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丘田ミイ子の【ここでしか書けない、演劇のお話】④ゲストインタビュー折田侑駿×髭野純『演劇と映画をもっとボーダレスに語ろう!』前編

みなさん、こんにちは。世は演劇祭や映画祭も目白押しの“芸術の秋”シーズンに突入!
私は演劇祭にはまだ行けていないのですが、先日子どもと一緒に下北沢映画祭に行ってきました。と……演劇についてお話する連載で、今回こんな風に映画の話題から始めているのには訳があります! 
今回のテーマはズバリ、『演劇と映画をもっとボーダレスに語ろう!』。
作り手が映像と演劇を横断して活躍しているのに対して、その書き手や観客にはやや棲み分け感が強く、いち当事者としてももどかしさを感じているのが正直な私感です。けれども、私は映画に深く関わる方の演劇の感想を頼りに劇場に足を運ぶことも多々あります。
そんなこんなで、今日は映画のプロフェッショナルでもありながら、数多くの演劇を観ている文筆家の折田侑駿さんと映画プロデューサーで製作・配給・宣伝にも携わるイハフィルムズの髭野純さんにゲストご登場いただき、3人であれこれお話をしたいと思います!
「このテーマを語るならこの方々しかしない!」と心に決めていたお二人ですので、是非豊かな鑑賞&観劇キャリアに裏打ちされたインタビューをたっぷりとお楽しみ下さい!


映画を仕事にするまで

丘田 お二人とは主に劇場でお会いしたり、すれ違ったりしていますが(笑)、まずは「映画」に携わる今のお仕事に就くに至ったきっかけや経緯からお聞かせ下さい。

髭野 中学からミニシアターに通い始めて、就活でも映画関係の会社を受けました。そこでは決まらなかったのですが、「遠からず」という思いで一旦アニメ関係の会社に就職。働きながら下北沢映画祭のお手伝いなどをしていた矢先にイベントで出会った中村祐太郎監督と意気投合して「一緒に1本映画作ろう!」と出来たのが2016年公開の太陽を掴め。それが最初の自主配給作品でした。

折田 『太陽を掴め』の誕生にそんな秘話があったのですね。実は出演者の一人と昔よく渋谷のTSUTAYAで映画のDVDを5枚ずつ選んで借りて、3日後にそれぞれが観た5枚を交換して合計10作品観る、っていうのをやっていたんです。それで、じゃんけんで負けた方がDVDを返しに行くっていう(笑)。一緒に遊んでいても映画が観たくなったら、それぞれ別の席に座ってポータブルプレイヤーでイヤフォンつけて映画を観たり……。

丘田 すごくいいお話! 折田さんが映画にどれだけ魅せられたのかも伝わるお話ですね。折田さんは多くの映画評や俳優評を書かれていますが、その道を志したきっかけは?

左から髭野純さん、折田侑駿さん

折田 初めて「映画批評」を意識した作品として挙げるなら、黒沢清監督の『アカルイミライ』。「映画ってエンタメとして楽しめるだけじゃなくて、いろんな美学や哲学に触れられるものなんだ」と。そんなことを感じた“入り口”の作品でした。そこから90年代の邦画も沢山観るようになって……。上京してからは地元では観られない作品を観られるのが嬉しくて、連日朝から晩まで映画館に(笑)。

髭野 終日映画館! その頃から文章を書かれていたんですか? 

折田 元々作品から感じたことをメモには書き溜めていたのですが、ふと、「これも批評になりうるのでは?」と思って、そこからweb媒体を中心に書き始めるようになったんです。僕自身も批評をよく読むのですが、文章がもう一つの作品として立ち上がっているような、映画に新たな価値を見出す批評やレビューと出会った時ってまた新たな興奮があるんですよね。視点によって見える世界が変わるというか。

丘田 わかります! だからパンフレットとかってつい買ってしまうし、読んだ後すぐもう一度観たい気持ちに駆られてしまうんですよね。それこそ髭野さんがプロデューサーを務められていた、杉田協士監督の『春原さんのうた』(第32回マルセイユ国際映画祭でグランプリ含む3冠を獲得)。私、ポレポレ東中野からの帰りの電車でパンフレットを夢中で読んでいて数駅降りそびれたんですけど、それも含めて思い出なんです。杉田監督は来年1月に『彼方のうた』の公開も決まっていますね。すごく楽しみ!

髭野 杉田監督作品で言うと、『ひかりの歌』の配給もこの仕事を続ける上での一つのきっかけでした。30館くらいで上映できて、映画が徐々に広がっていく体感が大きかったんですよね。同じく2019年に撮影を行った今泉力哉監督の『街の上で』の公開にあわせて法人化したのですが、一人配給会社でやれることに限りがあるとは思っているので、自分がちゃんと請け負えるだけのことをと思って取り組んでいます。


ズバリ、演劇の原体験は?

丘田 お二人は様々な映画と関わりながら、本当に多くの演劇も観られていますよね。今日はそんな観劇歴についても聞かせて下さい。ズバリ、演劇を観るようになったきっかけや原体験は?

髭野 僕は映画や演劇を教えてくれるお兄さん的存在の人がいて、その人きっかけで野田地図を観たのが最初だったかな。あと、僕は地元が与野本町なんですよ。中学の真横が彩の国さいたま芸術劇場で、それもあって中高生の頃からシェイクスピアシリーズは観ていたので原体験と言えるかも。

丘田 中学の隣があんな大きな劇場ってすごい環境ですね! 私の地元には劇場自体がなかったので羨ましい……。

折田 わかります! それこそ僕は映像経由で演劇にハマったんですよ。地元の大学に通っていた頃に他大学の演劇サークルとも接点があって、その部室のパソコンに先人たちがWOWOWで録画した演劇をアーカイブしてくれていたんです。そこで同じく野田地図や第三舞台を観まくって、「なんだこの面白さは!」と開眼(笑)。

丘田 そんな折田さんは野田地図の劇評も度々寄稿されていますよね。いつも楽しみに拝読しています。実は私も演劇の原体験が野田地図なんですけど、本家ではなく、当時日藝に通っていた姉が『パンドラの鐘』に大感激して、実家に帰省した際に紙粘土の人形を使って食卓で上演してくれて、小学生ながらすごく興奮したんです(笑)。

髭野 それはそれですごい経験ですね!

丘田 その後上京して、昨年劇場で杉原邦生さん演出の『パンドラの鐘』を観た時は、原体験も相まって感動もひとしおでした。本格的に演劇に目覚めたのは、上京して劇場に頻繁に通えるようになってからでした。

折田 僕も今観ている演劇の選び方の基盤のようなものは上京した2013年に築かれた気がしています。なにしろ観劇に飢えていたので沢山観たというのもあるのですが、なんとなく行ってみた芸劇でマームとジプシーの『cocoon』の初演に立ち会ったり何かと縁にも恵まれて……。先日は『ガラパコスパコス〜進化してんのかしてないのか〜』を観て激しく感動したんですけど、2013年に三鷹の星のホールで上演されたはえぎわ劇団公演の方も観ていたんです。貴重な体験を積んだ年でした。

髭野 僕は下北沢付近に住んでいるんですけど、そういう意味では中学からずっと演劇や劇場が生活圏内にあったような気がします。あと、演劇は今観とかないと一生観られないかもしれないから、なるべく逃したくないんです。同時に映画には特報や試写などの宣伝があるけど、演劇は前情報がわからないまま行くこともあるので、慣れない人がふらっと行くのが難しいとは思いますね。

折田 チラシを5枚並べて「どれ行きますか?」って言われても、何をやるかはほとんどわからないですもんね。それが楽しくもあるのですが。

髭野 分かるなあ〜!ただ、最初に観る演劇ってすごく重要じゃないですか。面白いと大成功だけど、ミスったら劇場が一気に遠ざかるというか……。

丘田 だから、演劇って人にすすめるのが難しいですよね。でも、演劇も劇団も物凄い数あるじゃないですか。純粋な分母として多いから、誰にでも必ず合う/ハマる演劇が一つはあるはず、と私は信じていて。この連載もその試みの一つなのですが、やっぱり演劇好きとしては新規の観劇人口を増やしたいんですよね。というわけで、お二人が今まで人にオススメした演劇を聞きたいです!


演劇ビギナーの友人へ、何をすすめる?

折田 上京当時に友人たちとルームシェアをしていた時に「演劇観てみたい」って話になって、イキウメの『散歩する侵略者』の映像を一緒に観たんです。そしたらめちゃくちゃ感動してくれて。その後『獣の柱』を観に行って以来、今もずっとその人はイキウメを観ているんです。

髭野 イキウメはおすすめしやすいですよね。

丘田 私がすすめた数名もいまだにみんな追っているかも! イキウメって分かりやすいエンタメかって言われたらそうじゃないのに、物語の伏線や文脈でがっちり惹きつけるのがすごいなあって。美術もとびきり派手とかではないけれど、照明や音響に観客の想像力が相乗して圧倒的な景色が浮かび上がってくる。演劇ならではの魔法だと思います。

折田 これは極論ではあるのですが、イキウメの作品を楽しめない人とはちょっと付き合いが遠ざかってしまうかも(笑)。たぶん個々の価値観が圧倒的に違って、ほかの物事も一緒には楽しめないでしょうから。なので必然的に友人たちはイキウメにハマるわけです。

丘田 でも、その感覚わかるかも! 私の中にもそういう指標がいくつかあって、その一つが、「FUKAIPRODUCE羽衣を観て爆泣きする私に引かない人と仲良くしたい」です(笑)。

髭野 面白い! でも、言わんとしてることはわかる!

丘田 悲しいことが起きているとか、感動のクライマックスとかそういうのじゃないんですけど、あの歌とダンスに迫るものがあって理屈で説明できない涙が溢れてきちゃうんです。そういうのをわかってくれる人にすすめたい。つまりマッチングは重要っていう話ですよね!

折田 政治や芸術などについても深く話せる友人がいて、その人に地点チェルフィッチュをすすめてみたら、批評的な視座から楽しんでもらえたのですが、その後「他にはどんな演劇があるの?」と聞かれて全くタイプの違うロロとイキウメに連れて行ったら、「これもこれで最高!」ってなりました(笑)。好みや気分のマッチングは確かに重要かも。

髭野 演劇と映画の接続の点で言えば、『春原さんのうた』にはFUKAIPRODUCE羽衣のメンバーである新部聖子さん、日髙啓介さんらも出演されていますし、『ひかりの歌』にも演劇で活躍されている俳優さんが多く出演されています。そういったキャストの文脈から観客が映画と演劇を横断できたらいいですよね。

丘田 そうなんです。まさにそういうことが増えて欲しくて、今回のインタビューを企画したと言ってもいいくらい。「映画と演劇の観客が演者や作家くらいボーダレスになって、双方盛り上がったらもっといいなあ」と常々思っていて……。なので、映画業界で活躍されているお二人が多くの演劇を観ていらっしゃることはとても頼もしく、そのチョイスや感想もすごく参考にさせてもらっています。お二人の思う演劇の魅力とはどんなところでしょう?

髭野 2時間舞台に立てる俳優さんの強度ってやはり凄まじい。演劇は、それを堪能できる本当に豊かな時間だと痛感します。誰かをきっかけに観に行ったとしてもまた新たな素敵な俳優さんにも出会える。それで、「この人といつかお仕事でご一緒にしたいな」と思ったり。そういう刺激をたくさん受けています。

折田 僕が観劇時に常々思っているのは、演劇にはある種の“観る暴力性”があるということ。ライブみたいにコール&レスポンスもないし、極論観客は一方的に俳優のどこを見てもいいわけじゃないですか。「人ってこんなに黒目が動くんだ!」とかそういうところに魅せられることもあるのですが、それって、俳優がその恐怖を背負っているということだとも思うんです。再現不可能な時間と空間を共有するからこそ、その一員になるつもりで観に行く。だからいまだに緊張するんです。

髭野 うんうん。その緊張感はありますよね。こっちの振る舞い次第で壊してしまうこともありうるから。観劇においても仕事においても何を大切にしているかって言われたら、やっぱりリスペクトなのだと思います。ちなみに、最近お仕事させていただいたいた梶川七海さんはMCRの公演で知った俳優さんなんです。それで、直接オファーをさせていただいて……。

丘田 そうなんですね!MCRに出演されている俳優さん、魅力的ですよね。私も大好きで、その表情の変化を存分に浴びたいので、MCRは必ず最前列と決めています(笑)。この連載でしか聞けない、こういうお話をしていきたかったので嬉しいです〜!ここからは作品や劇団や俳優さんのお名前もどしどし挙げていただけたら!

▷インタビュー後編へ続く

後編では、演劇と映像をボーダレスに活躍する俳優や作家の魅力をはじめ、お二人のイチオシのカンパニーやこれから上演予定のマスト作品なども語っていただきました!

Special thanks/Innocence Define-イーディ-(東京都文京区根津2-19-8)


【プロフィール】

折田侑駿/1990年生まれ、文筆家。映画の専門媒体やパンフレットをはじめ、演劇、文学、マンガ、服飾、酒場など様々なカルチャーに関する批評やコラムを「Real Sound」や「QJ web」など各種メディアに寄稿。物語や表現に新たな眼差しを与えるレビューや俳優評を多数執筆するほか映画のアフタートークやweb番組「活弁シネマ倶楽部」にも出演。また、それぞれのカルチャーと密接な結びつきを持つ街/土地の魅力や変化を観察・考察した記事も執筆。「DOKUSOマガジン」にて、お酒と映画の関係を独自目線で語る「折田侑駿の映画とお酒の愉快なカンケイ」を連載中。
Twitter : https://twitter.com/y___shun

髭野純/1988年生まれ、映画プロデューサー。アニメ会社勤務を経て、インディペンデント映画の配給・宣伝業務に携わる。2020年に合同会社イハフィルムズを立ち上げ、代表を務める。プロデューサーとしてそれぞれの監督の魅力や持ち味に伴走。直近の主なプロデュース作品に『街の上で』(今泉力哉監督)、『春原さんのうた』(杉田協士監督)、『ほとぼりメルトサウンズ』(東かほり監督)、『夢半ば』(安楽涼監督)、『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』(金子由里奈監督)などがある。プロデュース・配給として参加している、杉田協士監督『彼方のうた』(英題:Following the Sound)が第80回ヴェネチア国際映画祭 ヴェニス・デイズ部門に選出。2024年1月5日(金)よりポレポレ東中野ほか公開予定。
Twitter:https://twitter.com/jhfilms_

丘田ミイ子/2011年よりファッション誌にてライター活動をスタート。『Zipper』『リンネル』『Lala begin』などの雑誌で主にカルチャーページを担当。出産を経た2014年より演劇の取材を本格始動、育児との両立を鑑みながら『SPICE』、『ローチケ演劇宣言!』などで執筆。近年は小説やエッセイの寄稿も行い、直近の掲載作に私小説『茶碗一杯の嘘』(『USO vol.2』収録)、『母と雀』(文芸思潮第16回エッセイ賞優秀賞受賞作)などがある。2022年5月より1年間、『演劇最強論-ing』内レビュー連載<先月の一本>で劇評を更新。CoRich舞台芸術まつり!2023春審査員。
Twitter:https://twitter.com/miikixnecomi
note: https://note.com/miicookada_miiki/n/n22179937c627


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