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【ネタバレあり】映画「パディントン2」で描かれる、三度のハグについて語りたい。

イギリスの児童文学作品を映画化した「パディントン」の続編「パディントン2」。可愛らしくて健気なクマのパディントンに胸を打たれます。
この映画では、パディントンの唯一の身内であるルーシーおばさんとパディントンがハグを交わすシーンが3回描かれます。

ルーシーおばさんとパディントンのハグが描かれているシーンは太字で書きます。ストーリーを全て説明した後に、その3つの場面について書いていきたいと思います。そして最後に、この映画に対する私の気持ちをまとめたいと思います。


〈映画のストーリー〉

この映画は主人公であるパディントンが、ルーシーおばさんの100歳の誕生日プレゼントに選んだ、飛び出す絵本をめぐる物語です。この飛び出す絵本は、世界1冊しかない高価なもの。ロンドンの名所12カ所が描かれています。

ロンドン来訪はルーシーおばさんの長年の夢でしたが、身寄りのないパディントンを育てるために彼女は自分の夢を諦めたのです。パディントンをペルーからロンドンへ送り出したルーシーおばさんは、その後ひっそりと老クマホームで過ごしています。

そのことを知っているパディントンは、この飛び出す絵本をプレゼントすれば、ルーシーおばさんがロンドンを見た気分になってくれると思いつきます。パディントンは絵本を見ながら、港でルーシーおばさんと再会しハグを交わした後、ロンドンの街を案内する自分の姿を想像します。

何としてでもこの飛び出す絵本を購入してルーシーおばさんへの誕生日プレゼントにしたいパディントンは、店主(グルーバーさん)に頼んで絵本を取り置きしてもらい、その間に頑張って働いて、お金を貯めることにします。

しかし、この飛び出す絵本にはとんでもない秘密が隠されていました。この絵本は、かつてサーカスで高い人気を誇っていた女曲芸師の所有物で、彼女がサーカスの観客からチップとして受け取った、財宝のありかが示してあるのです。

故あって、この秘密を知っているフェニックス・ブキャナン(パディントンと同じウィンザーガーデンに住んでいる役者)は、店から絵本を盗み出し、盗みの現場を目撃し絵本を取り返そうと奮闘したパディントンに濡れ衣を着せます。パディントンは、ブキャナンに陥れられ、ロンドンの古い刑務所に投獄されます。

無実の罪で投獄されたパディントン 。週に1度の面会日を心の支えに、刑務所での日々を過ごします。パディントンの無実を信じるブラウン一家は、必死で真犯人を探します。

ある日、真犯人への手がかりを見つけ出し、ブキャナンが犯人である確信を得たブラウン一家は警察官に必死で掛け合いますが、警察官への訴えに必死になるあまり、週に1度の面会日を逃してしまいます。

刑務所の先輩たちから「ブラウン一家は、きっとお前のことを忘れてしまうだろう」と告げられ不安に駆られていたパディントン。たった一度ではありますが、ブラウン一家が面会日に会いに来てくれなかったことに大きなショックを受けます。

パディントンは独房のベッドに横たわり、ひとり涙しながら想像します。ルーシーおばさんとの再会し、ハグを交わす場面を。パディントンが想像しているのは、彼の故郷ペルーの森の中。ロンドンの街ではありません。

失意の中にあるパディントンは、刑務所の先輩達と一緒に脱獄を試み、成功します。

パディントンは刑務所の先輩たちから、「脱獄に参加してくれたらお前の無実を証明するために協力してやる」と言われていました。しかし、それはパディントンを仲間に引き入れるための口実に過ぎませんでした。またもや大きなショックを受けるパディントン。隠れるように夜の町を歩きながら、どうにかブラウン一家と連絡を取ることに成功します。

ここからは絵本を取り戻し真犯人・ブキャナンを捕まえるための闘いが始まります。様々な苦難に直面しながらも、ついにブキャナンを倒すことに成功したブラウン一家。闘いのなかで危うく命さえ落としてしまうところだったパディントンですが、ブラウン一家の奮闘や一緒に脱獄した仲間たちの予想外の手助けにより、一命を取り止めます。

投獄、脱獄、ブキャナンとの闘いで疲弊していたパディントンは、一連の騒動の後3日間眠り続け、ルーシーおばさんの誕生日にやっと目を覚まします。

自身の無実が証明され、ウィンザーガーデンにあるブラウン一家の家に戻ってこられたのに、パディントンは気持ちが晴れません。お世話になったルーシーおばさんに飛び出す絵本をプレゼントし、ロンドンを見せることができなかったからです。

しかし、そんなパディントンに願ってもない展開が用意されていました。パディントンの健気さに心を打たれ、彼の願いを理解してくれたウィンザーガーデンの人々が、ルーシーおばさんをロンドンへ連れてきてくれたのです。

ブラウン家の家のベルが鳴り、パディントンが玄関のドアを開けると、そこに立っているのは、夢に見続けたルーシーおばさんです。パディントンはルーシーおばさんとハグを交わし、おばさんの胸の中で「お誕生日おめでとう」と呟きます。

こうして、パディントンはルーシーおばさんと再会を果たし、絵本ではなく実際のロンドンを彼女に見せてあげることができたのです。ここで物語は終わります。


〈三度のハグについて〉

最初のハグでは、パディントンの夢が描かれています。ロンドンでルーシーおばさんと再会し、おばさんにロンドンの街を案内する。これがパディントンの夢です。パディントンは、親孝行ならぬ「おばさん孝行」がしたいと夢見ているのです。

この時点でこれが現実ではなく夢であるということは、ハグを交わす場所が「飛び出す絵本の中」であることから判断できると思います。

2度目のハグについてですが、ハグを交わしている場所が、ロンドンではなく故郷であるペルーの森の中になっています。「おばさん孝行がしたい」という夢が、「おばさんに会いたい!」という単純な願望に変化してしまっています。何事も誠実に、正攻法で乗り越えてきたパディントンですが、今回ばかりは辛さに耐えかねて現実逃避しているのです。

つまり、2度目のハグは、度重なる苦難でパディントンの心が折れてしまったことを表しています。

ルーシーおばさんとのハグの場所をロンドンからペルーの森の中に変えるだけで、パディントンの心が折れ、彼の夢が破れかけていることを表現することができるのです。

最後のハグは、最初のハグと同様、ロンドンで交わされるハグです。しかし、最初のハグは「パディントンの想像の中でのロンドン」で交わされたのに対し、最後のハグはブラウン家の家の玄関という「実際のロンドン」で交わされています。

これは、パディントンの夢が現実になったということを表しているのだと思います。

ルーシーおばさんとのハグという場面を、ハグが交わされる場所を変えながら多用することで、映画のストーリーと主人公の心情を端的かつ巧みに描いていることに、私はとても心を動かされました。


〈この映画対する私の気持ち〉

「パディントン2」は、主人公であるパディントンの夢が現実になっていくまでのプロセスを、とても楽しくドラマチックに描いている名作だと思います。教訓を散りばめ、誠実に生きることを是としていながらも、決して押し付けがましくなく、見る人に癒しと気づきを与えてくれます。

何度見ても心打たれる素晴らしい作品です。この記事を読んで、この映画に興味を持ってくださる方がいらっしゃれば、嬉しい限りです。


以上です。
お読みくださり、ありがとうございました!










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