部から、ぼとりと新たなグロブスターが落下してくる。ナンシーは加速したニューロンで待ち受ける残酷な末路を予期し、絶叫した。

「アイ、アイエエエエエエエエエエエ!」


【最終セクションに続く】



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