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【公開記念連載コラム】<『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』はどんな作品?>(13)「『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』から考えるアニメーション表現の未来」イベントレポート

シアター・イメージフォーラムで現在絶賛公開中の『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』。10/16〜テアトル梅田、10/17〜名古屋シネマテーク、10/23〜出町座、10/24〜上田映劇と、いよいよ東京以外での上映もスタートします。そんな本作のことをもっと知ってもらうために、その魅力や背景をコラムとして不定期で投稿しています。

第13弾は9/30に池袋のコ本やにて行われたイベント、GEORAMA/Mercaアニメーションスクール #02 「『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』から考えるアニメーション表現の未来」の模様をダイジェストでお送りします!

過去のコラムはこちら「【公開記念コラム】『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』はどんな作品?」

今回のイベントタイトルにもなっている「GEORAMA/Mercaアニメーションスクール」とは、登壇者でもある石岡良治(批評家、表象文化論、ポピュラー文化研究)、高瀬康司(サブカルチャー批評、アニメーション研究)、土居伸彰(株式会社ニューディアー代表)の3名を講師とする不定期のスクール企画です。

講師はそれぞれ個性のあるメンバーばかり。石岡さんはニコニコ動画「石岡良治の最強伝説」『現代アニメ「超」講義』といった著作で日本の商業アニメの批評を手がけており、高瀬さんはカルチャー批評ZINE『Merca』やアニメ実作者へのインタビューを通じ制作と批評をつなげる活動をしています。

そんな2人に海外のアニメーションシーンをウォッチし続けるニューディアーの土居が加わることによって、製作体制の規模や国内海外を問わず進行するアニメーション表現の現在進行形を、ディスカッションやレクチャーを通じて探っていくことを目的としています。

今回のイベントは、このスクールとのコラボ企画。『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』のブルーレイの購入者特典の解説映像の収録というかたちで開催されました。進行としては土居がスライドを見せながら、石岡さんと高瀬さんがコメントを行い、最終的には3人入り乱れての闊達な議論が展開されました。

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まずはじめに土居から本作の制作を指揮したフェリックス監督についての紹介がありました。監督は実験映画など様々な作品を作りながら、試行錯誤のなかで長編アニメーションというフォーマットにたどり着き、結果として『新しい街』はケベック初の大人向け2D長編アニメーションとなりました。

長編アニメ映画が日常的に公開されている日本ではイメージしづらいことかもしれませんが、制作に大きな手間のかかる長編は、アニメーションが産業として確立した国(代表的な国としてアメリカ、日本、フランスなどがあります)以外ではなかなか珍しい形式なのです。

しかし近年、助成金を活用するなどして、これまで長編を製作していなかった国の長編作品が目立ってきています。フェリックス監督はプロデューサーとしても活動しており、産業的な部分にとらわれず、柔軟にファンディングを想定できたからこそ、『新しい街』という前代未聞の作品が完成したのです。カナダは元々短編アニメーションが盛んな国ではありますが、結果としてニッチなジャンルになっていた「長編」に監督は目をつけたのです。

また、プロデューサー気質のアニメーション監督は、制作リソースを「適材適所」に配置することに長けていると土居は指摘します。作家性の強い長編アニメーションは、監督が可能な限り作画をする傾向にありますが、本作ではマルコム・サザーランドを中心に、カナダで活躍するアニメーション作家たちが参加しています。これもまた、フェリックス監督のプロデューサー気質の現れだと言えるでしょう。なお、同時期に公開となった『マロナの幻想的な物語り』のアンカ・ダミアン監督もこのような気質を持った人物であり、『マロナ』ではプロデューサーも兼ねています。

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その一方で作家性もしっかりと『新しい街』には刻印されています。たとえば石岡さんは劇中でタルコフスキーの映画を見に行くシーンがあることについて、ある種のフランス映画が好んできた映画内映画の演出がこの監督のシネフィル的な性格を浮き彫りにしつつ、一方で、アニメーション作品の個性として、手描きにも関わらず手間をかけて家などが回転させる演出に注目しています。この回転するアニメーションは、立体性のあるイメージの創出がメインストリームとなる3DCG以後の想像力が可能にしているともいえるもので、本作を(モノクロでありながらも)21世紀の作品として徴づけている重要なポイントだと指摘しました。

それに対し土居は、その回転は多面性の表現として解釈できるのではないかと述べます。見る角度によってまったく違った印象が生まれる本作は、モノローグの並列や、明確なきっかけのない登場人物のふるまいの変化によってつかみどころのない印象を与えますが、土居はそれを「名状しがたさ」と表現します。

石岡さんは、そのフレーズに反応します。本作の表現手法は、安易に「不気味さ」や「異化効果」という言い方で回収されてしまう可能性があるけれども、土居が述べた「名状しがたさ」「実在感(プレゼンス)」といったキーワードは、そこから逃れるために有効であるのではないかとコメントします。

それをうけてさらに土居は論を発展させます。本作の立体的なアニメーションが「実在感(プレゼンス)」を表現していることは、現代的なアニメーションのあり方のひとつの特徴をも浮き彫りにしてくれると指摘するのです。立体性とは、近年のアニメーションで大きく浮上してきたトピックであり、運動によってリアリティを出すのではなく、ボリュームを持って立ち現れることで、その世界の中に確かに存在しているようなリアリティを感じさせるような状態であり、ウェス・アンダーソン監督『犬ヶ島』や山田尚子監督作品にも同様のリアリティがあるのではないかと述べます。そしてそんな立体的な感覚が『新しい街』にも流れており、それが生み出す「名状しがたさ」が、本作における個人と集団の分かちがたさや、濃密なリアリティを生み出すのではないかという解釈が披露されました。

終盤の3人でのディスカッションパートでは、本作の”原作”として使用されたレイモンド・カーヴァーの日本での紹介者が村上春樹だったことに絡めながら表現と政治をめぐる刺激的な応酬があり、この作品を配給した土居の真意などが語られ、議論の熱はさめることなく終了時間を迎えました。

冒頭にも記しましたように、本イベントのアーカイブ映像は公開劇場限定で発売のBD(3500円)を購入することでご覧いただけるようになります。BDは、その他特典も満載詳しい内容については、こちらの記事のご確認をお願いします!

『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』はシアター・イメージフォーラムで絶賛公開中!今後、テアトル梅田(10/16)、名古屋シネマテーク(10/17)、出町座(10/23)、上田映劇(10/24)、横浜シネマリン(11/14)、金沢シネモンド(近日)、神戸アートビレッジセンター(公開日未定)にて全国順次公開となります!YouTubeでは特別メイキング映像も絶賛公開中。ぜひご覧ください!

なお、出町座では10/23にニューディアー土居伸彰がアフタートークを行うことが決定しておりますので、関西圏の方は是非こちらにもお越しください。

本作の最新情報は、公式ツイッターアカウントをチェック!

https://twitter.com/ND_distribution

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