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「キスしたい男」タイザン5

私は漫画が好きだ。受験期は漫画を隙間時間に読んで乗り切ったと言っても過言ではない。

当然大学生になっても読み続けている。ポピュラーな漫画はもちろんだが、最近はアプリでアマチュアやプロ成り立ての漫画家の作品もよく読む。

デビューしたてでこれは面白いぞ!と思った漫画家が有名になって、ネットから有名雑誌に成長していくのを見るのは、なんとも嬉しく、少し寂しい気持ちになる。有名バンドの古参アピみたいな、そんな気持ちだ。

最近、これから来そうな漫画家というのを見つけた。まだ読み切りを数本しか出していないがどれも面白いし、どうやらこれから連載するようなので非常に楽しみだ。

それが「タイザン5」という漫画家。最近読んだ読み切りの中で一番面白いので、ぜひ読んでみて欲しい。下にリンクを貼っておく。

なぜこんなにもこの漫画に惹きつけられるのか?

ただひたすらにアンジェリーナ・ジョリーとキスしたいと望み、お金を貯めてアメリカに渡ろうとする主人公。彼はアンジーにそれほどまでの恋に落ちてしまったのだ。
だけど、別に結婚したいとか、その後どうするかなんてどうでもよくて、ただキスをしたい。

序盤のコミカルな雰囲気はまるでギャグ漫画だ。だけど、お察しの通り、もちろん、裏がある。覆い隠せない不審感、不穏な空気。

タイザン5という漫画家の特徴は、「漫画である」という先入観を利用して、物語の世界をご都合主義なファンタジーに見せかける。だけど突然、ファンタジーから現実に突き落とす。そのギャップがなんとも苦しくて、心をつかんで離さない。

後半になって真実が明かされるわけだが、私はその語り口にも感心する。

あくまで主人公視点で、彼の体験したことと、彼の頭の中が明かされる。何が起こったかは言葉では説明されない。彼の経験が彼の言葉で語られる。
それは非常に新しくて、斬新で、残酷だ。

この先はほんの少しのネタバレを含むので、もし若干の興味があるなら騙されたと思って読んでみてほしい。5分ほどで読める。


考えても仕方ないことを考えてしまう。将来の不安、過去の後悔、他人からの視線。

何かを忘れたい時に、他のことに打ち込むというのは有効な手段だ。

だけど、他のことで気を紛らわしても、どれだけ忘れても、現実は変わっていてはくれない。一番自分を傷つけた姿で残り続けている。

結局、考えても仕方ないけれど、それでも考えなければ乗り越えられないのだ。考え続けて、考え疲れて、現実が変わらないことを諦め始めて、やっと受け入れることが出来る。



このアプリでは漫画に対してコメントを書けるのだが、

言葉にはなんか上手に表せんけど良かった!

というコメントがあった。

何が良いのかはっきりとは言えないその気持ちは、よく分かる。もっと文学的な才能があればこの作品の良さについてツラツラと書けるのかもしれないが、少なくとも今の私には無理なので、ぜひ読んで、この気持ちを味わって欲しい。

そして、もし言葉で表せる人がいたなら、ぜひnoteで書いてみて欲しい。そして、書いたら教えて欲しい。足跡を残しに行きます。

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