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ガーネットのシグナルは宙と地に


真っ赤な大輪の花のような星を、双眼鏡のレンズ越しに眺める。太陽よりもずっと大きな、ガーネットスター。

見えた。本当に見えた。

胸元にある菱形のザクロ石、ガーネットを片手で握りながら、本当に見えたぞと強く念じてみる。




丘の上でテントを張り終わり、紅茶を入れる。慎重に熱い紅茶を啜りながら、まだ明るい空を仰ぐ。後は、夜になるまで待機。天気予報では、今夜は空気が澄んでいるらしい。星が良く見えるだろう。

隣のテントは家族連れのようで、親子で砲台のような立派な望遠鏡を楽しそうに組み立てている。そうだ、私も確認しておかなくては。

残った紅茶を飲みほしてから、テントの中に入る。登山用のリュックサックの中から、大きな双眼鏡を引っ張り出す。外に出て、レンズを調整しつつ、操作方法を確認した。

”双眼鏡だけでも星は見れるよ。桁違いに大きい赤い星。太陽よりでっかいの。ガーネットスターってやつ”

宇宙飛行士候補生となった幼馴染が、訓練のために遠い異国に渡る直前、空港で教えてくれた。天文部での天体観測の思い出話で盛り上がっていた時に、双眼鏡くらいしかないから、もう天体観測なんて無理だろうなと言うと、友人はそう言って笑った。

その直後にアナウンスが流れ、友人は慌ただしく登場ゲートに進んでいった。人波に揉まれて、別れの言葉をまともに言えないまま、離れ離れ。もう1年間、音沙汰が無い。

隣から視線を感じる。小学校低学年くらいの男の子が、私の双眼鏡を見つめていた。意外と、近い。

「あ、すみません。邪魔しちゃ、だめ」

母親らしき女性が男の子を引っ張っていく。男の子の目はずっと双眼鏡に向けられていた。

あんな年の頃は、私も色んなことが気になって仕方なかった。一時、宝石集めと称して、あらゆる場所で石を拾い集めていたことを思い出す。一度だけ、川原で本物の宝石を見つけた。

ガーネット。家で宝石図鑑を広げて、謎の赤い石の正体を突き止めた時の興奮は、今も覚えている。

ペンダントのチャームを見下ろす。今日は、そのガーネットをペンダントにして持ってきた。星と宝石のガーネットを出会わせるために。菱形の小さいガーネットを針金で巻いて、チェーンに繋いだだけのペンダント。

ガーネットはザクロ石とも言うと、博識なあの友人は教えてくれた。あれは、いつだったか。



夜になり、いよいよ天体観測が始まった。隣の子供たちがはしゃいでいる。私も双眼鏡を構えて、ガーネットスター探しを開始した。

太陽よりも大きな星だと言っていた。友人のいる国からも、双眼鏡ではっきり見えるのだろうか。また会えたら、聞いてみよう。

今、友人のいる国はきっと昼間だ。友人も空を見上げていたら、私が強く念じれば、もしかするとガーネットスターを介して、シグナルを送れるかもしれない。

チャリチャリと、胸に下げたガーネットが揺れた。



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