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ダ・ヴィンチ子宮全摘出手術2 入院日・口腔外科と最後のシャワー

ダ・ヴィンチという手術支援ロボットを使って、子宮全摘出手術を受ける。
34歳の5月半ばのこと。

口腔外科

入院して早速、暇になってしまった。
ベッドに腰かけて、持ち込んだ電子書籍リーダーで読書を始めた。
少しでも明るい気持ちになりたくて、ダウンロードしておいた和山やま『女の園の星』第2巻を読む。

くだらないのに笑ってしまう。
これは術前に読んでおいてよかった…多分術後は腹筋が死ぬな…と思い読み進めていくと、不意に看護師さんがやってきた。
「練りものさん、口腔外科の順番がきたので行ってくださーい」
「えっ、もう!?夕方かと思ってました」
「患者さんの枠に空きができたので、どんどん繰り上げてます。行き方、わかる?」
「わかります。下まで降りて、渡り廊下の向こうですよね」
「そう。予約票忘れずにねー」
時刻は11時半くらい。
病衣でスースーと心許ない姿で口腔外科に向かう。
診察台で待っていると、前回と同じ衛生士さんが出てくれた。
「今日は、上の歯のお掃除をしていきますね」
私の上の歯並びは壊滅的で、虫歯も多い。
そのせいなのか、下の歯のように全てを手入れすることなく、要所要所を攻めてきた。
やっぱり、水がしみる。
もうお湯じゃないとうがいができなくなっている。
キュリキュリと超音波で歯石を取った後、たこ糸が通されていく。
一瞬痛いが、終わると妙なスッキリ感がやはりある。
終わった後、台に置かれた糸を見ると茶色く汚れていた。
あんな汚れを長年放置してきたのか…。
また少しすると、歯科医が登場。
「明日、いよいよ手術ですね。前回も見たように、親知らずが4本控えていますよねー。これをどうするか、最後に行った歯医者さんにでも一旦見てもらって、その後抜くかどうか考えてみるといいと思います。多分、うちに紹介がくると思いますが」
はぁ、また歯医者行くのか…気が重い。
「まずは明日の手術を頑張って、体調が落ち着いてからまた考えましょう」
本日の診療はこれにて終了。
大きな宿題を残されてしまった。
先生方にお礼をしてから、病棟に向かった。
口の中に、ペーストの味が少し残っていた。

病室に戻るともう12時過ぎ。
ベッド脇のテーブルにはもう昼食が置かれていた。
そうか、午前から入院すると昼食から出てくるのか。
本日はカレー

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いきなり嬉しいメニュー。
バランスも理想的だ。
カレーは刺激少なめの甘めだったが美味しかった。
これが最後の昼ごはんだ。
持ち物整理のときに、スプーンは要らないかなあと思ったが、こういうメニューもあることをすっかり忘れていた。
mont-bellのスタックイン野箸と、ユニフレームの折り畳みスプーン・フォークを持参した。
病院はサバイバル。
少しでもテンションが上がるギアを。
早速のカレーライスに元気が出て、足取り軽く下膳。

この病院では、食事は1日3回。
朝8時、昼12時、夕18時。
スタッフさんがベッドまで食事を運んでくれるが、基本的に自分で下膳する。
食事開始時刻の30分後くらいまでは、廊下に食器回収用のラックが置かれているが、間に合わなかった場合はスタッフステーションまで持っていく。
この日の昼食も、遅く食べ始めたためラックの時間に間に合わなかった。
また、食事開始20分後くらいに看護師さんや看護助手さんが見回りに来る。
食べるのに時間がかかる私にとって、割とこれがプレッシャーだった。
「ゆっくり食べてていいですよ〜」
と言われはするが、何となく焦ってしまう。
別に競争ではないから無理することはないのだけれど。

最後のシャワー

食後、また暇になったので、電子書籍の続きを。
やけに静かな病棟で、ぬるっとした小説を読み進める。
時折、ロビーの冷水機で汲んだ水を飲みながら。
「練りものさーん」
不意に現実に呼び戻される。
シャワー空いたんですが、入れますか?」
「はい、入ります」
タオルや石鹸類を急いで用意。
替えのパンツは寝る前でいいや。
上がったらナプキンだけ替えよう。
鏡とシャワーと棚2段、そして腰かけがついている小さなシャワールーム。
前に乗ったフェリーの個室のシャワーよりは断然広い。
いつもの旅行のユニットバスだと思って、頭から順にてきぱきと洗っていく。
出血する、子宮のある身体で浴びる最後のシャワーだ。
明日、きれいな身体で手術に挑めるように、祈るように石鹸を擦り込み洗う。
さっぱりすることができた。
終わったら看護師さんに伝えなければならないので、びちょぬれの頭にタオルをかけた状態でスタッフステーションまで行く。
「710号室の練りものですが、シャワー終わりました」
眼鏡をかけた小柄な看護師さんが近くにいたので伝えると、
「あ、練りものさんね、どうも。病棟師長の◯◯です」
と自己紹介されてしまった。
「あ、よろしくお願いします。こんな恰好ですみません」
突然の大物に、恥ずかしいやら申し訳ないやらで苦笑いしながら下がる。
ランドリー室で髪にドライヤーをかけて、いつもの風呂上がりの自分に戻った。
病室に入ってタオルを干し、ベッドの上で軽くストレッチをした。
少しでも、いつもの自宅に近いことをして心を落ち着けたい。

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