恋をすれば変わるらしい

学校が見え、あと少しと言うところでザーッと雨が降ってきた。梅雨に入ってからはいつもこんな調子で、天気予報は傘のマーク。もちろん一日中雨なんてこともないのだが、学校帰りに突然雨に降られてしまうなんて事もあった。

完璧主義とまではいかないが、忘れ物はほとんどしたことがなく、それどころか備えに備えを重ねるのだから雨を見ても「あぁ、靴が汚れてしまう」と思う程度で、すぐに傘をさし、備えが役に立つことに少しの満足感を覚えていた。そんな気持ちに水を指すように慌ただしく隣を駆け抜けていくやつがいた。見覚えのある後ろ姿だったから下駄箱に着いた時にはやっぱりかと思いながら「おはよう」と声をかける。ずぶ濡れの髪を拭きもせずにカバンを開けて何かを探しているその子は幼馴染で僕の方を横目で見るとお前かよと言わんばかりに適当な挨拶を返してくる。雨といっても6月はすでに暖かく、というよりもジメジメとしていて学校はすでに夏服が許可されていた。幼馴染が僕の名前を呼ぶと同時に僕は返事の代わりにセーターを投げた。

「洗って返せよ」

「わかってるじゃん。返す返す」

なぜかドヤ顔のあいつの耳には「返せよ」しか入っておらず以前ジャージを貸した時にも洗わずに返された。

「帰りはここで待ち合わせね。」

と言われて僕がなぜかと聞けば

「ほら、これ返さなきゃだし」

とすでに着られたセーターを両手で指差す。それじゃあ洗っていないじゃないかと心の中でつっこむ。

「それにワタシカサモッテイナイ。オマエ、カサ、アル。」

指をさしながら話すあいつはなんで片言なのかはわからないがここで断ればもっと面倒だ。

「お供させていただきます。」

気の強い幼馴染には低姿勢であれば話が早い。教室へ向かう時、別れ際に「よろしくね」と肩を叩かれる。なぜこんなにも偉そうにできるのだと呆れ半分ではあるが、部活を始めてからはしばらく別々帰っていた僕にとって相合傘なんてベタな展開を面映ゆく感じていた。


それから授業をはすぐにおわり、雨で屋内練習だった部活も早々に切り上げていつも帰っていた部活の仲間に今日は別で帰ると伝えた。「これか?」なんて小指を立てて僕に向けてくるが彼は僕が幼馴染と付き合えばいいと思っているようで僕は否定もせず「そういうことで」といって忍者が印を組むようにする。おっさんのようなやりとりが僕たちの部活では流行っていた。


下駄箱に着くとあいつはすぐに気づいて持っていたセーターを投げてくる。畳んでいたのに投げたら意味がないじゃないか。とも思うが広がったセーターはいつもと違う匂いを僕に運んで飛び込んでくる。


先に靴を履き替えたあいつは外で何か言ってる。「ちょっとまって」と言いながら靴を履き替えて目線をあいつに向ける。

「晴れてる!」

外は雨で濡れて色を増して見えた。水滴が反射してどこもかしこも輝いていて、その中であいつが着てる白い半袖シャツがやけに眩しくうつる。「日頃の行いかな〜」なんて、やはりドヤ顔でこちらを見てくるあいつが一瞬綺麗に見えた。もちろんいつも可愛いと言われてることは知ってるし綺麗と言えばそうなのだがこれまで意識していなかった。入り口の敷居をまたいだ瞬間ぬるい湯に浸かったように湿った重たい空気に包まれる。空気の不快さなど僕には関係なく、なぜか僕はあいつから目が離せないでいた。

「行くよ」と言われて先を歩き始めるあいつを追って入り口前の少しの階段を一度に飛び降りる。僕の頭からは傘のことなど抜け落ちていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?