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道閉じの儀式

私が所属しているHEARシナリオ部で書いた作品です。
月に一度テーマを決めて、部員で作品を書き合います。
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■シナリオ本編

(SE) 谷川の水の音。砂利道を歩く音。
 
語り:
あたしは、その男と右手に深い谷川がある坂道を歩いていた。
 

いやー、お世話になった親戚が、
君らの電話番号を知ってたから
……携帯のバッテリー切れる寸前に、連絡取れて……
本当に助かった!
どう考えても、同じ坂道から延々と出られないって、
変だったから。
 
アヤ
あのー。ここで何してたんですか?
 

え? い、いや、秋だし、普通にハイキングだよ。
 
アヤ
…………ひとりで?
 

あ……ああ……
 
アヤ
ほんとに?
 
男:
何言ってるんだよ!
 
(BGM) 怪しい感じがわかる音楽かあるいは連続した怪しいSE
 
アヤ
状況わかってますかぁ?
あんた、呪われた空間に閉じ込められてんだよ?
あたしも、ここに入ってくるの大変だったんだからね!
正直に言ってくれないと、出られないんだけど!
 

………………彼女と一緒に来たんだ……
 
アヤ
なるほど。
それが、あんたの頭の上にいる人か……
 
(SE) (籠ったような怪しい音)。
 
男:
え?
 
アヤ:
彼女から何か渡されなかった?
 
(SE) ごそごそという音。
 

……これか?
 
語り
あたしは、その男が手にもったそれを見た。
巾着袋に何か入っている。
 
アヤ:
開けてみて。
 
語り:
男が、細かく折りたたまれた紙を開くと、
複雑な文字や図形がかかれている……
 
男:
な、なんだよ! これ!
 
アヤ
彼女さん……よく「道閉じの儀式」なんて、知ってたね。
 

道閉じの儀式?
 
アヤ
特定の相手を空間に閉じ込める呪符だよ、それ。……自分の魂を差し出して……
 
男:
魂?
 
アヤ
うん。
それで、完成する。ひょっとして……
彼女さんをここに誘い出して…………殺した……? 
 

……………………どうしても別れないって言うから、くそお!
 
語り:
男は、呪符を谷に投げ捨てようとした。  
 
アヤ
(軽い驚きの感じで)あ!
 
(SE) じゅう!
 

うあっ!
 
語り:
呪符は、男の手に吸い付いて消えた。
 
アヤ
…………呪符を捨てようとした時の処置までしてあるなんて、彼女さん、気合入ってるわー
 

は? なんとかしてくれ! 
 
アヤ
……なんで……?
 

なんでって!
こいつには、もう、うんざりしてたんだよ!
こいつと別れて、カナコと結婚するんだよ。
なんで、こんな所で!
 
アヤ:
…………私が、ガキだった頃なら、
単純に、あんたがクズで、
彼女さんも、バカだって思えたけど……
恋愛って、そういうもんじゃないよね……
 

そんなこと、どうでもいいから、
何とかしてくれよ!
 
アヤ:
呪符が体内に入ってしまう前に、
段階を踏んで解除していけば、何とかなったんだけど
……もう、彼女さんが、あんたへの執着をやめない限り、
この呪いは解けない……
 
男:
そんな!
 
アヤ:
あなたが殺した彼女さんの名前は?
 
男:
…………ミヤコだ……
 
アヤ:
ミヤコさんに、心から謝ったら?
あんたの事を愛してるって…… 
永遠に一緒だって言ってくれたからって……言ってるよ?
お互いを大切に思う時間もあったんでしょう?
 
男:
…………ミヤ…………僕が悪かった
……本当に悪かった! 許してくれ。
僕は、一生をかけて、ちゃんと償いをする!
 
(SE) ざわざわする音が続く……(悪霊が騒いでる感じがわかる音なら、ほかの音でも可)
 
語り
全然、納得してない感じだ……そりゃそうだよな……
 
アヤ:
ちょっと、離れててくんない?
 
男:
は?
 
アヤ:
ちょっと彼女さんと二人で話したいことがあるの!
ねえ、ミヤコさん!
二人っきりで話したいことがあるんだけどいい?
 
(SE) ざわざわざわざわ
 
アヤ:
ほら、あっち行って! あっち!
 
男:
男は怪訝そうな顔をして、離れていった。
私は彼女に話しかけた。
 
(SE) ざわざわざわざわ
 
アヤ:
ねえ、ミヤコさん…… 
拗れた(こじれた)まま、こいつと閉じた世界でぐるぐるするよりも、
成仏した方が、新しい道を歩める気がするんだけど……
そうじゃなきゃ……こんなふうにしてみたらどうかな……
 
(SE) 怒ったような声……
 
(SE) ざわざわざわざわざわ。
 
語り:
私は、しばらく彼女と話したあと、男の所へ戻って来た。
 
アヤ:
説得して来たよ……
 
男:
へ?
 
アヤ:
だーかーら! 説得してきたんだよ。
説得するの大変だったんだからね! 
こんなクズと一緒にいるより成仏した方がいいって、
ミヤコさんを必死に説得した!
あんたを、解放してくれるって!
これでいいんでしょ?

男:
も、もちろんだよ……ありがとう……(ため息)
 
アヤ:
(軽蔑した感じで)どういたしまして……さて。
 
男:
え?
 
アヤ:
ん? 警察に通報しないと……
 
男:
警察?
 
アヤ:
……当たり前でしょうが! 
 
語り:
男は、顔色を変えた。が、あたしは谷の方を向いて携帯電話を取り出した。
 
(SE) 砂利を踏みしめる音。
 
語り:
男は、後ろから、あたしを谷に突き落とそうとした。
 
アヤ:
おおっと!
 
語り:
あたしは、さっと男を避けた(よけた)。男は、そのまま……
 
男:
あ、あ、あ、あ、あああああああああぁぁ!
(谷底へ落ちた感じで、だんだん声が小さくなるように)
 
(SE) 遠くで水に何か落ちる音
 
 
アヤ:
(大きなため息)賭けは、あなたの勝ちなんだけどさ。
本当に……これで良かったの? ミヤコさん…………

(SE) ざわざわざわざわ。嫌らしく笑う声(フェードアウト)。
 
(SE) 水の音。鳥の鳴き声。静寂。 
 
語り:
あたしは、しばらく鳥の鳴き声を聞きながら、気持ちを静めていた。
また、大きなため息が出た。(大きなため息)。

 
アヤ:
まあ、いいや。愛の形は人それぞれだもんね……
あ、そういえば!
この近所に、温泉あったよな……たっのしみー!
 
語り:
あたしは、無理やり元気な声を出して、歩き出した。

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■あとがき

この作品は、私ねこつう自身が、ボイスドラマ化してみました。

◎道閉じの儀式 ~音声作品化

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