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しほのショートショート

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2000字までの小説を載せています。一駅程度で読めるものをイメージ。不定期更新。
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#ショートショート

究極の引きこもり

究極の引きこもり

異常気象のせいで、外出するものはいなくなった。生まれたときから誰にも会わず、家の中で暮らして来たのだ。

「外に出ると、死んでしまうわよ」

母に言われたことを忠実に守っている。家の中にいても雨が降り、擬似太陽の光が降り注ぎ、季節の作物が育つ。

すべてはAIとロボットがやってくれるから、俺は何もしていない。友人も仕事も、全ての生活がオンラインで完結している。

そんなある日、友人Aが家に行くと言

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海底に、月

海底に、月

毎日のように、深夜に目が覚める人魚がいた。辺りは暗く、さかな一匹も起きていない。落ち込んだ様子でため息をついている。

泡となり、しばらくフワフワと浮かんでは、すぐに割れた。それを目で追ったあと、海藻のあいだをスイスイとかきわけるように泳ぎだしている。

岩場に着くと、透明なブルーにまばゆい光が差し込んできた。

「みんなには怒られるけど、これを見ないと眠れないのよね」

視線の先には、溶けている

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絶景傘|掌編小説

絶景傘|掌編小説

窓に雨音が当たる音が目覚まし代わりになった。針のように痛く、それでも、私自身にはぶつからない距離で起っている。こんな憂鬱な季節はいつまでつづくのかな。

そう思っていると玄関のチャイムが鳴る音がした。夜な夜な、通販で頼んでいたことを思い出して、さっきまでの鬱々とした気持ちが吹き飛んだ。

布団を蹴飛ばしてスキップまでしちゃって、インターホンに応答する。

「お届けものでーす」

いつぶりだろう。こ

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にばんめ

私はいつもここで静かに待っている。
ここは空っ風がよく吹く。
私の定位置。

私はいつも”にばんめ”だ。
あの子はいつもフリフリやリボンのついている可愛い服を着させてもらっている。羨ましい。私はお下がり。でもそんなの着てやらない。私にだってプライドがあるの。

1番はあの子であの人はいつも選んでくれない。だが、それは決して無視されてるわけではない。眼中にも入れてないのだ。悲しいなんて思っていな

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