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日本酒 古酒・熟成酒飲み比べ(岐阜市 合資会社 白木恒助商店 達磨正宗 熟成古酒 2020年・2018年・2015年・2013年・2012年・2010年)、そして、白木会長のお話

日本酒熟成・古酒では、最も有名な酒蔵のひとつ、岐阜市の白木恒助商店(しらきつねすけしょうてん)。

先日、その会長である白木善次(しらきよしじ)さんのお話を聞くオンライン・イベントが、長期熟成酒研究会の主催で行われました。

達磨正宗飲み比べ

まず、白木会長のお話を聞きながらいただいた、達磨正宗の飲み比べ。
右から、達磨正宗 熟成古酒 2020年・2018年・2015年・2013年・2012年・2010年です。

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全て、同じ造りの純米酒で、精米歩合70%から75%、アルコール度数16度以上17度未満です。
白木恒助商店さんのサイトに掲載されている商品のなかだと、「未来へ」にあたるとのことでした。

ところで、以前、日本酒の醸造年や熟成年数は、ラベルに記載があっても、とても分かりにくい、という話をしました。

原因のひとつは、お酒を造った年が、多くの場合、普通の人には馴染みがない酒造(醸造)年度で記載されているからです。
この「酒造(醸造)年度」は、何と7月1日始まりで、翌年6月30日までなんです。
こんなことを知っている消費者なんて、ほどんどいないですよね。

白木恒助商店さんでは、お酒を造られた年を暦年で表示しています。
なので、とても分かりやすいです。
できれば、これを日本酒のルールにしてほしいな、と。

達磨正宗 2020年

色は、黄色に近いレモンイエロー。

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タイ料理などのエスニック料理に合いそうなお酒です。
と言うのも、香りが少しスパイシーで鼻にすーっと来る感じがあるから。
ヨーグルトのようなおだやかな酸っぱい香り、みたらし団子のたれのような甘旨に感じる香りもあります。
味は、甘旨に酸味が加わった感じで、余韻は、そんなに長くない。
ことに二口目からは旨みがパッと消えた後に、ほのかな苦味が続くキレのよさも、辛い食事にぴったりです。

達磨正宗 2018年

色は、2020年ものにとても似ていて、より黄色に近いレモンイエロー。

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色、香りは、2020年ものと似ていますが、野菜のてんぷらとかと合いそう。
より濃厚なみたらし団子のたれのような甘味と旨味を感じる香り。
味と余韻は、2020年ものとかなり違います。
酸味と甘旨味がしばらく続いた後、苦味が少し加わる感じ。
余韻は、結構長い甘旨味のあと、ほんのりとした酸味と苦味が続きます。

達磨正宗 2015年

黄色に数滴ブラウンが加わったような色。

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焼き鳥とか照り焼きが食べたい!
旨味の中に甘味があり、酸っぱくなったあと、甘旨味に覆われた酸味と苦味が続く、ふくよかなおいしさ。
少しスパイシーな感じの、しいたけの甘旨煮のような香りも、素敵です。

達磨正宗 2013年

2015年ものとほぼ同じ色だけど、ほんの少し濃い色、黄色っぽい琥珀色。

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ナッツ、チーズ、天ぷらとかが合うお酒です。
2015年ものに比べると、香りには、より甘味や旨味、コクを感じますし、味も、よりふくよかでまとまった味わい。
甘旨味に覆われたほどよい酸味と淡い苦味、その後続く甘旨味の、長〜い余韻が楽しめます。

達磨正宗 2012年

2015年ものや2013年ものと似ているけど、より琥珀色に近い、淡い琥珀色。

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揚げ物、濃厚なソースをかけたとんかつとかが食べたくなる!
チーズとも合うと思います。
しっかりした甘旨味が、揚げ物に負けません。
しかも、そのあと酸っぱくなって、また甘旨くなり、少し苦味が加わる複雑な味わいです。
香りは、2013年ものや2015年ものと似ていますが、さらに甘味と旨味が凝縮され、よりまろやかな仕上がり。

達磨正宗 2010年

琥珀色。

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チーズ、中華料理、しっかりとした味付けの煮物と一緒にいただきたいです。
少しの酸味と苦味が加わった、甘旨味のとても長い余韻が、料理の味付けとハーモニーを奏でそう。
しいたけの甘旨煮やたまり醤油の香りがする、琥珀色で、きらきらした、とっても美しいお酒です。

前回、紹興酒みたいな日本酒 古酒・熟成酒の話をしましたが、まさに、そんなお酒です。

飲み比べのまとめ

色と香りは、2020年ものと2018年ものが似てます。
また、2015年もの、2013年もの、2012年ものが似ていました。

色や香りの違いより、味や余韻の違いの方が、ビンテージ毎にはっきりしていました。
熟成期間が短い方が、酸味を感じ、時間が経つと、酸味はまろやかになり、甘旨味が前に出てくるように感じ、余韻も長くなって、特に甘味と旨味が続きます。

もちろん、どれもとってもおいしかったです!

白木善次会長のお話

白木会長のお話は、大変興味深く、一部をご紹介します。

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約50年前、地酒が下り坂で、みんなが吟醸酒に向かって行った時代に、白木会長は、敢えて古酒・熟成酒造りに挑戦されました。

お酒の良し悪しは特定の集団の嗜好で決まらない、人間の嗜好はさまざまである、というお考えが、白木会長には若い頃からありました。

また、白木恒助商店の日本酒は、江戸時代の創業時から、色がついた、甘口で味がしっかりした濃いものだった、とのこと。
そんな日本酒を、白木会長は若い頃から飲んでるので、自分にとっての日本酒も、色がついた、味がしっかりしたものだったそうです。

人間の嗜好はさまざま、という考え方や若い頃からの味覚が、古酒・熟成酒に挑むことになったことと繋がっていると思う、とのことでした。

造り始めた頃は、首都圏のデパートとかに営業に行っても、門前払いになることもよくあったし、全然売れずに、在庫が増えることもあったそうです。

ただ、日本酒の古酒・熟成酒は鎌倉時代からあるので、日本民族の味覚から絶対に消えていないという信念があり、それが諦めずに続けて行くエネルギーになりました。

また、足をひっぱられることはありましたが、特にアルコール業界以外の人たちの励ましが糧になることが多く、決定的なダメージにならなかった、とおっしゃっていました。

最初の10年ほどは、吟醸酒、純米酒、アルコール添加したものなど、いろんな日本酒を造って、熟成させてみたそうです。
そして、まずは、蔵の熟成酒の基準を作ろうということになった、とのこと。
結果、米は地元の食用米、米の磨きは70%から75%くらい、酵母は協会7号、速醸酛(乳酸添加をする)と定められました。 

ところで、最近では、白木恒助商店の古酒・熟成酒は、ASEANの夕食会JALのファーストクラスで振る舞われています。

日本酒に飲み頃はあるのか?

以前、日本酒にはさまざまなおいしさがあるので、ひとりひとりが飲み頃を見つければよい、という話をしました。

今回のオンライン・イベントで、事前に送られてきた6種類の日本酒に飲み頃はあるんですか、熟成しすぎとかはありますか、という質問が出ました。

白木会長によると、ワイン通の人は、飲み頃のピークや下り坂の話をされるけれども、ご自分は、日本酒について、いつがピークで、いつから下り坂かという判断はできないそうです。

ただ、あるとき、あまりよくなかった日本酒が、10年熟成させたらすごくよくなった、ということはあった。
日本酒は、空気に触れ、オリが出て、熟成段階が進んでいくと、香味が変化する。
それでも、どの時点がピークだとか下り坂だとかは、皆目検討がつかない。

蔵で一番古い50年ものの日本酒は、品格もあり、思いもかけないような日本酒になっているけど、いつが飲み頃のピークか、分からないそうです。

送られてきた6種類の日本酒、私は、どれもおいしいと思いました。
要は、「その人が、おいしいと、感じた時が、飲み頃!」
会長ほどの方でも分からないのなら、それでいいんじゃないかな、と思います。

最後に、会長がおっしゃっていた50年ものの日本酒。
白木恒助商店のサイトで、販売中です。

一番小さい瓶でよいと思うので、できれば2本かそれ以上購入して、1本は、50年前を思い出しながら、あるいは、想像しながらいただいてみて、あとのは、しばらく自宅で貯蔵・熟成させてからいただいてみるのが、個人的にはオススメです。

最後になりましたが、白木会長、おいしいお酒と貴重なお話をありがとうございました。

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