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【公開記念連載コラム】<『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』はどんな作品?>(3)「カナダのフランス語文化圏で物語の舞台・ケベックについて」

ニューディアー配給で9月12日公開予定の『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』。公開まで1ヶ月を切った本作について、コラムとして不定期に作品紹介をしています。第三弾は、本作の物語の舞台とその背景について紹介します。題して「カナダのフランス語文化圏で物語の舞台・ケベックについて」です。

過去のコラムはこちら「【公開記念コラム】『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』はどんな作品?」

カナダの公用語が英語とフランス語であるということは良く知られていますが、フランス語文化圏の中心地が、東部に位置するケベック州であることはあまり知られていないかもしれません。ケベックは、フランコフォンと呼ばれるフランス語を母語とする人々が数多く暮らしている地域なのです。

ケベックに住む人のカナダからの独立を目指す気運は1960年代にケベック党の結成へといたり、持続的な政治運動として展開されています。74年にフランス語は公用語として認められ、現在に至るまでケベックは、カナダからの独立も視野に入れた住民投票を80年と95年の2回実施しています。

近年では14年に行われたスコットランドのイギリスからの独立を問う住民投票が記憶に新しいところではありますが、ケベックでもこのような長期にわたる政治的な駆け引きが繰り広げられてきたのです。

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『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』の舞台となっているのは、こうした背景を持つ、95年の住民投票前後のケベックです。監督を務めたフェリックス・デュフール゠ラペリエールは、81年ケベック生まれ。2度目の住民投票をティーンエイジャーのころに経験している世代にあたります。

当時14歳のラペリエール監督はこの政治的緊張について、音楽に夢中だったということもあり、距離を持って眺めていたと語ります。しかし独立運動に関わっていた祖母やほかの家族が、独立の否決を悲しんでいたことはよく覚えていると回想しています。

『新しい街』は、こうした監督自身の経験に深く根ざしたものでもあり、故郷への複雑な感情が投影された作品でもあるのです。そんな民族的な意識の高いケベックの州都、モントリオールには、人々のフランコフォンとしての矜持と新興国としてのカナダという立ち位置が混ざりあっています。

だからこそモントリオールでは、既成の枠組みにおさまらない、先鋭的なものが追求されています。アーケイド・ファイアをはじめとした商業性と実験性を兼ね備えたバンドを輩出し、カンヌ国際映画祭の常連でもある映画監督グザヴィエ・ドランもモントリオール出身として有名な人物です。

そして詩的な映像表現が魅力的な『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』もまた、こうした文脈上にある作品だと言えるでしょう。しかしだからといって、この物語はモントリオールのドメスティックな描写に終始しているわけではありません。

なぜなら登場人物たちが口にする言葉は、単純なカナダ政府批判というよりも、自己決定や集団的意思のあり方に関するものが多いからです。それによって本作は普遍的なアイデンティティを巡る問題として私たちにも深い問いを投げかけています。

ケベック固有の題材を、誰もが共感しうる物語として昇華した『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』は9/12(土)よりシアター・イメージフォーラムを皮切りに、出町座、テアトル梅田、上田映劇、横浜シネマリンにて全国順次公開です!

本作の最新情報は、公式ツイッターアカウントをチェック!

https://twitter.com/ND_distribution

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