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「本物」は自分を決して大きく見せない。2020年はインフルエンサーたちに踊らされないように生きろ! ~有名人でもない名も無き旅友Sちゃんについて語る~

2016年2月初旬。ぼくは自分とカンボジアを結びつけてくれたSちゃんと会っていた。Sちゃんが「ハンバーガーかぶりつきコンテスト」という謎のイベントに参加して、そこで特別審査員賞を勝ち取ったので、その賞品のハンバーガーを一緒に食べにきたのだ。

ハンバーガーを食べながらぼくはカンボジアでのボランティア体験などを、SちゃんはTBSで放送されたヒッチハイク女子特集に出演した経緯や世界一周する予定についてなどを、お互いに語り合った。

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ぼくは海外の話題に触れながら「次に行きたい場所は全く雰囲気が違う場所がいいな。そうだ、ドバイに行きたいかも!」と適当に思いついたことを口にしていた。発展途上国を見てきたのだから、今度は最新技術が導入されている金持ち国家に行ってみたいと思ったのだ。

そしてふとこの子と一緒に旅に出たら絶対に面白いだろうなと思った。この子が好奇心の塊だからということもあるが、怖いもの知らずで持ち前の勇気と自分の信念でどこにでも突き進んでいくところが素敵だったからだ。

この日、近くのカワイイモンスターカフェでは貸切で「Passoa Valentine's DAY GIRLS PARTY」というものが行われていた。

「女性のための」とついているところからわかるように、当然女性限定の、しかも当選したひとしか入れないイベントだった。このモンカフェの下を通った時、業界人っぽいおじさんたちがたむろしていて、なんのきっかけだったかは覚えていないが、ぼくらは彼らとちょっと言葉を交わした。そしたらSちゃんが色々とズバズバと切り込んでいき、あっという間にそのお偉いさんたちに気に入られてしまった。そしてSちゃんの友達のぼくも一緒にパスを貰い、イベントに参加させてもらったのだ。改めて言っておくが当然ながらその方たちとは初対面である。ついでにいうとTBSに出演するきっかけも三茶の飲み屋で知り合ったひとがTBSの社員でその流れで密着取材してもらうことになったらしい。不思議な奴すぎる!

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だから、ハンバーガーを食いながらその流れのままに「よかったらドバイに一緒に行かない?」と自然に誘っていた。Sちゃんは笑いながら即答で「ええで」と言い、「ただ世界一周のためにお金貯めているからお金がないねん」と答えた。だったら航空券と宿はセットで自分が取るから、向こうで使うお金だけ用意してくれればいいとぼくは提案した。そうしてその一ヶ月後、Sちゃんとふたりでのドバイ行きが唐突に決まった。

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旅友というのは中々不思議な間柄である。旅の間は家族みたいに一緒にいて感情も共にするのに、旅から帰ってきたら何ヶ月も会わないなんてのはざら。そして男女ふたりで旅をしていても男女の関係にならないことも多々ある。逆も多々あるが笑。下心ありで誘う男はもちろん大勢いるが、それはあくまで口説くための口実として旅を手段に使っているだけで、旅自体が目的ではない。

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旅を目的に一緒に行動する友だち。それが旅友だ。男女がお互いヘテロセクシャルならば、男女の友情はどちらかの淡い期待と諦観の上に成り立っているものだとぼくは思っている。もちろん違う意見のひともいるだろう。しかしながら、そんなぼくでも男女の友情が成立するのは旅という刹那の間に生まれるのではないか、と考えている。実際、ぼくとSちゃんは付き合っていないし、一度たりとも男女の関係になっていない。もちろん、ぼくから手を出そうとしたこともない。

しかし、Sちゃんの名誉のために言っておくと、Sちゃんは若くてとてもかわいい女の子である。実際、色々な男たちに言い寄られていた。ぼくもSちゃんのことは好きだ。でも、その好きは人間としての好きであり、さらに一緒にいるといつもぼくの知らない世界を見せてくれる人生の師みたいな奴だった。メンターに近いのだろうか。年齢こそぼくの半分くらいだけれど、人生何周もしているんじゃないかと思うくらいだ。だからこれは単にお金をはべらして若い女の子とリゾートしてきましたと言いたいわけではない。うまく言葉で伝えられるかわからないが今からSちゃんの人となりや人生観を紹介したい。

Sちゃんは「もし今日が人生最後の日だとしたらどう生きるか」というのを常に考えて行動している子だった。「常に死を意識して生きろ」とは自己啓発本などでもよく語られる言葉だが、「言うは易し行こなうは難し」だ。外見は普通にかわいらしい20代の女の子なのだが、自分が面白いと思うことを常に探している。家に引きこもっている日なんてこれまで1日もないと言っていた。彼女にとって何もない日というのは存在しない。空き時間にはよく本を読んでいたし、その当時、彼女は三茶の近くに住んでいたのだが、夜な夜な「三茶パトロール」と称し、三茶の様々な居酒屋を渡り歩いて変わり者の友だちをたくさん作ったり、道端で飲みつぶれている見知らぬひとを介抱してあげたりしていた。渋谷ではホームレスのおじさんたちと道端で酒を夜通し飲み明かしたり、ヒッチハイクも日常的に行っていた。

その当時、『嫌われる勇気』を読んでぼくは「課題の分離」や「承認欲求の否定」という概念について考えさせられていたのだが、Sちゃんもこの本は読んでいて、その上で何が面白いのかさっぱりわからなかったと言っていた。彼女にしてみれば、「課題の分離」も「承認欲求」も元から必要としておらず、「自分はこれだけすごいことをしたのだから目立ってやる」だとか、「有名になってチヤホヤされたい」だとか、そういうものは微塵も持ち合わせていなかった。三茶の飲み屋で知り合った金持ちのおじさんに「愛人になったらマンションを買ってあげる」と言われたが、それも興味ないから断っていた。ただ純粋にうちなる自分の欲求に素直な子だった。それが周りから見てどうとかまったく気にしない。そんな彼女だから友達は世界中にたくさんいたし、変人が多かった。彼女の友人の自称虫研究家がゴキブリが美味いと言って渡してきたら、これまた躊躇なく食べるし、土に埋もれて「地球を感じるわ」と寝たりもしていた。ただ、危機回避能力も人一倍高く、色々と危なっかしいことをしているのに本当に危険なことはしない。その辺のバランス感覚もすごいなと思っていた。

Sちゃんは2016年5月から世界一周の旅に出た。夢はいち早く叶えたいからということで当初の予定では200万貯めて行こうとしていたのを辞め、40万の資金だけで仕事も住まいも携帯も全て解約。颯爽と一人世界へ羽ばたいていった。語学もそこまで堪能じゃない彼女が危ない目にあってないか心配だったが、2016年末にニューヨークで再会した時には、いつしか英語もペラペラになっており、さらにヨーロッパでは金が尽きて住み込みバイトしたりヒッピーたちと洞窟で暮らしたりして、その中のひとりのイケメンドイツ人を彼氏にしていた。さすがだ。ぼくが人生を何周繰り返しても彼女には追いつけない。

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今はインスタやTwitter、YouTubeといったSNSで大きな影響力を持つインフルエンサーと呼ばれる人たちが「好きなことで生きている」。それに憧れを抱く多くの人たちが彼らの言うことに耳を傾けている。自分もいつかそうなりたいと。しかし、考えて欲しい。そういったエンタメで活躍しようと頑張る人は多くいるが、10人いたらそのうち9人は失敗する。たまたま運良く成功した1人が人前に出てきて、なぜ成功したのかを語るのだ。「そんなふうに考えていたから成功した」と彼らはもっともらしく語るが、それに騙されてはいけない。順序が逆だ。運が良かったか、たまたま時代の流れに乗れたから成功しただけなのだ。自分の頭で考えることをやめて、赤の他人で能力も環境も違うインフルエンサーたちの言うことだけを聞いても自分の人生は豊かにならない。彼らの言葉は参考程度に留め、自分にとってそれは再現性のあるものなのかよく考えた上で、自分の人生にとって何が本当に大事なことなのか考えることの方が重要だろう。

Sちゃんは今は中南米のベリーズという国でそのドイツ人彼氏と一緒に住み込みのベビーシッターをしながら、相変わらず面白いことを探しながら生きているみたいだ。世界一周をしたことを誰かに誇るわけでもなく、自分探しをしていたわけでもない。成功するかどうかなんていうつまらないことを考えず、ただ自分がやりたかったからやっただけ。そう彼女はいう。有名人でもない名も無き人だが、こういう人の中にこそ面白い人はいる。「本物」は自分を目立たせようと大きく見せたりしない。本当は自信がなくてつまらない人間だから頑張って目立とうとしているんだろ、これを読んでいるあなたも。Sちゃんが経験してきたことを書籍にすれば儲かるかもしれないが、興味がないからしない。フォロワーを増やそうとも思わない。自分の内なる声と常に問答しているから生き方にブレがないのだ。洗練されている。

すごいと思っているが、だからと言ってぼくは真似しようとは思わない……と言うかできない笑。だってぼくには彼女の生き方を真似ることは能力値的に再現性不可能だからだ。それに不惑の歳と言われている40歳だが、未だに思考はブレまくり人生悩みまくり。だからぼくはSちゃんのひととして潔い生き方を、その在り方を、リスペクトしている。

凡人のぼくには難しいことではあるが、今後の人生に後悔がないように、ぼくも他人からの承認がどうこうではなく、自分自身が心底やりたい、大切だ!と思うことを自問しながらぼくはぼくなりに今年は潔く生きていきたい。

まだまだ悩み続ける日々ではあると思いますが、2020年もねりなをどうぞよろしくお願いいたします。

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