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眠る前に読む小話

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眠る前に読む一言小話です 読者になっていただけるととてもうれしいです。
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#小説

テクノロジーで花見はどう楽になった?

テクノロジーによって我々の生活はとても便利になったと言われるけれど、実際、便利になったものは少なかったりする。花見なんて、なにも便利にならない。

たとえば、週末に花見を予定したとして、「週末の天気は?」と簡単にインターネットで調べられるようになったかもしれない。ただ、昔から、177に電話をすれば、天気を知ることはできた。

花見の撮影がスマホでできるようになったからって、撮影は昔からできた。イン

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セレンディピティとは

「ね。セレンディピティって何」と、女が尋ねる。

ベッドの上で携帯を見ながら気だるそうに男が答える。

「偶然の出会いってやつだよ」
「人との出会い?」
「人にも限らないんじゃないかな。仕事とか、探してるものとか」
「いじめられている亀を探してたら、亀と出会う。これもセレンディピティ?」
「竜宮城に行きたいの?それとも何かの比喩?」
「セレンディピティのことが知りたいのー!」
「その単語、どこで聞

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ツイッターで事故死を演出する男

ツイッターで死を演出するということを楽しんでいた。

たとえば、「このアニメが好き」という設定の人物を作る。そして、その設定に合わせたプロフィールを作り、ツイートを始める。そのアニメのことをつぶやき、そのアニメが好きそうな人をツイートする。食事や週末の遊び方も練り上げて投稿する。

そして、同じようにそのアニメが好きそうな人をフォローする。コメントする。リツイートする。趣味がある者同士はつながる傾

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2人きりの部屋

男がドアを開けて中に入る。続いて女が「失礼します」といいながら部屋に入る。酔っているからか、足元がおぼつかない。

女はブーツを脱ぐのがめんどくさそうに、足のかかとでブーツをける。

男が先に部屋に入る。「コートかして」と男が女からコートを受け取る。ハンガーにかける。

部屋に入ると女が言う。「わぁ、キレイにしてるのね」

「Alexa、ジャズをつけて」と男が言うと、「はい、わかりました」という声

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14106と言って

「14106」という言葉が世の中を騒がせるころ、僕は高校生だった。そして初めてのデートを経験することになった。

当時は、ポケットベルという数字を送り合う端末が登場し、学生たちはこぞって持ち始めた頃だ。それまでは、デートの誘いは、相手の実家に電話をしなければいけなかった。誰しも「親に電話を切られる」という洗礼を受けていたものだ。

愛しているという意味を込めた「14106(この数字の読み方を語呂合

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ポケベルが残してくれたもの

2018年12月に、ポケベルが終了した。1990年代の後半に流行ったサービスで、お互い数字を送り合うことができるものだった。とはいえ、ポケベルは数字を受け取るだけの機能で送ることはできない。だから、僕たちは公衆電話からその番号を送りあった。

ポケベルはたくさんの思い出を僕たちにくれた。それまで、家には家庭の電話しかなかった。友人とコミュニケーションをする時は、そこに電話をするしかなかったのだ。家

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2050年、ついに他人の脳を体験できるように

2018年、Oculus Goが販売された。従来より廉価でVRを体験できるその端末によって、多くの人がVRを体験できるようになった。それによって、家にいながら、旅行を体験できるようになった。ジェットコースターも体験できるようになったし、ゾンビ退治など、現実の世界で体験できないことも、実体験のように感じることができた。身体が不自由な人でも、飛行機がのれない人でも、そんなことを気にせず世界中を飛び回れ

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2025年、お礼を言わなくなった子供たち

2025年、新聞のある記事が世間を騒がせた。

「お礼を言わない子供たちが急激に増えている」という記事だった。「子供にお礼を言われたか」という定点観測の結果、ここ3年で50%もお礼を言われなくなったということがわかった。

新聞は、いろいろな仮説を検証していた。

- 少子高齢化で、「子供が宝」になっているから、偉そうになっているのだ。だからお礼を言わないのだ

- ゆとり教育のせいだ

- 親の

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囚人が、刑務所の中で一番使いたいインターネットサービスは?

その独房に閉じ込められた囚人たちは時間が余っていた。なんせ労働以外、毎日は同じ日の繰り返しだ。新しい出来事も起こらない。同じ日が、同じ時間が過ぎていく。

ただ、変化もある。話がうまくなっていくのだ。

毎日、同じ話をするにつれ、話術が磨かれる。また、話題の着眼点が研ぎ澄まされる。

たとえば、こういう話だ。ある時は「おとぎ話の中で、一番犯罪をおかしたのは誰か」という自分を重ねた話題。あるいは、「

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Talk over a crab

「ねえ。焼肉を食べるカップルって、身体の関係があるカップルって言うじゃない」と、女が蟹の身を箸でつまみながら言う。

「そうだね。そんな話、聞いたことがある」、横に座る男がお猪口を口に運びながらこたえる。

「でもさ、蟹の方がそんな気がしない?カニの方が身を出している時はお互いしゃべらないし、食べている時はなんだかベタベタだし、蟹を食べているカップルの方が、身体の関係ある気がしない?」

「確かに

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携帯の裏返しは浮気の証拠?

「ねえ。携帯を裏側に置く人って浮気してるんだって」

女が言う。男はテーブルの上に置かれた携帯に目をやる。裏側に置かれている。

男は、「へえ」と言いながらアスパラガスを口に運ぶ。そして、ワインを一口飲む。

「会社のやり取りとかもたまにLINEでするから、裏側に置くようになったな。企業秘密なことがディスプレイにでちゃうとまずいでしょ」

「ふーん」と女が言う。アスパラガスもワインも手にしていない

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嬌声

最高に身体の相性の合う女性だった。いままでの行為が何だったんだ、と思えるほど。

何より彼女の反応が艶やかだった。その嬌声が部屋に響き、それにより興奮が増幅された。鼓膜と粘膜を震わせる音だった。人は聴覚でも興奮することを知る。

そして声をなぞるように背中にたてられた彼女の爪が、また新しい快楽を呼んだ。

そんな関係も、日常のすれ違いと共に終わりを告げる。

俺は休日は寝て過ごすのが好きで、彼女は

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花咲く花屋

「すいませーん」

店先から声がする。花束を包んでいた手を止めて、入り口を覗く。スーツを着た男性が立っている。

「すいません。何か花束を見繕って欲しいんですが」とスーツは仰る。40代か。少し頭に白髪が見えるが、ダンディなおじさまだ。日焼けした笑顔が美しい。

「かしこまりました」と男性の方に向かう。その時に、私は気づいてしまう。パンツのチャックが全開であることに。

普通のパンツならば相手が立っ

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なぜ彼らはインターネットに殺されたのか?

2017年、ついに脳波で操作するパソコンが実用化されました。

脳に埋め込むタイプではなく、頭皮上に電極をおくヘッドセットタイプです。

利用者はそのヘッドセットを通じて、脳波による指示をパソコンに送ることができるようになりました。パソコンは、その依頼を受け、メールの作成や動画の再生、パソコンのオンオフなどができるようになったのです。

アーリーアダプターとして、それらのヘッドセットを使い始めたの

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