Smokin' Sexy Shooter - 『Severed Steel』
ネオンの煌めきと脳内麻薬で神経を焦がしたいという、人類共通の願望。
『Severed Steel』はSteamで配信されている、インディー制作のFPSだ。本作の魅力を端的に言うとハイスピードでスタイリッシュかつアクロバティックな銃撃戦……なのだが、こんな通り一遍の説明ではまるで足りないので、まずはトレイラーを見てほしい。
こういうプロモ映像を見ると、身構える人がいるかもしれない。"実際遊ぶにはクールすぎるから"だ。「コレって操作できないカットシーンじゃない?」「Actual Gameplayって書いてくんないと信用できないナア」「自分のプレイスキルでこんな動きできるわけないよお」等々。だが、これまで無数のムービー詐欺に苦しめられてきた俺が保証しよう。このトレイラーは全て実際のプレイを映しているし、誰にでもできるものだと。
スタントでキメろ
サイコガンを手に入れたタイタンパイロットがマトリックスの世界で暴れ回るようなドープなプレイを可能にしているのが、本作でスタントと総称される以下のシステムだ。
・スライディング
スライディングできるFPSは近年珍しくないが、ヘッドダイブができるFPSは2010年の『コールオブデューティ:ブラックオプス』以来ではないだろうか。どちらか一つで十分かもしれないが、Severed Steelは足から飛び込むキックスライドと頭から突っ込むヘッドダイブの2種類を気前よく実装している。
キックスライドは敵にぶつかることで攻撃でき、空中で使えば鋭い飛び蹴りにもなる。
一方のヘッドダイブには攻撃判定はないものの、ジャンプだけでは届かない距離にベクトルを変化させて飛び込むという3Dマリオめいた使い方がある。その時々で使い分けるとさらにスタイリッシュ重点だ。
・ウォールラン
読んで字のごとく、壁を走るシステム。初出は俺も知らないので教えてほしいが、『ミラーズエッジ』(2008)で世に知られ、『タイタンフォール』(2014)で広まったように思う。最近では『ジェダイ:フォールンオーダー』や『Ghost Runner』などでも象徴的に用いられており、ハイスピードアクションゲームの基本となりつつあるメカニクスだ。
「レベルデザイン的に一部の壁しか走れないよお」などという腑抜けたゲームもあるが、Severed Steelはあらゆる壁面に磁石のように吸い付けるという真の男のための仕様なので安心だ。また、本作の主人公はなぜかデフォルトで2段ジャンプが使えるので、それと組み合わせることでほとんど地に足をつけない戦い方もできる。
・バレットタイム
ほとんどのFPSでは右クリックで照準器を覗き込み、精密射撃を行う。ADSとも呼ばれ、FPSにおいては箸の持ち方レベルで一般的な操作であるが、Severed Steelではなんと右クリックで時間の動きを遅くできる。いわゆるバレットタイムだ。考えてみれば、ADSもバレットタイムも狙いやすくするためのシステムなのだから、バレットタイムを右クリに割り当てるのは非常に合理的だといえる。
本作は素のゲームスピードが恐ろしく速く(わざわざ遅くするオプションがあるほど速い)そのままではエイムすらままならない。必然的に射撃の瞬間にバレットタイムを使うようになり、緩急のメリハリの効いた戦闘が楽しめるようになっている。
・視点の自由度
Severed Steelでは、空中にいる間は視点操作できる仰角と俯角が90度を超え、逆さまに宙返りした姿勢でも射撃できる。DOOMなどを遊んだ人なら分かると思うが、高速かつ立体的な機動ができるFPSでは勢い余って敵の頭上を飛び越してしまうことがままある。そうした際に水平に視点を180度も動かして狙い直すのは面倒だ。
そのフラストレーションを解消し、さらにアクロバティックな攻撃を可能にするという点で、視点の自由度の高さは非常にうまく機能している。チュートリアルでもまともに説明されないくらい地味なポイントだが、他のFPSと一線を画す縦横無尽な遊びやすさをもたらす本作最大の発明といえる。
これらのスタントシステムはただスタイリッシュなだけではなく、主人公の生存にも一役買っている。というのも、ゲーム内では説明されないが、スタント中は敵NPCがギリギリで弾を外すようにプログラムされているからだ。これにより、Severed Steelはガンアクションによくある”敵の弾は掠めるだけだがこちらの弾はしっかり当たる”あの体験を再現しているというわけだ。
嵐のような銃撃をかわして格好良く戦えば戦うほどインセンティブが高まるゲームデザインは、プレイヤーにプレッシャーを感じさせずにラン&ガンを促すという点で非常に優れている。
遊びやすく、飽きやすい
スタントシステムとネオン輝くサイバーパンクなビジュアル、そしてベースの効いたエレクトロニックサントラの相性は抜群で、Severed Steelはアドレナリン全開の強烈な中毒性を発揮している。そのゲーム性にひとたび引き込まれれば、並み居る敵兵士をなぎ倒してエンディングまで突っ走りたくなること間違いなしだ。
……そして、このゲームは本当にそのままエンディングまで突っ走れてしまう。俺のプレイでは2、3時間ほどでエンドクレジットを見ることになったが、FPS強者なら1時間ちょっとでクリアしてしまうかもしれない。主人公のスティールが暗黒メガコーポを打倒するまでのストーリーはチャプターごとに挟まれるバンデシネ風イラストで説明されるが、これは一切の文章表現が省かれた全くシンプルなものとなっており、ツイストも特にないのでなおさらアッサリに感じる。
クリア後にはキャンペーンモードのステージを選んで敵全滅のスコアを競うアーケードライクな銃撃戦モードが開放され、一応これがエンドコンテンツということになる。銃撃戦モードではハイスコアを獲得することで次のステージが解放され、銃弾を爆発させたり無重力にしたりといったゲーム改造を行えるようになる。とはいえ、こうした要素自体はそこまで楽しいものではなくあくまでオマケといった感じである。有志制作によるマップで遊ぶこともできるので、こちらの方がポテンシャルはありそうだ。
別に、ボリュームが少ないこと自体は大した問題ではない。本作はプレイヤーをスタイリッシュに無双させて気持ちよくさせることをこそ重視しており、ソウルシリーズのようにプレイヤーが学んで少しずつ強くなるゲームではないからだ。そして実際のところ、本作の敵兵士はよくしゃべるだけのカカシであり、スタントし続ければプレイヤーが死ぬことはほとんどないので、このゲームはFPSとしては割とイージーかつ飽きやすい部類に入る。
もしこんな難易度で変わり映えしないまま30時間近いボリュームがあったらかえってウンザリするだけだし、かといって下手に難易度を上げて無双の快感をスポイルするのは間違いなく悪手だ。プレイヤーがもう少し遊んでいたいと思えるポイントでエンディングを迎えるのは、むしろ英断かもしれない。
For Whom the Game Plays
インディーズという点を差し引いてもかなり控えめなボリュームに対して約2,500円という本作の定価が釣り合っているか疑わしく思う人もいるだろう。俺自身、ゲームを購入する際には合理的経済主体としてコストパフォーマンスなる幻想を追いかける悪癖があるのでその気持ちはよくわかる。
確かにボリュームは少ない。少なすぎて笑える。しかしながら、Severed Steelのプレイ体験はここ1、2年で俺が遊んだゲームでもトップクラスに新鮮で爽快なものだったことに違いはないのだ。『デビルメイクライ』や『Marvel's Spider-Man』、『アストラルチェイン』のような優れたアクションゲームに通底する”キャラクターを動かす気持ちよさ”を味わわせてくれたFPSは、本作が初めてかもしれない。
これは間違いなく美しいゲームであり、買う価値があり、去るには惜しい。コスパなどという小賢しい価値基準で語るには、このゲームはクールすぎるのだ。財布のためではない、お前自身の快楽のためにこそSevered Steelは買われなくてはならない。
……それでも尻込みするというなら、Steamのセールを待つというのも手だ。直近なら、旧正月が狙い目だろう。
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