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君との時間

元気にしていますか?


去年、私はSNSである男の子と出会った。彼は、同い年で都内在住、三浪中の医学部受験生だった。

今年こそ都内の有名私立医大に合格したいと言っていた。彼の家は、代々医者の家庭で彼の姉も浪人して医学部に通っているそうだ。

私とは明らかに家の格が違うし、本当のお金持ちっているんだって感じさせるエピソードをいくつも持っていたから新鮮だった。だけど、彼自身はとても素直で高飛車なことも言わない非常に素敵な人だった。

彼と出会ったのは、ちょうど私のメンタルがボロボロにやられて自暴自棄になっていた時期だった。その頃はよく自傷していた気がする。

「お願いだから死にたいなんて言わないで。体を傷つけないで。僕が悲しいから。」

彼は何度も私に寄り添って助けてくれた。彼の言葉でどれほど救われたかわからない。

私は未だにこんなにも人の脆さに寄り添う優しさがある人に出会ったことがない。それぐらい、器が大きくて真っ直ぐな心の持ち主だった。

もちろん、実際に会ったことがあるわけではないから、本来の彼を知っているわけではない。でも、数ヶ月の間、ほとんど毎日電話で話していて感じた印象だから間違ってはいないだろう。東京オリンピックが始まる前だから6月から10月ぐらいまで。

ちょうど、彼が塾から帰る時間(彼は電車が嫌いだから車かバイクか自転車に乗っていた)と私のサークルが終わるタイミングが同じで、その時間に話すのが常だった。(私は京都の大学生)

彼は、帰り道に通る代々木公園や原宿、渋谷の様子を実況して私は色々とその様子を聞いていた。そしてお互いに今日あったことを話していた。

彼の勉強が一区切りついた夜は、寝落ちしながら、生い立ちから趣味、恋愛の話まで色々なことを話した。

日中、たまに送られてくる彼の昼ごはんの写真(@ホテル!)、別荘で勉強している写真、代官山のスタバで勉強している写真で、マウント取られるのが悔しかったけれど、それすら楽しくてしゃべっていた気がする。


暗黙の了解としてお互いに会うつもりは全くなく、ただいつか関係が終わると分かっていた。

ついに、10月の某日、彼は言った。

「そろそろ受験に集中したいから連絡とるのやめるね。今までありがとう。」

ありがとう。それは私が一番言うべき言葉だろう。

ありがとう。君のおかげで穏やかな数カ月が送れたよ。受験、応援してる。

「ありがとう。」

それならパタンと連絡をとらなくなった。


雑務に追われ、多くの経験を積んでいるうちに君との思い出が薄れていった。

そして、春が来た。君は合格したのだろうか。元気にしているのだろうか。

私はね、この3月に初めて君がよく通っていた代官山の蔦屋書店に行ったよ。別に君に未練があるとかじゃなくて、単純な興味。

君の顔も知らないし、本名も知らないから、もし今後出会ったところでお互いに気がつくことは絶対にないだろうね。

ただ、君が楽しい大学生活を送って、素敵な医者になってくれたら良いなって思う。

もし、もしだよ、いつか再会、いや出逢ったら、またその時はお互いの話でもしようよ。



〈追記〉
本当は上記で話を終えるつもりだったのに、未練のある私は一言連絡を入れずにはいられなかった。

「久しぶりだね。元気だった?」

どうせ返信なんてないだろう。変に期待したくなくて通知を切っていた。

2週間経ってから開くと、

数行のメッセージと5件の不在着信。

嬉しくて涙が出た。

ああ、君は生きてたんだね。良かった。連絡をくれてありがとう。ああ、この上なく嬉しいよ。

相変わらず突然電話するよね、出られないって。

返信に気がつくのに2週間も経ってごめん。今度話そうよ。あとね、本当は会いたいの。

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