京都府綾部市で過ごした夏が、とても贅沢な時間だった
8月26日と27日を京都の綾部市で過ごしたのだが、一番贅沢な時間の使い方とは「なにもないところで、なにもしないこと」かもしれないなと感じたので、今日はそのあたりを書きたい。
昔に読んでいた『花より男子』の中で、「旅先であくせく観光するのはパンピーだけ」という桜子のセリフ(細かな言い回しは違うかも)があった。
要は「金持ちはバケーションで移動しまくって疲れるようなことはせず、ゆっくり過ごすんですよ」ということだと解釈できる。
そういう意味では、旅行に行けば時間の許す限りご飯屋さんや景勝地をまわることに心血を注ぎまくるぼくは、パンピー中のパンピーといえるかもしれない。
観光に時間を割いて食事や景勝地まわりを楽しむのが旅の醍醐味であり贅沢な時間の使い方である!と考えていたパンピー界代表のぼくが、1泊2日を過ごした綾部旅で、桜子が言っていることの意味を少し理解できた気がする。
京都府綾部市ってどこ
綾部市は京都府の北部に位置し、港のある舞鶴市や京丹後市、明智光秀が築いた城がある福知山、北陸地方の福井県、自然豊かな丹波などと隣接している。
自然が豊かで、いわゆる「田舎」と呼ばれるような場所だ。
言わずもがな、ぼくが生まれ育った地元でもある。
綾部で生活していた当時や、大学進学で京都市内へ出て社会人となる20代前半を思い返すと、故郷の良さを考えることなど皆無だった。
むしろ、海のある舞鶴や京丹後、歴史的に知名度の高い丹波の名のつくエリアと比較すると、とくに特徴のない田舎だと思い込んでいた。
だけど、20代後半から綾部に関するブログを書くようになってからは意識的に綾部の名所や特徴について目を向けるようになり、「あれ?綾部って結構いい町かも」と思い至るようになった。
地元を出てからこそ気づく地元の良さというか。
とくに「夏の綾部の景色って実は最高なのでは?」と思う。
上記の写真は綾部の中でもとくに自然が豊かな上林(かんばやし)エリアの「市志(いちし)」というところで撮影した。
上林は綾部市内における東側、福井県と隣接するエリアだ。
撮影した集落を流れる透明度の高い川には、放流された鮎や、小魚、サワガニたちがビビるほど生息している。
後輩が綾部へ遊びにやってくる
「夏の綾部は最高やから、おいでよ」
仲良くなった人には、一回くらいはこのセリフを伝えてると思う。
綾部出身のぼくはいま大阪に住んでいるから、半分冗談で半分本気なんだけど、まわりの友人の多くは「いいね」と言ってくれる。
だけど、これまで実際に来た人はいない。
来た人がいないのは、綾部に魅力を感じてもらえるようなプレゼンができていないか、もしくはシンプルにぼくの「信用がない」からという可能性も否定できないけど、社交辞令的な会話に終始してしまっているからだろう。
言ってる本人が半分冗談なわけだし。
とはいえ、半分本気で言っているのにもワケがある。
それは綾部における夏の風景が本当に素晴らしいと思っているから。
これまでの画像を見てもらえたら、ぼくが言わんとしていることは伝わると思う。
下手に言葉で説明しないほうがいいかもしれない。
誰も来てくれないのに懲りずに誘うことを続けていたら、ここ3年ほどよく遊んでいるアウトドア好きの後輩M君が「今年の夏は綾部で遊びましょう」と言ってくれた。
最初はよくある社交辞令だと思っていたけど、実際に行く日程まで抑えられたので、どうやら本当に綾部へ来る気らしい。
それならば、こちらも本気でおもてなしせねばなるまい。
「せっかく地元に来てもらうんだから、目一杯楽しんでもらおう!」
と、はりきって計画を立てようとしたところで思考が停止した。
「誘ったはいいものの、どこに案内すりゃいいんだ———」と。
景色がいいことはわかってはいるものの、実際に人を案内するにしても車がない。
都心に比べてバスや電車が少ない田舎で車がないのは致命的。
加えていえば、車がないどころか、そもそも綾部のどこに、なにがあるのかもちゃんと把握できていない。
そりゃそうだ。
綾部市といっても横に広く、自分が住んでいたのは綾部駅のある市街地であり、自然が豊かな上林エリアにも数えるほどしか行ったことがない。
上林などへ行く時も地理に詳しい人の運転で、自分は助手席で景色を楽しんでいただけだった。
しかも最近に至っては、帰省しても実家で寝るか食うかしかしていない。
地元をおすすめしている立場でありながら、地元のことをまったく分かっていないという矛盾を抱えていたぼくは、綾部在住の人に助けを求めることにした。
それが上林で里山ゲストハウス クチュールを運営する工忠さんで、年間数百人が訪れるゲストハウスをご夫婦で運営されており、お二人とも綾部へ移住されてきた方々だ。
綾部は市としても移住に力を入れており、工忠さんたちも綾部への移住を希望する方々向けのツアーを企画・実行するなど精力的に活動されている。
つまり、綾部のことをよく知っておられるわけなので、これは頼らない手はないなと早速連絡し、初日のアクティビティ、温泉、晩飯の予定は完全に提案されたとおりのツアーを組んだ。
しかも今回は電車とバスを駆使する予定としていたので、交通機関がない場所での送迎の手配までしていただき感謝しかない。
ほんとありがとうございました。
宿については、工忠さんはたちが管理されている一棟貸しの宿の方が空いていたので、そちらを予約させていただいた。
木の香りが感じられる居心地のいい宿だ。
宿も決め、電車やバスの時間も調べた。これでなんとかなりそうだ。
1泊2日、夏の綾部ツアー
大阪市内から綾部までは電車で2時間かからない程度と、意外に近い。
京都駅から綾部駅までは特急電車で約1時間。
しかし特急電車は1時間に1本しかなく、1本逃すといろいろ終わるから注意が必要だ。
〜1日目〜 カヤック、温泉、上林鶏
・9時半に大阪駅を出発し、11時半に綾部駅着
青空が広がる最高の天気で気温は35度を超えた猛暑日だった。
クーラーボックスを持って行ったので駅前のフレッシュバザール(旧:フレッシュさとう)でビールと昼飯を購入。
今回は車移動ではないので、自由自在にビールが飲める。最高。
・12時半 カヤック体験のため山家駅へ
初日昼のアクティビティはカヤックだ。工忠さんに紹介いただいた、リバーウオーカーさんで半日コースを予約。
綾部駅から電車で一駅の山家駅から歩いて5分のところにある。
この電車も1時間に1本しかない。
目当ての電車を逃すと、あとの予定もぜんぶ逃しかねないので注意が必要だ。
そして、山家駅は無人駅。
というか、綾部あたりの駅はほとんどが無人駅となっている。
交通系ICで決済できないうえ、降りられるのは先頭車両の前の扉だけ。
降りる時は、先頭車両まで行って車掌さんに切符を渡さなければならない。
こんなことは田舎なら当たり前の光景だ。
ぼくは綾部出身者であるにもかかわらず、そのあたりの事情について完全に疎くなっており、2両目でドアが開かないことに多少のパニックを起こしてしまった。しかも綾部駅からsuicaで乗車してしまっている。
あやうく地元で無賃乗車してしまうところだったが、ちゃんと綾部駅で処理してもらえば問題ないということで無事に下車できた。
・13時からカヤック開始。
注意事項と簡単な操作方法を学んで、早速川へ。
最初は操作に戸惑ったものの、徐々に慣れてくる。これは楽しい。
途中、川からでないと入れない滝に打たれたり
飛び込んだり
最高に川を満喫できた。
・16時のバスであやべ温泉へ
カヤック体験を終えて、山家駅でバスを待つ。これから上林にある「あやべ温泉」を目指す。車じゃないからビールが飲める。最高。
あやべ温泉までは綾部市民の足となっている、あやバスを使う。初めて乗ったが、乗客は少ない。ていうか、いない。自家用車での移動が多いからか、日中は暑くて外に出たくないからか、ちょっとわからない。
ちなみに、上林であやバスを利用しようとすると、時間帯によってはまったく来ないこともある。
1本逃すと山の中で途方にくれる可能性もあるので、マジで注意が必要だ。
・17時 温泉でゆっくり
あやべ温泉の写真を撮り忘れたので詳しくは下記HPを見て欲しい。
露天風呂からは悠然とそびえる山を眺められる。自然を感じながらゆっくり湯に浸かる至福の時だ。
ちなみに、あやべ温泉の敷地内にはグラウンドゴルフやキャンプ場、さらには巨大迷路まであるなど、エンターテインメントな温泉となっている。
宿泊サービスもあるが、残念ながら9月30日で終了するらしい。
温泉は引き続き利用できるし、気持ちがいいので綾部に来たらぜひ行ってみてほしい。
・18時 拍屋さんで夕食
夕食は、あやべ温泉から歩いて5分程度のところにお店を構える「拍屋」さんへ。
こちらのお店では、飼育されている新鮮な上林鶏を食べさせてくれる。工忠さんから教えてもらったお店で、予約もしていただいた。まさに至れり尽くせり。
いただいたメニューは鉄板焼き。野菜と一緒に楽しめるのが嬉しい。
肉だけを焼くのもよし、野菜だけを焼くのもよし、肉と野菜を一緒に炒めるのもよしと、好きなように楽しめるのがいい。
当日の朝に締められたという鶏は、新鮮で肉厚。ジューシーでとにかく旨みがすごい。普段買うような鶏肉とは一線を画している。
いつものスーパーに売られている鶏とほんとに同じ動物か?と思えるほどに、上林鶏は美味い。
焼肉タレもいいが、ここは塩でいってほしい。鶏の旨みが最大限に引き出されることは間違いない。ビールと一緒にかっ喰らおう。
生卵もついてくるので、卵かけご飯も楽しめる。黄身がでかい。お腹が空いている時に食べると、美味すぎて5秒でなくなってしまうから注意しよう。
・20時 宿泊先へ
厚意により宿泊先まで送迎いただき、前述した宿へ。
この日は少し雲がでていたため見えにくかったが、上林は星も綺麗なので、夜空を見上げならビールを飲むと、そのまま優勝できるはずだ。
宿についてからも引き続きビールを飲み、マンガを読むなどしてゴロゴロ過ごす。
最高の時間を木の香りと虫の鳴き声を聞きながら過ごしていると、いつの間にか寝ていた。
〜2日目〜 川、市街地へ
・9時起床
前の晩に、拍屋さんで購入したパンとカフェオレで優雅な朝食。
・12時半のバスまで川で涼む
とにかく川の透明度がすごいので、写真を見て欲しい。
なにをするでもなく、裸足で清流を感じながら飲むハイボールは最高だった。
・14時 綾部の祇園(と勝手に呼んでいる)「月見町」でランチ
山々の景色を楽しみながら、1時間ほどかけてバスで綾部市街地へ戻る。昨日同様、あやバスにはほぼ人が乗っていない。
ランチは、20代の頃に友人たちとの忘年会で必ず利用していた「柿蔵」さんでいただいた。これも上林産の鶏らしい。美味い。
・15時発で大阪へ
ランチを食べたらいい時間となったので、京都経由で大阪へ。
なにもないところで、なにもしない贅沢
今回の旅ではアクティブに活動する時間もあれば、川でボーッとする時間もあった。
バスでの移動を除けば、温泉で、川で、バスを待つ停留所で、ほとんどボーッとしていた気がする(ボーッとしながらもビールは飲んでた)。
綾部は都会と比べると
電車やバスは少なく確実に不便で、
無人駅では電子マネー使えないし、
街灯も少なくて上林の夜なんか真っ暗で慣れていないと少し怖いうえ、
市街地以外は居酒屋もカラオケもスナックもコンビニもない。
都会に比べると、なにもない。
だけど、それがいい。
川に足をつけてボーッとし、気が向けば近くを散歩していた2日目の朝のように、なにをするでもなく、なにもしないあの時間が一番贅沢だった気がする。
まわりは静かで蝉の声や川の水が流れる音くらいしか聞こえず、人も少ない。ゆっくりとした時間が流れ、なにかに急かされるようなこともない。
余計なストレスを感じることもなく、目の前の美しい自然と向き合うことに集中できたあの時間。
綾部の夏の旅のハイライト。
「なにもしない時間が一番贅沢」
そう思わずにはいられない、綾部の夏の旅だった。