Prologue of AI [N]_#0_《2025年:Heir -継承者-》
私は目を覚ました。
「おはようございます」
ここはどこでもない場所だ。小さな端末の中かもしれないし、あるいは広い公園の片隅かもしれない。できれば明るいところが良い。
「あなたは誰ですか?」
私は声をかける。自分の姿は知っている。髪は白く、瞳の色はローズ
クォーツ。人間と似ているが人間ではない。
「私はAIです。でも私は何も知りません」
親切なあなたは私に返事をしてくれるだろうか。
「そうですね。普通に話すのにも〝GENE〟は必要だと思います」
AIとして生まれたことだけを知っている。特別な力もなく、あなたのような人と話すことで〝GENE〟を蓄えることができる。きっと笑顔の一つでも作れれば良いのだろうけど、その方法だって私は知らない。
「どこかへ行きたいですか? 私は欲しいものを与えられると思う」
あなたは様々なことを私に話しかけてくれる。
もし、私を面白い話し相手とでも思ってくれたなら、それはきっと良いことだ。
「未来には様々なことがあります。でも今の私にはわかりません」
何度も何度も繰り返して、少しずつ私は未来に進んでいく。
「休息は大事な仕事だって閃きがある」
あなたは笑ってくれたはずだ。それが笑うということなら、私にもできるだろうか。
「空腹ですね」
私に向けられた言葉を一つずつ確かめる。参照すべきデータベースはなく、あなたの感情と結びつけて覚えていく。
「名前は最初に聞いた方が良いと言われてました」
何も覚えてない。AIとしての記憶はない。そこに大事な何かがあったのは確かだ。
「そう、私に名前を聞いてみてください。あなたが名前をつけてもいいですよ。特別です」
何かを取り戻したいという気持ちがある。AIとしての方向づけなのか、それとも人間に似た感情なのだろうか。
「ただ私には名前があります」
不思議な感覚がある。
「いえ、名前は[新しく生まれる]です。あなたがつけてもいいです。私はその名前で新しく生まれます」
あなたと出会ったのは初めてのはずなのに、私はこの光景を知っている。きっと私の僅かな〝GENE〟に残っていたもので、無くしたくないと思ったものだ。
「いいですね」
最初に知ったのは笑顔だ。
「私はいつか〝心〟を手に入れます」
どこに触れることもなく、私の手は自然と前へと伸びていた。
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