第20回MSP、3つの公演について取材!
ネビュラエンタープライズ・おちらしさんスタッフの福永です。
U25世代に向けて、舞台芸術に関する情報を発信する「ユニコ・プロジェクト(通称:ユニコ)」。
ユニコでは昨年に引き続き、今年も「明治大学シェイクスピアプロジェクト(MSP)」にしっかり密着させていただくことになりました!
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今年、第20回のMSPの特徴の一つは、公演が3種類あること。「本公演」はもちろん、去年から始まった「ラボ公演」に加え、さらに新しく学内のカフェで上演される短編の「ミュージカル公演」もあるのです!
3つの公演が、それぞれどのように進行しているのか気になり、ある日の稽古場にお邪魔してきました。
まずは、本公演『ハムレット』の稽古場。
午後にお邪魔すると、場面を短く区切って、30分ずつ稽古していました。その日のキャストの出欠によってどの箇所をやるのか決めているので、この日に初めて稽古する、というシーンもありました。演出家・高橋奏さんがいる稽古場ともう一つ隣にも部屋が用意されていて、自分たちの稽古時間が来るまで待機している役者同士は、その別室で相談し、お芝居を作っていきます。順番が来たら作った場面を演出家の前で見せてみて、演出家はそれに対して意見し修正していくというスタイルで、稽古は効率よく進められていました。
高橋さんの演出を見ていて興味深かったのは、ダメ出しより、“良し”出しが多いところ。役者たちが持ってきたアイディアに対して「いいね!」「面白い!」と嬉しそうに伝えていることが多いと感じました。また、役者の各役への解釈を前のめりになって聞き入っていたり、その際には演出席から立ち上がってアクティングエリアへ入っていったり、役者たちと同じ目線で話し合っているのでした。もちろん、もう少し、というところにはどんどんとアイディアを足していくので、停滞することなくみるみるうちにシーンが面白くなっていきます。この日は特に、テンポや小道具の取り扱い、アドリブの入れ具合などについて、「提案」という形で演出家の意見を出していました。
昼休みが明けてすぐの時間だったため、どうしても役者のテンションが上がりきらない様子を見て急遽ゲームを行ったり、こまめな水分補給を促したり、役者が健全に“いい状態”で稽古に臨めるよう、環境を整えているという印象を受けました。
この日はちょうど、監修のJAM SESSION・西沢栄治さんもいらしていました。西沢さんは基本的に稽古の様子を遠巻きに見守っているスタンスでしたが、ここぞというときには立ち上がって演出家に意見を伝えていました。あるシーンで、大町友実さん演じるホレイショーのセリフのニュアンスをどうつけたらいいかと悩んでいた時には、この役には歴史上いろいろな解釈があることを説明しつつ、解決の糸口になるようなアドバイスも。その見識の深さには感服するばかりで、聞いているだけの私もとても勉強になりました。突然、仮の小道具を使ってみよう! と決まったときには、ご自身の私物の帽子を提供されるなど、学生たちととても近い距離で向き合っていることがよくわかりました。
稽古後に少しだけ、演出の高橋さんにお話を伺うことができました。
Q:稽古が始まって2週間くらいですが、計画どおりに進んでいますか?
Q:始めてみて、良くも悪くも想定と違う点はありましたか?
Q:現状、稽古場で一番心がけていることは何ですか?
Q:具体的には何かしていますか?
Q:高橋さんは普段は役者もされるわけですが、自分で演じて見せることもするのですか?
Q:見学していて、キャストの皆さんとの関係性がとても良いのだと感じました。
次にラボ公演の稽古にお邪魔しました。
こちらの演出は、去年本公演の演出をしていた養父明音さん。演目は太宰治の『新ハムレット』。コメディ好きの養父さんがいったいどんな演出をつけているのかとても興味があったので、こちらもしっかり見学させていただきました。
本公演の2か月前に本番を迎えるラボ公演は、この日の段階で本番まで残り2週間。原作が、元々モノローグのような性質を持つ台詞を、対話形式にした小説なので、そのままでは芝居にしづらく、スマートな会話劇にアレンジされていました。それでも全体的に長台詞が多く、キャストはまずこれを攻略するのが大変だろうと、見学前から想像ができました。
キャストには3、4年生のベテランが多く、既にセリフはしっかり入っており、細かなところをブラッシュアップしている最中という感じでした。センターステージなので、体の向きやセリフの当てどころをどうするか、何より会話の面白さだけで観客を惹きつけないといけないので、役者の力を上げることが最大の課題になると思われます。
太宰原作らしく、ベースが「ハムレット」だと言うのに、どの役も、何となく、ダメで弱い人間に描かれています。それを面白可笑しく、愛せる役にしていくのが、演出のポイントになるかと思います。特に本公演の稽古場で、かっこいいホレイショーを見た後だったので、ラボ公演で小山春樹さんが演じるホレイショーが滑稽でとても面白く、見学しながら大笑いしてしまいした。さらに、器用で手数も多い阪上祥貴さんのハムレットや、正統派の演技で芝居を支えている印象の麻生日南子さんのガートルードと、養父さんのキャスティングはすでに成功していると感じました。
養父さんはこの日、特に“間”に関する演出を多く出していて、セリフを入れる間、動き出しまでの間など、かなり細かくこだわっていました。
こちらも稽古後、養父さんにお話を伺えました。
Q:本番まで2週間です。完成度は何%ですか?
Q:去年は本公演の演出をしていました。その経験で得たものを今回反映できていますか?
Q:いろいろあると思いますが本公演との違いは?
Q:センターステージも初体験ですか?
Q:太宰治や、「ハムレット」のことは意識していますか?
Q:最後にひとことお願いします!
さらに、この日は17時半から、ミュージカル公演チームによるカンパニーメンバー向けの上演会があり、そちらにもお邪魔してきました。
こちらは30分の短編で、完全オリジナルの『オフィーリアの部屋』という作品でした。
「ハムレット」のヒロイン、オフィーリアのモノローグで進む、ワンシチュエーションものなのですが、これを見事にミュージカルに仕上げていました。驚いたのは、この日までに、まだ稽古を4回しかしていないとのこと!とてもそうとは思えないクオリティなのでした。
途中音響のトラブルはあったものの、キャスト陣の集中力が途切れることはなく、衝撃のラストではしっかりと観客を惹きつけていました。
上演時間30分の中に10曲のオリジナル楽曲が詰め込まれていて、ミュージカルに詳しくない者でも、その贅沢さがわかるボリューム感でした。
また、この日は図書館内の小教室のような場所での上演でしたが、本番はカフェで行うことになっていたり、また父母会の際にはホールの舞台で上演することになっていたりと、一つの演目をいろいろな舞台に対応させなくてはなりません。3つの公演の中では稽古時間、準備期間がある方ではありますが、それでもやらなくてはいけないことはたくさんあるのでした。
ミュージカル公演を演出した、林泉里さんにもお話を伺いました。
Q:本日の“出来”はどうでしたか?
Q:キャストの皆さんは普段からミュージカルをやっている方々なのですか?
Q:林さん自身はミュージカル経験者なのですか?
Q:本番までは時間がありますが、この先の課題は?
Q:稽古場で心がけていることはありますか?
今回は3作品の3人の演出家にお話を伺うことができました。作品もジャンルもバラバラで、三者三様の作風ではあるのですが、ある共通点を感じました。
それは、3人とも“上”からの演出にしたくないということ。どうしても演出というポジションは周囲よりも決めることが多く、焦りもあるので、結果的に主張が強めに出てしまい、“偉そう”に見えてしまいがちです。ところがMSPの3人の演出家たちには全くそんなところがなく、そして聞けば聞くほど、そうならないように意識しているのでした。
現代の演劇シーンが稽古場でのハラスメントに厳しくなっているとはいえ、ここまでしっかりとフラットな関係性の中で創作ができているのは、学生演劇でも珍しいことだと思います。いわゆる「心理的安全性」がしっかりと与えられている中で、キャストたちは、堂々とのびのびと稽古に励むことができています。この点は特に、MSPの特徴なのかもしれないと感じました。
9月に入るとすぐに、まずは「ラボ公演」があります。今から、どんな仕上がりになるのか楽しみです!
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