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精神障害者、オーダーメイド車椅子に乗る

私はよくこんなことを言われます。

精神疾患なのに、車椅子なんですか?

そんないい車椅子乗ってるから歩けないんじゃないですか?

それを聞くたび、「うーん、そういう意見の人もいるのか」と思います。

私が車椅子を使う根本的理由は、転換性障害に「歩行困難」という症状があるからです。

どんな感覚なの?ということを説明すると、体全体に力が入らなくなって、脱力した感じがして、歩こうとすると膝がガクガクしたり、100メートル歩くだけで疲れてしまったり。
発作の後は特に症状がきついです。

私は、車椅子の生活になって3年が経ちます。
以前はスタンダードな病院にある系の車椅子に乗っていました

それはネットで買ったもので、「乗れればいい」って、安さ重視で購入しました。
あとネットで買ったのも、車椅子業者の知り合いがいなかったからです。
業者は存在していますが、精神障害者が車椅子業者に問い合わせるなんて、変かな?と自分で思ったのと、両親に相談してから買ったので、「娘が車椅子生活になるなんて」と実感させたくなかったのもありました。

ネットで買ったスタンダード車椅子は、すぐにどこのパーツかわからないネジが外れました。
業者を知らないので、その度にホームセンターに駆け込み、「これと同じネジください!」と言って、パーツを揃えていました(時々置いてないのもありました)。

そんなことをしてるうちに、1年でハンドリムという漕ぐ時に掴む部分がまっぷたつに割れました。
流石にこれは直せない…!
幸い友人に身体障害で車椅子に乗っている子がいて、その子に業者を紹介してもらいました。

業者に修理依頼をするなら、移動のしづらいノーパンクタイヤもチューブタイヤに変えてもらうことにしました。

しかし、頼んだ時その業者さんは「このメーカーだとうちで取り扱ってないから、修理できないかも…」と言っていました。

それでもなんとかお願いして、私の車椅子はチューブタイヤとアルミ製リムのついた車椅子に大変身。
(業者さんはものすごく苦労したようですが…)
そしてその修理費の方が、車椅子本体より高くつきました

そんなこんなで生活していましたが、私は車椅子を買ってからというもの、自分のスタンダード車椅子に対して「動きづらいんだよなあ…」と感じていました。

まずエアーにしたところでタイヤが22インチなので進みがものすごく遅いのと、タイヤの位置がかなり後ろにあるので漕ぎづらい
そして長時間の移動は腰が痛い
車椅子ユーザーの友達と出かけた時、私の車椅子が動きづらすぎるが故、置いてけぼりを喰らうこともよくあったし、人に押してもらう時も「これすごく重い」と言われてなんかちょっと恥ずかしい…申し訳ない…と思ったこともありました。

それを車椅子ユーザーの友達に相談してみました。
車椅子ユーザーの友達に、精神障害者が車椅子の相談をするなんて、どう思うんだろう…と思いましたが、友達はこう言いました。

「もういっそ、私みたいなアクティブ系にしちゃえばどう?」

「好きなの乗ったらいいんだよ、周りに何言われても、その人に迷惑かけるわけじゃないし、乗るのはみきちゃんだよ」

そして印象的だったのは

健常者が靴選ぶのと一緒じゃない?

という言葉でした。

その日から、私は友達の「靴選びと一緒」という言葉に励まされ、アクティブ車椅子を徹底的に調べました。

そもそもアクティブ車椅子とは、障害者が自分で移動するのを前提に作られた車椅子です。
機能性、デザインもいろんなものがあります。

ネットでは国産メーカーは「カドクラ」というメーカーが既成のアクティブ車椅子を生産しています。

ただ、ネットで買うのは実際に乗って試せないから、超危険!ということを1回目の車椅子購入で思い知った私は、ネットショッピングからの情報を一括して遮断しました。

また、既成のものになると、選べるのは座幅くらいで、座面の位置やタイヤの位置、フットレストの高さは選べません(カドクラはフットレストの形状は選べるようでした)。
腰痛にかなり悩まされていた私は、「いや、どうせなら自分の体に合った車椅子を業者に頼んで、業者から買った方が絶対いい」と考えました。

それで第一候補に挙げたのは、日進医療器の「urban」という機種です。
クラッチが日進でつかいやすかったので、信頼を置いていたメーカーです。

しかし標準装備オプションなし(つまり解除グリップもない状態)で28万とかなり高価
精神障害者は今の日本の制度では、福祉補装具の購入補助は降りないので、非課税とはいえ全額負担です
28万にグリップとかオプションつけて、30万くらいを全額負担!?と思い、速攻で辞めました。

それで色々友達や業者さんに相談して、たどり着いたのが、今の機種、松永製作所の「Suai Ⅱ」です。
これは先ほどの車椅子ユーザーの友達が乗っていて、「もうずっと乗ってる」とのことだったので、それだけ動きやすさはあるのだろうと思い調べました。

今は物価高で値上がりしてますが、その時は19万4000円とurbanの約半分の値段
で、そこに介助グリップとか、転倒防止キャスタとかをつけて、大体24万円。
業者さんが精神障害にかなり理解のある人で、「補助が降りないのはきつい!」とクッションは値下げしてくれることになりました。

そんなわけで今私は、オーダーメイドのSuai Ⅱに乗っているのです

これ1台、お祭り、花見、仕事もカフェもどこへでも。

SNSで普通に車椅子に乗った写真を載せると、「いいよね、そういう車椅子乗れて」「お金あるんですね」とか言われるんだけど、解離性障害は年金受給者対象外なので、正直お金なんてないです(笑)。
家族と話して金銭面で手伝ってもらいながら購入しました。
しかし運が良かったのは事実。
実家暮らしだからできたことだとも思います。

そもそも、「補装具を必要とする精神障害を持つ人が体に合った車椅子に乗れる機会」を奪っている、今の福祉制度自体どうなんだ?という感じもします。
「心のバリアフリー」を掲げる行政が、障害をざっくり区別して、必要なサービスを受けさせないというのは、本当に心のバリアフリーと言えるのかなあ…。

というわけで私はオーダーメイドのアクティブ車椅子に乗っています。
自分が良ければ「スタンダード車椅子」でも「既成のアクティブ車椅子」でもいいんです。

ただそれを実現するのに、経済面や家庭環境など、障害当時者個々の格差が出てきても良くないから、早くウェルビーイングに見合った制度を設けて、各々が必要な支援を得られればいいのにな、とは思います。

そんな私も、自力で車に車椅子を積むことがなかなか困難で、車載装置をつけたいと思ってメーカーに相談したら、50万はするとのことで、「あ、無理ですね!」と秒で断念しました
逆に身体障害者の場合、精神障害と違い通院やリハビリの補助金は降りないということです。
これも世知辛いというか、自分たちは好きでなっているんではないだろうに、なんだかなあ…酷い話だよな…と思ってしまいます。

先日、「見える障害になりたかった」という旨のnoteを書いたときに、インスタでたくさんの人から励ましてもらったのですが、その反面私は思いました。
見える障害の人も、心のバリアフリーがない中で、困難を抱えているんだよなあ、と。
隣の芝生は青く見えるものですよね。

どちらがいい悪いとかじゃなくて、みんながとりあえずは「物理的」な困難を解消できるのが、世の中の課題かな、と思います。


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