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【かたみわけ】#1 殺意/Gilles de Rais

手持ちの90年代V系CDを生前整理する、聴き直しディスクレビュー。
1枚目はGilles de Raisの2ndアルバム『殺意』です。

アーティスト:Gilles de Rais(ジル・ド・レイ)
タイトル:殺意
リリース:1992年?
(CDケース裏には「(P)1991 Extasy Records Co.,LTD」と記載があります
が、Wikipedia等では1992年とされています)

CDの撮影が難しすぎて……上手に撮れる方法をご存じの方はどうかご教授ください……
裏側
ブックレット

1:購入した経緯

ライブを観てファンになってから、通販で購入したと思います。ということはエクスタシー・レコードから通販したのかな……? ネットがなかった当時、どうやって通販したのかまったく覚えていないのですが、郵便局で振込したのかな……。

2:私的アーティスト紹介

90年代V系に関する、本格的な音楽評論や考察などは既に多くの方が手がけているので、この「かたみわけ」ではなるべく個人的な思い出を書こうと思っています。あの頃のリアルな空気感を知りたい若い方や、ふとあの頃が懐かしくなった同世代の方に届けば幸いです。

Gilles de Raisとの出会いは、本当に偶然でした。
高校生当時、バチバチのSLAVEに仕上がっていた私は頭の中が常にLUNA SEAでいっぱいだったのですが、どこかから「横浜7th AVENUEの年越しオールナイトイベントにLUNA SEAがシークレット出演するらしい」という噂が舞い込んできたのですよね。
それで「本当かな?」と言いつつ友達と一緒に足を運んでみたのですが、そのとき最前柵でたまたま隣に立っていた女の子が「ね、ジルド観に来たんでしょ?」と話しかけてくれたのです。
確か、出演が発表されていたバンドのなかで「黒い」そして「確実に動員が多い」のがGilles de Raisだったので、私たちの雰囲気(たぶん黒服でした)を見て声をかけてくれたのですね。
でも、まさか出るか出ないかわからないLUNA SEA狙いで来たとも言えず「えっと……」と口ごもっていた私たちに、彼女はとても気さくにいろいろ話しかけてくれました。
そのまま彼女とおしゃべりしながら18時台からずっと最前に立ち続け、結局0時になってもLUNA SEAは来ず(ガセでした。草)、夜中2時くらいだったかに登場した彼らを観た……それが初めてのGilles de Rais体験でした。
ライブの具体的な記憶はないのですが、確か最後にヴォーカルのJOEさんがフロアにダイブしてきて私はオーディエンスの雪崩の下敷きになり、上から人がどんどん折り重なってくるのがスローモーションのように見えたのは覚えています。生まれて初めて「死ぬかもしれない」と思った体験でした。

こんな風に、現場でバンドを偶然観てその後ファンになるという流れ、今の時代もきっとありますよね。
その後、受験の準備期間に入るまでライブによく行っていましたが、私はギターのJACKさんのファンでした。ファンレターを送ると、いつもお返事をくださってとても嬉しかったです。高校の美術の授業でJACKさんの絵を描いたものをプレゼントしてしまったこともありましたが(邪魔なものを……その節は本当に申し訳ございませんでした)、それに対しても「ありがとう。なんだかタッカン(LOUDNESSの高崎晃さんですね)に似てるなあ」とお返事くださったのも覚えています。本当に筆まめでファン思いな方で、クリスマスには手書きのクリスマスカードを送ってくださったこともあったんですよ。お優しい!
バンドイメージはかなり硬派で(EXTASYですからね)ライブも攻撃的な雰囲気だったので、今振り返ると意外な一面だったかもしれませんね。

3:聴き返しての所感

まだ人に殺意をいだいたこともなかった10代当時の私の目には、ジャケット裏の「殺意」という太明朝体のこの文字が、何かカッコいい模様のように見えていました。
私がGilles de Raisを好きになった理由は、こういう過激さと攻撃性だったのだろうと思います。XやLUNA SEAが既にドーム・アリーナクラスのバンドに成長していた当時、このアンダーグラウンド感が逆に刺激的だったのでしょうね。

エクスタシー・レコードからリリースされた本作は、バンドにとっての2ndアルバム。人気曲はおそらく「SUICIDE」「殺意」「崩れ落ちる前に…」あたりで、自分も記憶に残っているのはこの3曲ばかりだったのですが、改めて聴くとこのアルバム、すごく面白い!
トガッた疾走感と、幻想的な歌詞で、さまざまな世界観へといざなう13曲のラインナップ。
「ポジパンっぽい」と言ってもいいのかもしれませんが、耽美にはどうしても収まらないヤンキーの血潮を感じるところがEXTASY……。それに、JACKさんのギターにそこはかとなくメタルのルーツを感じるところもあるんですよね。8曲目「CIBER PUNK」の前に入っているインタールード的なギターソロなどまさにそうで、メタル系のギタリストのソロアルバムにはきっとこういう曲が入っているんだろうなあという感じがします。

各曲を具体的に追っていくと、まず①「SUICIDE」から②「MOON LIGHT LOVERS」へ、間髪入れずに行くところがかっこいい。聞いた話によると、サブスクは曲間の秒数を変えられないらしいので(誤りでしたらすみません)、これはCD時代ならではの表現ですね。
「UP TO DATE」のイントロのギターもたまりません! 高音弦で静かなフレーズを聴かせた直後、性急に畳み掛けてくるこの感じ! That's 90's!
そして④「殺意」の、ミステリアスなギターソロとセリフによるシアトリカルな導入。「君は今まで、何人の人を裏切ったことがある?」……そうだ思い出した! JOEさんとこのセリフを読み合っているのは、Lucifer Luscious Violenoueさんなんですよ! ご本人は中性的な麗人ですが、声もお美しい……声優さんのようです。ツタツタツタツタのビートと鋭利なリフがかっこいい曲ですが、友達が「このリズムに合わせて大根おろす」と言っていたのを今も覚えています。コーラスの声がびっくりするほどデカくて大勢の人が参加していそうな感じ(『BLUE BLOOD』の「X」「オルガスム」のように)がしますが、実際どうだったかな? 今では「殺意」といえばDEZERTかもしれませんが、若い方にはこちらの「殺意」もぜひ聴いてみてほしいですね。
⑤「BRAIN FOR DELIRIUM」は展開がめちゃくちゃアバンギャルドで、打ち込みも導入しています。近年のV系バンドが「ライブでのノリやすさ」「一体感の作りやすさ」に言及することが多いのとは真逆な感じですが、これは日本でフェス文化が浸透する以前・以降で価値観が変わったところもあるのかなあと思ったりしました。
⑥「K³ NOISE」は、同一フレーズのほぼ繰り返しというシンプルな構造ながら、それでもここまで熱量を上げられるぜという曲。
⑦「崩れ落ちる前に…」は、歌詞に出てくる「ルジラ(血)」というワードがずっと気になっていたのですが、サンスクリット語のようですね。当時は調べる術がなかったので、ネット時代に感謝です。「何かに怯え眠った夜は……」の長い長いコール&レスポンスで声を枯らした思い出。そしてJOEさんの「お前の前で開けよう……かァ!!」というフェイク、きっとみんな大好物ですね。
⑩「巴里祭」は、このアルバムのなかで最も異色といってもいいと思います。陰鬱なシャンソンか子守唄のような曲調で、たとえるならD'ERLANGER『LA VIE EN ROSE』でいう「DEAR SECRET LOVER」、あるいは三拍子なのでLUNA SEA『EDEN』でいう「Providence」のような立ち位置でしょうか。SINNさんのスネアの音が、物悲しい雰囲気を作っていますね。JOEさんの極限まで低いキーも聴きどころ。
⑪「FOLLOW ME」も、「NO,NO,NO,」のところライブで頑張って腕振り上げてノッてたな〜。
そして⑬「PEOPLE  OR PEOPLE」は、10代の私には「これがアルバムラスト? うーん」という感じで正直あまり刺さっていなかったのですが、今聴くと味わい深い良曲です。メインはDEEさんのベースで、ギターがそこに彩りを添えるというバランス。そのギターの「ビーン」という弦の響きも臨場感があって素敵です。しかしBメロのときにL側で鳴ってる、アメリカンクラッカーみたいな音は何だろう……。

このような感じで、本当にインディーズ2作目なの?というほど貫禄ある意欲作で、20年ぶりくらいに聴き直しましたが改めて驚いてしまいました。
ちなみに「ジャケット楠本まきじゃないのか問題」については、ご本人が否定されています。楠本まき先生といえばあの頃のロック少女の憧れだったので、画風に影響を受けた方も当時は多かったのでしょうね。
(別アカウントで展覧会のレビューを書いております)

さて、1枚目のレビューということで気合が入って少し長くなってしまいましたが、Gilles de Raisについてはあと2枚所有していますので、また改めて書きたいと思います!ありがとうございました。


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