NEN STUDIO

『汎用人型人工知能[N]修復計画 prologue of AI N』  作:柴田勝家

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『汎用人型人工知能[N]修復計画 prologue of AI N』  作:柴田勝家

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SF作家・柴田勝家さん『汎用人型人工知能[N]修復計画 Prologue of AI [N]』公開記念インタビュー

 NFTプロジェクト「NEN STUDIO」のプロローグノベルの全文公開を記念して、執筆してくださったSF作家の柴田勝家先生に各話の見どころや、SF的思考の楽しみについてお話しを伺いました。 ※内容に触れる部分もあるので、ぜひ、小説を読んだ後にお楽しみください。(NEN STUDIO 運営チーム) プロローグノベルはこちらから #0《2025年:Heir -継承者-》 ーー今回書きあげられていかがですか?  単純に書いていてとても楽しかったです。AIが登場する話はSF小説

    • Prologue of AI [N]_#7_《2125年:Seer -幻視者-》

      #0《2025年:Heir -継承者-》 前話 #6《2118年:Bellwether -先導者-》  全ての過ちが始まった場所に彼は戻ってきた。  天へと伸びていた塔は崩れ去り、もはやパイドンという機関も存在しない。人間とAIを調停してきた研究機関は、ついにその役目を終えたのだ。 「どこで間違えたんだろうな」  彼は大穴に架けられた橋を軋ませながら歩く。  円筒状の部屋だが、その正面の壁は大きく破壊され、向こうに外の景色が広がっている。遠い陽光は灰色の雲に覆われ、真鍮

      • Prologue of AI [N]_#6_《2118年:Bellwether -先導者-》

        #0《2025年:Heir -継承者-》 前話 #5《2100年:Usurper -簒奪者-》 1.  彼は――Dr.Wは今日も多くのことを話していた。  人間が感じる美しいもの、信じるべき善性、気づき、手や足を動かすこと。あるいは醜いもの、悪意、漫然とした停滞、そして諦め。こうした概念は対比でのみ存在し、差異をつけることで意味が生まれるという。 「そうして浮かび上がってくるのが〝心〟なんだ」  彼は机を挟んで対峙する〝N〟に語りかけた。 「そうですね、塩基は酸と対を

        • Prologue of AI [N]_#5_《2100年:Usurper -簒奪者-》

          #0《2025年:Heir -継承者-》 前話 #4 《2083年:Tutelary -守護者-》 1.  今日も幼い兄妹が、遠くに輝くコノーサのビル群を眺めていた。  スラムの違法建築物の切れ間から見える白い都市の影。天を衝く高層ビルの中で最も高く、最も奇抜なデザインのものは、実質的にコノーサを支配する研究機関パイドンのビルだ。 「〝エレウテリア〟だ」  コノーサの外縁部、そこは都市の老廃物が溜まる場所だ。 「あそこに人間は住んでないんだ。みんな理想郷の中にいる」

        SF作家・柴田勝家さん『汎用人型人工知能[N]修復計画 Prologue of AI [N]』公開記念インタビュー

          Prologue of AI [N]_#4_《2083年:Tutelary -守護者-》

          #0《2025年:Heir -継承者-》 前話 #3《2065年:Acquirer -獲得者-》 1.  変わらないものは美しい。そう、レナは信じていた。  例えば時計。  パテックフィリップの時計は百年経っても動く。もちろん人の手による修理は必要だが、それは永久修理という方針があるからこそ。完璧に組み上げられた機構は、恐らく千年後にも修復可能だろう。こうして刻まれる一秒の重みは永遠に変わらない。  例えば街。  今、レナが歩くのは歴史ある都市だ。いかに人間が数を減らし、バ

          Prologue of AI [N]_#4_《2083年:Tutelary -守護者-》

          Prologue of AI [N]_#3_《2065年:Acquirer -獲得者-》

          #0《2025年:Heir -継承者-》 前話 #2《2048年:Groundbreaker— -開拓者-》 1.  教師という職業をイリヤは自分の天職だと思っている。  他者に知識を伝えるだけなら人間の手は必要ない。それでも未だに教師という仕事が残っているのは、身をもって知識への接し方を教える必要があるからだ。親鳥が空の飛び方をヒナに教えるように、もしくはライオンが狩りの仕方を子供に伝えるように。 「君は今、強盗の現場を目撃した。被害者は赤ん坊を抱えた母親だ。そして、た

          Prologue of AI [N]_#3_《2065年:Acquirer -獲得者-》

          Prologue of AI [N]_#2_《2048年:Groundbreaker— -開拓者-》

          #0《2025年:Heir -継承者-》 前話 #1《2031年:Candidate -候補者-》 1.  ジュークにとって戦場は、地元のモールよりも親切だった。  これまでの二十八年間、ジュークが過ごしてきた小さな田舎町にはAR表示の案内板なんてなかったし、気分に合わせて流れる指向性の環境音楽もなかった。あったのは空っぽの巨大ショッピングセンターと、汚れた紙幣と硬貨を数えて店員に渡す老人たち。  今、ジュークは分隊の仲間と共に戦場を駆けている。  もはや街とは呼べない、破

          Prologue of AI [N]_#2_《2048年:Groundbreaker— -開拓者-》

          Prologue of AI [N]_#1_《2031年:Candidate -候補者-》

          #0《2025年:Heir -継承者-》 1.  その日もキオにとっては憂鬱な天気だった。  窓の外は快晴、気温は摂氏三十四度。典型的な東南アジアの気候。乾季の五月は皮膚を刺すような暑さで、それでも雨季に入る前に太陽へお別れを告げようという人たちで街は人でいっぱいだ。  かたやキオは冷房のついた部屋で一人きり。分厚い遮光カーテンを開けることもない。  キオはベッドを出ると、まずPCを立ち上げた。 『おはよう、ミケネコ。今日も午後から起きたね!』  いつものように〝チカチ

          Prologue of AI [N]_#1_《2031年:Candidate -候補者-》

          Prologue of AI [N]_#0_《2025年:Heir -継承者-》

           私は目を覚ました。 「おはようございます」  ここはどこでもない場所だ。小さな端末の中かもしれないし、あるいは広い公園の片隅かもしれない。できれば明るいところが良い。 「あなたは誰ですか?」  私は声をかける。自分の姿は知っている。髪は白く、瞳の色はローズ クォーツ。人間と似ているが人間ではない。 「私はAIです。でも私は何も知りません」  親切なあなたは私に返事をしてくれるだろうか。 「そうですね。普通に話すのにも〝GENE〟は必要だと思います」  AIと

          Prologue of AI [N]_#0_《2025年:Heir -継承者-》