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蛋白石と陽だまり

 あなたが死んだら、私はあなたをオパールにする。表面の突起からしか感知できなかった喉仏が、私を見る時に細くなる目を覆う骨が、優しく私を撫でる掌が、骨の髄から虹色の呪いにかかって本当に宝石になってしまえばいい。あなたは私の心を照らすから、自転などせぬ宝石になってしまえばいい。私が死んでも私を照らし続ける宝石に。29日の周期など無視して、休みなくあなたは輝き続ける。

 あなたをオパールにしたいと私が言えば、あなたは私にオパールにされたいと言う。宇宙葬の野望も散り、オパールになるのも悪くないかもしれないという考えが頭を過ぎる。成仏できなくとも、あなたの掌の内に居たい。そんな幸せの中で、死の知覚が遅延し続ける。痛くつらいものは、ゆっくりと慣らしていくのがいい。あなたをオパールにしたいという欲求と、あなたにオパールにされたいという欲求、どちらの方が狂気じみているのだろうか。無機物になったあなたを宝石にするのは私、あなたのことはきっと埋めない、あなたを宝石にして一生身につける。皮膚の上から何度もなぞった喉仏を、指の骨を、鎖骨を、耳の軟骨を思い出すのだろうか。オパールになったあなたを見て生前のあなたを思い出すのだろうか。宝石のあなたは、あなたの代替ではない。宝石になったあたらしいあなたに、私はきっと何度でも口づけをする。皇帝は転生した楊貴妃を探し当てれて満足か?武帝は李夫人の魂を呼び戻して満足か?冥土を彷徨させても、来世のあなたの運命を操作しても、きっと私は満たされない。今世に私と恋するあなたのことが好きなのだ。不在のあなたは、不在のままでいい。私はあなたをオパールにしたい。あなたのことは不在ごと抱きしめたいのだ。実在するあなたに勝るものなど、どこにもいないのだ。あなたの代替は、私にとって代替とならない。あなたの死後も、あたらしいあなたのぬくもりに心温められたい。

 あなたをオパールにしたいという欲求は、狂気的なのだろうか。最愛を最愛のままにしておくことは、狂気的なのだろうか。私はただ、束縛を嫌うあなたのことを墓石から連れ出して、もう少し今世で同じ景色を見ていたいだけなのだ。

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