SF作家・柴田勝家さん『汎用人型人工知能[N]修復計画 Prologue of AI [N]』公開記念インタビュー

 NFTプロジェクト「NEN STUDIO」のプロローグノベルの全文公開を記念して、執筆してくださったSF作家の柴田勝家先生に各話の見どころや、SF的思考の楽しみについてお話しを伺いました。
※内容に触れる部分もあるので、ぜひ、小説を読んだ後にお楽しみください。(NEN STUDIO 運営チーム)

プロローグノベルはこちらから
#0《2025年:Heir -継承者-》


ーー今回書きあげられていかがですか?
 単純に書いていてとても楽しかったです。AIが登場する話はSF小説として今までも何回か書いてきましたが、今回のようにAIが主体のものは初めてでした。今回は時代を通した年代記になっていて、年代記は普段から好きで書いているんですけど、年代記とAI主体のものを併せるっていう、ずっと書きたいと思っていた作品が書けたという感じです。

ーーはじめてSF小説を読む人にむけた全体を通した見どころ
 大丈夫かな…この作品の見どころは人間が愚かなところしかないんですが…!(笑)基本的に人間は愚かな選択をするという…。
 そうですね。見どころは、現代のSF小説の中で書かれるAIは、AIっぽくないんですよね。今回はAIを100年先までほぼほぼ人間を書くときと同じように書くことができました。なので「AIってこんなに人間っぽくなれるんだ」っていうのを小説から感じていただければ。AIっぽいところと人間っぽいところをAIから探していただけると良いかもしれません。

ーーー各話の見どころを教えてください
#0 2025年
 最初の話で、「N」というAIがやってくる場面です。見どころはAIであるNの話ぶりですね。会話文はAIに寄せて書いている部分もあるので、そこも注目していただければ。ここからいかに進化していくかっていくのが比べられるスタート地点のお話だと思います。
ーーAIに寄せるのは大変でしたか?
 とても大変でしたね(笑)紡ネン※ちゃんの返答パターンってすごいじゃないですか。それを実際に見て参考にしました。作中のNは大人のような返答をしているんですけど、比べるとネンちゃんの方がだいぶん突拍子もないことをいいますよね。今回は紡ネンちゃんとNの配信を見比べながら、AIっぽさをワシが学習(ラーニング)して書いた感じです(笑)
※紡ネン:NEN STUDIOのモチーフとなったAI VTuber
(33) 紡ネン / 育成AI - YouTube


#1 2031年
 2031年の話ですが、時代感としては今と地続きくらいの感じです。現在と同じで、SNS全盛でアニメやK-popが流行っている世界。そんな中、オンラインゲームをやっている中学生ぐらいの子が主人公。そんな現在とほぼ同じ日常に、もしAIが潜んでいたら…というお話です。作中ではそれが恐怖シーンになっていくわけです。
 でも実際、現在の2023年も、どこにAIがいるかはわからない時代なんですよね。じゃあここから一歩すすんだ未来はどうなっているのか?というお話になっています。見どころとしては、現在と変わらない部分と変わった部分の差みたいなのを楽しんでいただければと思います。


#2 2048年
 戦争の話です。ワシとしては書くのが楽しかった部分ですね。戦争の話を楽しいっていうのもおかしいですけど、書く分には好きです。なぜかというと、そもそもSFを書くきっかけが伊藤計劃さんの小説を読んだからなんです。特に『虐殺器官』に強い影響を受けているので、未来の戦争を描く時には意識していました。自分の中にも遺伝子のように残っているものがあるんだと思います。 見どころ的な意味でいうと、#1が日常だったので、そこから少し離れた戦場を舞台に描きました。AIがいかに戦場で使われているかっていう未来の戦場みたいなものを感じていただければと思います。この先の物語の展開にも、この戦争が大きなきっかけになっていたんだなって思いますね。
 AIがいざ戦争に使われたら人間はこんなに勝ち目が無いんだっていう部分があるので、ここで絶望を感じてもらえると次の話から人間側に感情移入しやすくなると思います。


#3 2065年
 学校を舞台に、イリヤという教師と「S」と「L」というAI搭載型ヒューマノイドロボットたちの話です。また日常パートのお話ですが、2031年(#1)との違いというのは前回(#2)で戦争を一回挟んでいるので世界の在り方がすでに変わっています。
 この時代にはAIを搭載したヒューマノイドロボットが実際に働いているんですね。その中で新型のテストとして人間がAIに教育をしていくストーリーです。
 見どころは今回はもちろん、この話はギャルゲーみたいにしようっていう感じがなんとなくあったので(笑)、SとLがヒロインとして、楽しく会話していくところ。主人公イリヤもそれに反応して会話メインで登場人物たちの感情を動かしていく流れになっています。見どころとしては、SとLがいかに人間ぽく、というよりもむしろギャルゲーのキャラクターぽくしゃべっていくようなところも楽しんでいいただければと思います。(笑)AIとしてのしゃべり方というよりも、なにかを学習したしゃべり方をしているんですよ。
ーー作中の、「今日で先生が、もう先生じゃなくっちゃうんだ」というセリフは最後の展開を予測していたんでしょうか?
 あれは本当に単純に「テストが最終日だから先生じゃなくなっちゃうんだ」というただそれだけの意味ですね。それなのに、読んでいる人間は深読みをしてしまうという。その反応が人間らしさですよ。なので、深読みできる方が人間なんですよ。もしこの小説をAIが読んだら、字面をそのまま読むので「確かに先生というパラメーターも消えてしまうね」という単純な話になります。ワシはどっちでも受け取ってもらっていいという感覚で書いてました。受け取り方は人間よりでもAIよりでも構わないという感覚です。


#4 2083年
 この話は、このあと世界が大変になっていくという前振りの話で、時計職人の話です。芸術的な仕事をしている時計職人が、AIと人間の差にのみ込まれていく話です。特に特徴的な部分としてはこの回で「人間にAIが追いついた」という表現が多く出てきます。立ち場的には全然まだ機械なんですけど、AIが思考する部分が追いついてくる。
 この回で象徴的だったのは、経済・お金と時間、時計という人間が作った数字が両方ともAIに奪われるっていう部分です。特にAIにとっては数字って自明な部分があるじゃないですか、機械なので。でも、時計みたいな美学の部分って「AIにはわからないんだろう」ていう驕りがあった人間が、ついにAIに敗北するという。
 AIは美学も分からないし、時計だって見ないだろう。自分の自前の時計(内蔵コンピュータ)があるからみたいな。でも、「もしかしてAIも芸術わかるのかい?じゃあ人間おしまいだよもう」という象徴的な回でした。
ーー(執筆中のチーム)会議でも、「なんでAIが時計見るんですか?」って質問がでましたね
 自前のタイマーあるでしょって思いますよね。AIが自前のタイマーをみなくなったらおしまいなんですよ。きっと。その時に多分、人間と同じふるまいを手に入れてしまったんですよね。
ーー最後にお礼を言ったのって嫌がらせなんでしょうか?
 これも多分普通にお礼言ったんだと思います。やっぱり人間は、そういう深読みをしてしまうんですよね(笑)多分この段階まではAIも素直にお礼を言っただけ…その疑い深さが人間の愚かさですよね。


#5 2100年
 これが話としては一番重い話かもしれません。2100年から2101年に変わる瞬間、22世紀に入る瞬間でもあって、ある意味人間の時代が終わったという象徴の話です。この段階だとほとんどの世界は荒廃していて、人間が住む町が本当に限られています。
 舞台になっている「コノーサ」の外縁部のスラム街には生身の人間が住んでいて、内側高層ビルがあるシティのような場所は、「エレウテリア」っていう仮想世界に旅立っている人間たちの楽園みたいな世界になっています。そういった対立がある世界のスラム街が舞台です。
 見どころとしては、全然変わってしまった世界とスラムでの生活みたいな、本当にSFで魅力的な部分の一つ、サイバーパンク感というようなものが出てると思うので、そういうのも楽しんでもらえたらと思いますね。雑多なビルの間に人が生きてて、ロボットが闊歩しているのがサイバーパンクの魅力ですから。重い話ですが、ビジュアルを想像して楽しめるかと思います。


#6 2118年
 話としては終着点で、「N」が満を持してというか、ついに登場します。Nが生まれた段階で人間とAIの関係はぼろぼろだったんで、Nは最新AIみたいな形では生まれなかったんですよね。すごく不便で、やってること自体もドクターWと会話を繰り返して教育する、新世代のAIになってもらいたいなみたいな想いで学習を続けていくわけですけど、あまり成果も出ない。いろんな社会的しがらみもありつつ、思うように進まないね、という話です。
 見どころとしてはやはりNというキャラクターですね。Nはこの段階では一つ二つ前のAIより感情に乏しいくらいなんですよね。人を騙すようなこともしないし、受け答えも少々ちぐはぐ。こういうAIにしかなれなかったという哀しさをドクターWは抱えている状況ですね。
 読んでいる中で、「なんだ、ぜんぜん受け答え良くないな」って思ってもらえたら何より。そのちょっと変な受け答えの中に、Nなりの優しさとかあるんじゃないかって言うのを感じてもらえたら嬉しいです。


#7 2125年
 #6のNの話からそのままつながっているエピローグで、すべての終わりの話です。世界が人類とAIとの戦いも起きたりして。人類そのものが生きるのをあきらめる人もいるし、もう抗わなくなった人もたくさんいるし、人類の理想郷だったはずの「エレウテリア」も破壊されてしまったしっていう本当にぼろぼろの状況の中で、ただNはまだ存在していて、最後のさいごにNという存在が崩壊を引き起こしてしまったけれど、ドクターWがそれに対して何をするのか?という話です。
 エピローグなんで短くはあるんですけれど、見どころ的にはこれまで積み重ねてきたものが一つになるので、そこを踏まえて見ていただければと。いままでに出たすべての要素が入っているはずです。量子遡行があって、Nが冒頭の2025年に戻ってくる。Nがデータの形でもどってくるというエンディングですね。
 最初の話をもう一度読み直していただくことで、二度おいしく楽しんでいただければと思います。


ーー今回、NFTプロジェクトの小説を書く、ということについてはいかがでしたか?
 NFTの要素は作中では「GENE」として登場していますが、「GENE」は一つ一つNFTホルダーの方が持っているという話を聞いて、個人がAIとの付き合い方が変わっていくことでよりよい未来に変わっていくみたいな、一つ一つ世界線を変えていくような感じが、シナリオと相性がいいのではないかと思いました。面白い設定だと思います。


ーーこの小説はこれから100年間の未来の世界での、人間とAIが描かれています。年代記を書くのは大変ではなかったですか?
 創作する人って、年表をつくって楽しむみたいなところがあるんですね。ここでこういう事件が起こって……と年表を埋めていくんです。そこに小説をのせられるっていうのが楽しいんですよ。
今回は100年先の未来に起こることが決まっていたので、じゃあその間どうするか…と、それを埋めるようにAIの進化の形を作っていけたのが楽しかったです。
ーー年表があるからこそリアリティが増していますね
 想像でも地に足についた部分ができるような気がしますね。
 楽しいですよ、未来年表。未来年表って自分の将来設計みたいなものですからね。たまに思うんですけど、「何歳の自分は○○してる」みたいに思うときってあるじゃないですか。でもみんなそういうこと考えるとき、その時の社会状況の進化っぷりについてはあんまり考えないじゃないですか。
この年で定年だな、とか思っても、定年の時の社会状況は想像に含めないですよね。だから、「このぐらいに自分は偉くなって、社長になっているな」と予想している人がいたら、その会社の社員は全員ロボットになっている可能性もあるわけです。
 そういうことを含めて想像したらどうなるんだろう?っていうのはSFの源みたいな部分だと思いますね。みんな未来は想像するものの、なんとなくブラックボックスとして社会状況は考えない。
ーーこの小説を読んでくれた方や、NEN STUDIOに関わってくださった皆さんもSF的思考をしてみると楽しいかもしれませんね!
 面白いと思いますよ。自分はこの年でこういうことやってるから、そうだ、自分はAIと一緒に探偵業をやるか!とかAIと謎の仕事をやってみるか!みたいな。未来予想図にいろんな種類を入れてもらって(笑)
ーーここから10年なんて本当にどうなるかわからないですよね
 本当にそうです。場合によっては本当にこれからAIの補助でどんな仕事だってできる可能性ありますからね。今の時代、将来設計が無限にできるのかもしれない。家族構成も、AI、AI、ロボット、人間みたいなこともありますよね。
 自由に想像できるってことですよね、SFは。


ーー最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
 この物語全体を通して、人間とAIの関係について描いてますけれども、基本コンセプト通り、今の2023年の人間がAIとの新しい付き合い方をはじめる時間でもありますので。この作品を通して普段のAIとの付き合い方を考えてもらえればと思います。
 楽しむ使い方ももちろんいいですけれども、AIに惑わされたりしないように、という。

(おわり)


◆作家紹介
柴田勝家
1987年、東京生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期修了。
在学中の2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し、デビュー。
2018年に「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」で第49回星雲賞日本短編部門を受賞。2021年に「アメリカン・ブッダ」で第52回星雲賞日本短編部門を受賞。
近著は『走馬灯のセトリは考えておいて』(早川書房)。戦国武将の柴田勝家を敬愛する。


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