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十二国記 風の海 迷宮の岸

きてしまった、Episode2。
※ネタバレあり

記事を書こうと本を開き、PCを開く。
ダメだぁ(´・ω・`)
普段からない語彙力が、さらに消える。
言葉にしようとするも、その努力は虚しく消え去るほど素晴らしい。

そんなこと言ってたら、いつまでも書けないので書いてみる。

私が思うに、人とは自身の生まれた意味(目的)を知りたいと望む。
それゆえに、特定の思想や哲学があるとかないとか。
専門家が、そういうことは教えてくれますよ、きっと。

なんのために生まれたのか?
それが奪われる時の悲痛は、どれほどのものか。
人の人生において様々なことが与えられ、奪われる。
当たり前のことではあるが、なかなか気づくことが出来ない。
よって、人は”突然の出来事”に理性や感情が追いつかない時がある。

真意を見出し、理性が追いつく時に人はどう思うのか。
私はその尊さや、あたたかさを教えてくれるのが、この本であると思う。

1.プロローグ

まず、驚きましょう?
プロローグがね、Episode0と同じなんです。
私は間違えて再びEpisode0を手に取ってしまったのかと、
カバー外して確かめましたよ。

合ってた(OvO)

Episodeナンバリングじゃないとタイトルが覚えられない。
だから最初にネット見ながら、本棚の十二国記を並べ替えたんです。
順番通りに並べたはずなんだけどな…
はい、ちゃんと順番通り並んでおりました。

Episode0のプロローグと同じ。
そうであるならば、これは、あの高里の物語。

この物語は、Episode0で書かれていた彼が”神隠し”にあい、
記憶がない時期に何が起こっていたのかが書かれている。

彼の居場所はどうであったのか。
なぜ彼は違う世界にいくのか。

2.内容

13章立ての全体構成。

1つの国に、1人の王が与えられる。
その王を選ぶのは麒麟である。

この異世界が、我々の世界と違うところの1つには、
木から生まれることがあげられる。

麒麟は捨身木(しゃくしんぼく)に実る。
麒麟に親はなく、親の代わりを務めるのが女怪(にょかい)の務めである。
女怪は、捨身木の根に実るのである。
女怪は生まれてから、麒麟の実がなれば、見守る役割を持つ。

この物語は女怪、白 汕子(はく さんし)が生まれるところから始まる。
生まれてすぐに、白汕子は守るべき麒麟を思う。
これが、彼女の生まれた理由だからであろう。

麒麟の実が木になってから、白汕子は守り続ける。
しかし、”蝕”によって麒麟の実は消えてしまう。

それから、こちらの世界で10年ほど経ち麒麟が戻ってくる。
これがEpisode0で高里と呼ばれていた子の、神隠しにあった頃である。

「やっぱりうちの子じゃなかったんだ」
幼い彼は、孤独でありながらその境遇をすんなり受け入れる。

自分の居場所を感じられなかった時とまったく異なる異界の地。
しかし、彼は自身のいるべき場所を見つける。
今までにない、あたたかさに触れる。

麒麟とは、人の姿にも麒麟にもなれる。
しかし、別の場で育った彼には、その地で普通に行われていることが
分からない。
他国の麒麟に協力を得て、様々なことを学ぶ。
彼は同時に、麒麟の役目である王を選ぶことに自信を持てない。
わずか10歳だ。

しかし、物語の最後に王が決まる。
載国の国王、泰王の即位。
そして、載国の物語が始まる。

3.感想

Episode0から読んだ私のような新参者は、どう思ったのかともかく。
私はひたすら、あたたかいと思った。

まず、プロローグに盛大に驚かされた。
今読んでも、時代設定がよく分からない描写。
とにかく寒そうで、理不尽さを思う。
幼くても少しくらい言い返せば良いのに、とさえ思う。

そして1章の始まり。
白汕子の生まれる描写が書かれる。
何のために生まれるのか目的が明確。
自身も知らない間に受けた生と同じくらい唐突に、
その目的が目の前で消失する。

なぜ白汕子は涙を流すのか。
麒麟の実がなったことへの喜びなのか。
自身の役割についてなのか。

白汕子は涙も流すけれど、まだ孵ったばかりで濡れている。
この濡れている様子が、何とも美しいと思わせる。
涙を流す理由はわからないけれど、文章が美しい。
そして、あたたかい。
まだ自身が乾くことのない間、その時間の短さを、
濡れている状態が描かれることにより表されているのだろうか。

ページを開いて1枚めくるごとに戻りたい。
そう思わせる。

彼が白い手の、すぐ間近へ歩いていくと、白い手は迷わず彼の手首を握った。
冷えた肌に、その手の感触はひどく暖かかった。
………「タイキ」半獣の女はそう言ったが、それが何を意味する言葉なのか、彼にはよく分からなかったし、ましてやそれが彼女が十年ぶりに発した言葉であることなど、分かるはずもなかった。
「泰麒」彼女の柔らかな手が髪を撫でて、同時に丸い眼から澄んだ涙が零れた。彼は、いつも母親にするように手を握ってその顔を覗き込んだ。「悲しいことがあったの?」

小野不由美『十二国記 風の海迷宮の岸』
(新潮文庫、2022)、52-54頁。

プロローグの話が、ここで繋がる。
雪が降ってるくらいなんだから、とても寒いんだろう。
この寒さは気温だけじゃなく、彼の人生にも言えると思う。
しかし、白い手が暖かい場へとしっかり握って彼を連れ戻す。

泰麒(たいき)、載国の麒麟だった高里。
泰麒も好きなんだけど、白汕子が泣ける。
もう好きって表現じゃ足りない。
あまりにも美しく、なんだか悲しい。
私に表現力も語彙力もないのが悔やまれる。
本当に表現しきれない。
泣けるって書いても何も伝えられないと思うので、
十二国記のEpisode0と、Episode2を読んでください。
お願いします。

政、国、この世の理。
多角的な面から楽しむことが出来るのが、
十二国記シリーズの魅力の1つ。

たくさん出てくる獣の中でも、騶虞(すうぐ)を見てみたいなって
思う楽しさ。

1つ前のEpisode1に出ていた、あの景麒が幼い泰麒を
自分の背に乗せてあげるところも良い。

天啓がないから自信なくとも、泰麒がそれでもなんかこの人じゃないと!!と、驍宗(ぎょうそう)王を選ぶところも良いです。
しばらくの間、天啓がなかったのに王を選んでしまったと泰麒が
罪認識に苦しむことについて考えるのも良い。
また、その泰麒の苦しみをサラッと雁国の延王が否定するのも良い。

「--麒麟は偽りの誓約など、出来はせぬ」
目許を和ませた延の頭を、延麒がぞんざいに叩いた。
「王の分際で見てきたように言うんじゃねぇ」

同上、362頁。

本当に多角的に考える楽しさが、この物語にはあります。

しかし、今回はとにかく汕子。
Episode0を読んだからこそ、”白い手”や”犬のような”存在が
単なる怖い話じゃなくなる。
”犬のような”それは、泰麒が初めて使いとしたもの。
ホラーテイストの”説明できない何か”が、なんであったのか。
異世界側でも必死であったことが分かるのだ。

4.まとめ

今のところ、1番内心大騒ぎで大変だったかもしれない。
とにかく、私にとってこの物語に限っては汕子ありきなのです。

自身が生まれた目的を、生を受けてすぐに確信する。
初めて発した言葉は、守るべき対象である「泰麒」。

見守り続けると側にいたのに、あっけなく失う。
国に戻って来た泰麒の側にいるも、泰麒の選んだ驍宗(泰王)が就いたので、汕子は再び新たな麒麟が生まれ、見守る、それまで見守り待つ。

目的は唐突に与えられ、同じく唐突に奪われる。
消えると言うべきか。
遂行されたと言うべきか。

理性が追いついても、感情はどうなのか。
それが役割であり、与えられた使命である以上、
それぞれが与えられた相応しい場にいる。
その場にいることが出来るのは、その場があるからだ。
国の誕生と成立であり、喜ばしいもの。


それでも、汕子!!って私は思ってしまうのです。
泰麒を守る重責を担う優しい女妖、汕子。
汕子が泰麒を愛おしいと思うのを、私は愛おしいと思う。
これも私の好みが斜め上だと言われてしまう理由かもしれない。

それでも、汕子!!って私は思ってしまうのです。



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