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夜中図書室

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おはなし
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#短編小説

【未完】くだるふたり

【未完】くだるふたり

長い下り坂をFと歩いた。Fは学生時代からの友人で、何度か寝たこともある。最近は寝ない。私には恋人がいる。Fには寝るだけの友人がいる。また寝ることもあるかもしれないが、わからない。寝るか寝ないかはあまり重要ではない。かと言って他に重要なこともない。
坂の途中の自販機で、Fはいちばん甘そうなジュースを買った。果汁は入っていない。ふた口ほど飲んで「あげる」と缶を差し出される。「嫌だよ」と言う。Fはしぶし

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◆短歌◆小説◆ロリィタ幽霊

◆短歌◆小説◆ロリィタ幽霊



BABY, THE STARS SHINE BRIGHTと呟きピンクの煙になるの

『それいぬ』はお守りだから持っていく黄泉比良坂歩きにくいな

もし来世何になれるか選べたらエミキュのOPの柄になりたい

幽霊になった貴方は淡色で前よりずっとモワティエ似合う

藍白のトーションレースに絡まって呼吸は止まる願いが叶う

仄暗いメゾンに佇むあのひとを押し花にした栞をはさむ

今生は花になるための

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◆小説◆交信と連鎖

◆小説◆交信と連鎖

月を齧って欠けた歯を埋めた植木鉢から、にょきりと緑青色の植物が生える。
薔薇に似た鉱物のような白い花が咲き、夏のはじまりに朽ちる。やがて重たげな実が付き、はち切れそうに艶やかに実っていった。
相変わらず宿無しのYがスーパーの半額の寿司と安酒とアイスキャンディーを持ってやって来たのは、風のない暑い夜だった。
Yは以前よりも痩せ顔色も悪かったが、瞳には昔と変わらない、金星でも嵌め込んだかのような光があ

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◆小説◆鬼が来る

◆小説◆鬼が来る

夕暮れにチャイムが鳴って、Aかと思ったらAによく似た鬼が立っていた。
「Aかと思った」
「よく言われます」
「代わりに来たの?」
「まあ、そうですね、あなたがカレーを用意してると言うので」
「そっか」
鬼を部屋にあげる。気がつかなかったが、Aよりもきちんとした良い服を着ている。なんだかそれがおかしかった。
デパートのインドフェアで買った平たい銀色の皿にカレーを盛る。今日は本で読んだインド風の玉ねぎ

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