マガジンのカバー画像

夜中図書室

12
おはなし
運営しているクリエイター

#幻想小説

【未完】くだるふたり

【未完】くだるふたり

長い下り坂をFと歩いた。Fは学生時代からの友人で、何度か寝たこともある。最近は寝ない。私には恋人がいる。Fには寝るだけの友人がいる。また寝ることもあるかもしれないが、わからない。寝るか寝ないかはあまり重要ではない。かと言って他に重要なこともない。
坂の途中の自販機で、Fはいちばん甘そうなジュースを買った。果汁は入っていない。ふた口ほど飲んで「あげる」と缶を差し出される。「嫌だよ」と言う。Fはしぶし

もっとみる
◆小説◆生贄の羊

◆小説◆生贄の羊

兄が生贄に選ばれたので、爪を磨くのを手伝っている。兄は村で一番美しい男だったから、生贄に選ばれたと聞いても誰も驚かなかった。幼いころからはっと息を飲む美しさがあったが、最近は美貌に年頃の若者のもつ鋭利な危うさと妖艶さも混ざり、寄れば熟れきらない南国の果実の香りさえした。美しい足を膝に乗せ、一本一本爪を磨く。兄はそれを静かに見ている。



数年前、一時帰国した叔父がパパイヤを切り分けながら「日本

もっとみる
◆小説◆映ずる

◆小説◆映ずる

Sが鏡に映らないのに気がついたのは、夏休み前、研究棟旧館のひとけのない階段の踊り場の大きな鏡の前だった。思わず「あ」と口に出し、鏡とSを何度も見る私に、Sは「体質なんだよね」と恥ずかしそうに笑って見せた。
「気がつく人はたまにしかいない。というか、ほぼいない。中学の時に近所に住んでた兄ちゃんと、高校の時の教育実習の先生くらいかな」
「家族は」
「気づいてないよ」
「大学にもいないの?」
「貴方が初

もっとみる
◆小説◆塔の上の

◆小説◆塔の上の

その塔は引越し先のアパートから15分ほど歩いたところにあった。
何のための塔なのか、検索してみても詳細は掴めず。
周りをぐるぐる歩いてみる。窓のようなものがある。入口のようなものがある。壁面は少し苔むしてヒビが入っている。
のぼりますか。
後ろで声がする。大人なのか子どもなのか、男なのか女なのかわからない人物が、にこにことこちらを見ている。
のぼってもいいんですか。
かまいませんよ。ここの主はとう

もっとみる