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電子は水底へ 8

オリジナルの長編SF小説です。

~あらすじ~
近未来の世界で庭師として生きるアンドロイドが、ある日、巨大で奇妙な白い繭を見つけ、大事件に巻き込まれていく。逃亡中に重大な秘密を知り、苦悩からヒトを開放する手段を見つけるため、旅に出るが……

※週に1~2回ほどの頻度で更新いたします。
※少し残酷な描写がございます。苦手な方や、18歳以下の方の閲覧は推奨しません。
※14~17回ほどで完結する予定です。

電子は水底へ 1 】【電子は水底へ 7 】⇔【電子は水底へ 9 



「夢物語のようだろう。最初聞かされた時には、私も揶揄われているとしか思えなかった。しかし、副元帥として膨大な記録資料を確認した。地球上のほぼ全員の人間に悟られずに、一切合切を電子に変換し、仮想世界に一瞬で移行させる。生物に違和感を生じさせずに、仮想世界で歴史を紡がせていく。こんな冗談のようなミッションに命を捧げた技術者や政治家、医師や研究者の残した記録を」

無表情と無言を貫くニクスから窓の外に目を移す。もう天使の梯子は見えなくなっていた。

「副元帥になって10年目の誕生日には、仮想世界を成り立たせている巨大なゲートの中に入って、その心臓部を実際に視た。拍子抜けしたよ。ただの、強烈なバイオレットの光だった。直径2mほどの浮かぶ球らしいが、光で輪郭は見えないんだ。常に透明な液体を大量に注入されている。研究員はガルパー・・・と呼んでいたな。海水を豪快に飲む鯨のようだからと。正式名称はエル・イオータ・・・・・・・だ。原始的な生々しさのある光だった。吐き気がして、数分も見ていられなかったさ」

「ここが仮想の世界、という話が本当ならば、今生きている人間は、生物は、一体何なんですか」

「端的に言うと電子の塊だ。仮想世界はスムーズに、半永久的に持続するように設計されている」

赤黒く染まる空は広い。子供の頃は、空を飛んでみたかった。自らの身体だけで、悠々と空を彷徨ってみたかった。

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