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電子は水底へ 9

オリジナルの長編SF小説です。

~あらすじ~
近未来の世界で庭師として生きるアンドロイドが、ある日、巨大で奇妙な白い繭を見つけ、大事件に巻き込まれていく。逃亡中に重大な秘密を知り、苦悩からヒトを開放する手段を見つけるため、旅に出るが……

※週に1~2回ほどの頻度で更新いたします。
※少し残酷な描写がございます。苦手な方や、18歳以下の方の閲覧は推奨しません。
※14~17回ほどで完結する予定です。

電子は水底へ 1 】【電子は水底へ 8 】⇔【電子は水底へ 10 



馬酔木あせび


星と漆黒のスクリーンがネイビーブルーに変わった。

太陽が昇る合図。もう何回も眺めているが、この果てしない砂の大地に蓋をする夜景は見飽きない。太陽の気配を感じると、いつも名残惜しい気持ちになる。投げ出していた足を曲げ、つま先に力を入れて立つ。

歩きだしたものの、数歩目で柔らかい砂に足が埋まった。知覚センサーの感度は自動修正されるはずだが、足先から割かれるような冷たさを感じる。昨夜の極寒の大気に冷やされた砂は今、人間には耐え難いほど低温なのだろう。

砂から足を引き抜き、大股で進んでいく。3週間前に出会った、砂漠を横断する塩の商人達とラクダを思い出す。重そうな岩塩のブロックを、いくつもラクダに括りつけていた。

人間はラクダを導きながら歩く。無言のキャラバンの厳かさに惹かれ、しばらく共に移動した。

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