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オーロラを駆けるヘキサゴン・ジャム


今年もオーロラが始まった。これから、きっと数日間は揺らめき続けるだろう、プラズマのカーテン。毎年、オーロラが輝く数日間、このサターンコロニーはとても静かになる。

必要最低限の都市機能は停止させ、各々自由にオーロラを眺めて過ごすのだ。毎年現れるオーロラの荘厳さに、いつも圧倒される。皆もそうなのだろう。普段の喧騒は消え失せる。子供も大人も、ただオーロラに釘付けなのだ。

私は、いそいそと鍋をかき混ぜ続ける。オーロラの出る日には、ジャムを作る。個人的な行事。

コロニー移住の初日に出会った果物を使う。ブルーベリーに似た六角形のその果物は、土星で初めて生った果実らしい。年中市場で売られている。あえて保存食にする必要は無いが、ジャムにすると面白い変化が起きるのだ。

そろそろだ。ドキドキしながら、鍋の渦を見つめる。渦の中心から濃い青が薄くなって、琥珀色に近づいていく。外側の渦に光沢が生まれ、数分後にはギラリと金色に輝いた。

ほんの一瞬。しかし、目に焼き付く強烈な色と光。

満足し、火を止める。あの色は、ジャムの出来上がりの合図でもあるのだ。後は、粗熱が取れるまで待機。

キッチンの小窓を覗く。オーロラは相変わらず優雅に揺らめいている。木べらに付いている青いジャムを指で掬い取り、舐めた。柔らかな甘さと、疾走する爽やかな香り。今年も上手く出来たようだ。

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