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「その場にある全てがお互いに空気を振動させる存在でありたい」── 神戸・KIITOにて、ダンサーと音楽家による“体と音”の公演 / ARU.『聞こえない波』インタビュー(1月19日~)【PR】

音楽ってこういうもの。ダンスってこういうもの。いつしかそんなイメージができあがって、自分で自分を縛っているかもしれない。そんな無意識の固定観念にたいして、プロジェクト『ARU.(在る)』は「音とダンスってこういう関係もあるよね?」と静かにさざ波を立てていく。

主宰するのは、ダンサー・振付家の細川麻実子さんと、音楽家の山㟁直人さん。二人はこれまでユニット『在る』として、細川さんのソロ出演+山㟁さんの音によるライブや動画配信をおこなってきた。それが2024年1月に初めて、複数のダンサーや音楽家とともに神戸のKIITO(きいと)で公演することについて、お二人にインタビューをした。

公演チラシのオモテ面に書かれた文字がちょっとかすれている。「この擦れた感じが、出演者に求めている居方なんです」と演出・振付の細川さんは言う。

「体と音を対等に置く」をテーマに、ダンサーと音楽家たちはどんな関係を紡ぐのか。観客もふくめて、そこに”在る”ことの可能性と心地よさを感じられるインタビューとなった。


■「予想外で、面白い」。音楽家とダンサーのユニットだからできること

――二人ともこれまでいろんな方と創作をしてきています。お互いどういったところに惹かれて一緒にARU.をやることになったんですか?

細川 2018年だったかな、即興のライブで共演したのがきっかけです。インスピレーションが合ったんですよね。あと、山㟁さんは時々わけのわからない世界にいくところが面白い。予想外なんです。

山㟁 それはお互いさま(笑)。いい意味で計算できないから、その未知な部分が楽しい。一緒にやっていると探求心を持っていられるんですよ。でも感覚が近い。ライブや公演をしている時と、日常生活をしている時が、すべてフラットに繋がっているところは似ていますね。

左から、音楽家の山㟁直人さん、ダンサー・振付家の細川麻実子さん

細川 とくに発信や表現をしていなくても、つねに日常からキャッチしている。それから私のダンスソロ作品をやる時に「音として参加してほしい」とお声がけして、そこで一緒に創作をしてお互いに深められたことで、二人で『在る』というユニットをはじめました。東京や長野でゆるくライブをしたり、動画撮影をしたり、いろんな形を試みています。

山㟁 二人のユニット『ARU.』として作品を創作するのは今回が初めてです。でも創作の根本は変わってない。それは「体と音を対等に置く」ということ。ダンスのために音楽があるわけではないし、音楽にあわせてダンスを踊るわけでもない。体と音が対等にひとつになる作品、というのがもっとも大きな出発点です。

『在る』の作品のようす
(会場:茶会記クリフサイド、撮影:m.yoshihisa)

――YouTubeで過去の作品動画がいくつか公開されていますが、いずれも「体と音が対等である」とはどういうことかが感じられるように思います。もっと言うと、そこに存在しているすべてのもの……身体も音もモノも空気もなにもかもが対等で、対話をしているような空気感がありました

山㟁 そうですね。空間にあるものすべてが対等で、対話する。

細川 大事なのは空気。ピーンと張りつめた空気、ちょっと歪んだ空気……そういった様々な空気を動かすために、ダンサーも音も、存在しています。

――ああ……だから作品から、“共鳴”というよりも“共振”という印象を受けるのかもしれないです。

細川 そう、そうですね!

山㟁 空気の振動で音が伝わったり、音とダンスとのヴァイブレーションが起きたり……音と体がお互いに空気を振動させる存在でありたい。それはたしかに「共振」ですね。

――ただ、共振し合っているかと思いきや、どちらかがちょっと強くアプローチする瞬間もあって、ドキッとします。

細川 そこが予想外で面白い。音が変われば体も変わるし、お互いに対話しています。

即興による映像作品 「在る」@ ボート編


■KIITOでは、昼の太陽や夜の暗さも作品の一部になる。もちろんお客さんの存在も。

――今回はたくさんのダンサーとミュージシャンがいるので、お互いにいろんな影響がうまれるのでは?

細川 二人のユニットでやるよりも可能性が広がりますね。人数が多いのも、KIITOという特別な空間も、空気を動かすことにプラスに作用すると思うので、いろんな作品展開ができると期待しています。

山㟁 楽器も増えるので、音の振り幅も大きくなります。でも、へんてこりんな編成ですよね(笑)

――音が多彩ですね。山㟁さんの打楽器をはじめ、ギター、チェロ、笙、トロンボーン、十七絃箏まで!

山㟁 なるべく違う質感で高音から低音までカバーすることで、音の厚みがもてるメンバーを集めました。でもなにより大事なのは信頼できる人たちだということ。経験があって、ちゃんとアンサンブルができて、しかもこちらがコントロールできない人たちなのでめちゃくちゃ面白い!まったく想像通りにいかないんです。だからまずはメンバーの要素を収集して、音とダンスが一緒になにができるかを探しています。でもこのメンバーなら最終的にいいものができることがわかっているので、どうなるかわからないことを楽しんでいます。

――コントロールできないということは、創作において対等でいられるということでもありますね。会場となるKIITOも、かなりコントロールできない空間ですよね。

山㟁 そうですね。KIITOはもともと生糸を扱っていた工場をアートスペースにした素敵な建物なんですが、昼間は太陽の光が入ってくるので、昼公演と夜公演ではまったく違う空間になると思います。あと、生演奏ですから、KIITOの空間で音を出すと稽古場とはまったく印象が違うでしょうね。

細川 さらにお客さんが入るとまた空間が変わりますしね。

デザイン・クリエイティブセンター神戸 KIITO

山㟁 でも、なにが起こってもいい作品になると思います。そもそも僕たちは、区切られた劇場からはみ出したオープンな空間で柔軟な作品をやりたかったので、KIITOを見つけたときに「ここでやりたい!」と思った。

細川 そうですね。劇場とは違って、客席の後ろまで空間が広がっているので、客席をふくめて空間全体を包み込むような作品にしたいです。

──タイトル『聞こえない波』についても聞かせてください。

細川 直感だよね。もともとテーマとして「波」「振動」「揺れる」みたいなものがあって、それが「聞こえない」というのがポイントです。KIITOの空間のなかで感覚が研ぎ澄まされて、五感で、聞こえないものを聞いてほしいなって。

山㟁 このタイトルがすべてで、もう説明のしようがないくらいぴったりだよね(笑)

細川 ダンスを見ているというよりも、景色や山を見ている感覚に近い作品になるといいなと思っています。ダンス公演ではあるんですけどね……だけど「ダンスだ!」というつもりではやっていないかな。基本、ダンサーに踊らせたくない。

山㟁 たしかに「踊る」っていう感じじゃないよね。お客さんそれぞれの受け止め方で楽しんでもらえるのがいいから、極端な話、「音が聞きたいな」と思ったら途中で目つぶってもいいし、耳を塞いでもいい。自由に楽しんでもらえたら、それを僕らも楽しみます。

細川 そうそう。気負わずに、そこにいてもらうだけでいいんです。「その空間に居る」ということが一番理想的なので、気軽にきてほしいな。

山㟁 小さなお子さん連れでもいいし、仕事終わりのサラリーマンの方や、ダンサーや音楽家の方にも来ていただきたい。おこがましいかもしれないですけど、「音とダンスってこんなこともできるんだ」と可能性が広がるといいなと思っています。

■創作にて驚くような変化が!──「存在」をコントロールするって?

――リハーサル(稽古)は東京でおこなっていますが、どんなことをされているのでしょう。振付けがあって踊るようないわゆるダンスとは違うと思うのですが…

山㟁 まず、リハ(リハーサル)にはミュージシャンも毎回参加しています。ダンス作品で演奏する場合はダンスの振付けができあがってからリハに入ることも多いんですが、ARU.では創作の過程をなるべく共有する。「このシーンはどうしてこういう振付けになっているのか」といったことをミュージシャンたちも理解しながら進めています。

リハーサルのようす①
(撮影:大木啓至)

細川 ダンサーたちはけっこう大変そうで……わたしが「空間に居ることが大事」とか言っているからか、戸惑っているみたいで、固まっちゃったりします。だからまずは、動的な振付けよりもそれぞれの内面をつくることを大事にしました。まずイメージを膨らませることに慣れるために、たとえば「この空間に水があったらどうやって存在する?」とか、部屋の角に立ってもらって「反対側の角にいる人を感じながら存在してみてください」とか、そういうことをやりました。ダンサーにとっては、踊りたいけど踊れない、という状況ですね(笑)

山㟁 まずは「在り方」みたいなことを意識することからはじめたんですよね。ミュージシャンも一緒にやりました。すごく効果があったのは、「自分のなかの存在感」を意識するワークだったよね?

細川 あれはすごく効果がありました!どういうことをしたかというと、ミュージシャンは音を出しながら、ダンサーはその場で止まった状態で「自分のなかの存在感」の強さをコントロールするんです。たとえば、体を100%動かさない状態で「存在感をゼロにしてください」とか「存在感を50にしてください」と言うんです。そうすると、みんながものすごく変化したんですよ。

山㟁 すごく変わったよね!ミュージシャンも、出している音のボリュームは変わらないのに、意識のなかで自分の存在感を上げ下げして演奏すると、音がまったく違って聞こえてくるんですよ。

──おもしろいですね!

山㟁 あと、よくやるのは、ダンサーとミュージシャンによる体と音の即興ですね。どうしてもそれぞれ分かれてしまいがちだから、お互いのコミュニケーションをしっかり取ることを大事にしてます。音を感じて、動く。動きを感じて、音を出す。

細川 お互いにコミュニケーションができていないと、一緒に創作していけないですからね。ダンサーも音に慣れていくと、どんどん体に音が入ってきて、体と音の距離が近づいて一体感が出てきています。

山㟁 なんというか、純粋に音になりきれるといいですね。純粋な音、純粋な体がそこに在るのが理想です。

──東京でリハーサルをした後は、本番一週間前から会場となるKIITOでも滞在制作をされるんですね。公開リハーサルも1月14・16日に予定されていますね(※観覧無料、13:00~15:00、出入り自由)。

細川 KIITOでの最終調整ですね。やっぱり空間を大事にしているので、KIITOで作らないとできあがらない。音響さんも照明さんも全部機材は持ち込みですし……

山㟁 どんな作品になるか、会場に入ってみるまでわからない。というか、そもそも想像できないんですよね。だから、そこで起こったことを、そのまま音にする。

細川 そういった感覚をほかのメンバーに共有することは難しいですが、信頼している人たちばかりなので絶対に面白くなると思う。それぞれのダンサーもいろんな提案をしてくれますし。

山㟁 そうですね。二人でやってきた土台はありながらも、今回のメンバーでできることをやる。それぞれの持っている個性が集まることで、二人ではできないことができていくと感じます。これからどうなっていくんだろうと楽しみですね。

リハーサルのようす②
(撮影:大木啓至)

■これから先、ARU.が目指す風景は?

──おふたりが大切にしている音と体の感覚について、いつ頃から強く意識されているんですか?

山㟁 僕は20年くらい前……即興をやり始めてからこういう感覚になったと思います。それからいろんなダンサーさんと共演するようになって「ダンスと音楽の関係ってこれでいいのかな?」と思うことも多くて。どうしてもダンス公演だとそこに音楽が付随しているというか……

細川 ダンスのための音楽になっちゃいますよね。

山㟁 そう。振付が決まっていて、最後の最後に音楽家が入ると、ダンサーとコミュニケーションが取れない感じがするんです。それがすごく歯がゆかった。でも即興ならダンスと音が対等にいられる。

(撮影:大木啓至)

──たしかに……すでに決まっているものとコミュニケーションを取ろうとすると、対等ではいられないですね。

山㟁 そうなんです。あと、生演奏と録音した音楽の違いも感じていたし、ダンス作品においてオリジナル音楽と既存曲はまったく違うとも思っていました。特にコロナ禍以降に思うのは、誰でも世界に配信できるようになってくると、既存曲を使っているダンス作品は著作権の都合で配信ができないんですよね。それってすごくもったいない!そう考えたらオリジナル曲かつ生演奏であることにすごく可能性を感じています。しかも生演奏で同じ空間で踊ることは、ダンサーにも影響する。そういうことを大事にしたい。

細川 私は、小学生のときに学校帰りに遊んでいた感覚です。「なにかしようぜ」とか「絵が上手な子を呼ぶ?」とか集まって一緒に遊んでいた。それからずっと踊り続けているなかで、とくにARU.に関してはだんだん当時に戻っているような感覚があります。今後は絵を描く人が加わってもいいし、いろんな人が入ってきても成り立つと思っています。

山㟁 動きや音って、子どものときのノスタルジックな要素がある気がする。音がスイッチを押してくれて、記憶が思い起こされたり、未来を想像できたりする。そうやってみんなで遊んでいるんだよね。

細川 遊んでいないとできないよね(笑)。お客さんにも「一緒に遊ぼう」と話しかけている気持ちです。

──ARU.としての今後は?

細川 区切られた空間で表現をするんじゃなくて、そのへんを通りがかった人が目にするようなところでなにかをしたいです。日常と地続きでいたいんですね。

山㟁 この写真もそうですね。これは公共的なスペースで動画を撮ることを目的としているシリーズなんですけど、もうちょっと人通りがあるような、生活に近いところでやりたい。

細川 あと、ARU.のやっていることに触れた人が「振付ってなんだろう?」とか「ダンスってなんだろう?」とか「音楽ってなんだろう?」とか、これまでの概念を考えなおすきっかけになったら嬉しいです。

山㟁 そうですね。どうしてダンサーは音楽を使うのか、どうして音楽はダンスと共に在るのか、という根源的な部分への問いかけ。音とダンスのあり方について「こういう形もあるよ」と提示していくことで、なにかを感じてもらえる種を蒔き続けているのかもしれないです。



ダンスを見る、という時に、それが振付に合わせてリズムをとる形態の作品でない場合はとくに、観客は、目だけで見ているわけではない。その場の空気・音・振動を肌で感じ、目の前にいるダンサーの存在感を受け止め、どうしてだか自分でもわからないけれど鳥肌にぞわっと襲われることもあれば、心地よさのあまり目を閉じてすべてを委ねたくなることもある。まさに「そこに存在がただある」ということを全身で実感する唯一無二の体感は、「生きている」という実感でもある。そんな言葉にできない感覚をまた味わいたくて、コンテンポラリーダンス公演と聞くと、足を運びたくなってしまう。

ARU.は、そのさらに本質的なところを探ろうとしているように思う。「体」と「音」にフォーカスしながらも、そのふたつはあくまでダンサーと音楽家によるタッグだからというだけであって、ほかにどんな要素が加わっても自然と「存在」を受け入れてもらえそうに感じる。たとえばこちらが言葉を発したら、それに対してダンスで返ってきて、対話が成立する──そんなジャンルを越えたコミュニケーションを『聞こえない波』では体感できるかもしれない。

取材・文/河野桃子

ARU. 《聞こえない波》PV

公演情報
ARU. 《聞こえない波》
日程:
1月19日(金)19:00
1月20日(土)14:30 / 18:30
1月21日(日)14:30
会場:デザイン・クリエイティブセンター神戸 KIITO
(〒651-0082 兵庫県神戸市中央区小野浜町1-4)
料金:2,500円

【公開リハーサル】
日程:
1月14日(日)13:00〜15:00
1月16日(火)13:00〜15:00
会場:デザイン・クリエイティブセンター神戸 KIITO
(〒651-0082 兵庫県神戸市中央区小野浜町1-4)
観覧無料(お時間内にご自由にお越しください)

演出・振付:細川麻実子
演出助手・音楽統括:山㟁直人
​出演 :
秋山徹次(ギター)
飯塚友浩
五十嵐あさか(チェロ)
石川高 笙
木村玲奈
古池寿浩(トロンボーン)
鈴木梨音
髙橋純一
ホシノメグミ
マクイーン時田深山(十七絃箏)
三橋俊平
矢嶋美紗穂
山㟁直人(打楽器)
細川麻実子


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