道閉じの儀式
私が所属しているHEARシナリオ部で書いた作品です。
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■シナリオ本編
(SE) 谷川の水の音。砂利道を歩く音。
語り:
あたしは、その男と右手に深い谷川がある坂道を歩いていた。
男:
いやー、お世話になった親戚が、
君らの電話番号を知ってたから
……携帯のバッテリー切れる寸前に、連絡取れて……
本当に助かった!
どう考えても、同じ坂道から延々と出られないって、
変だったから。
アヤ:
あのー。ここで何してたんですか?
男:
え? い、いや、秋だし、普通にハイキングだよ。
アヤ:
…………ひとりで?
男:
あ……ああ……
アヤ:
ほんとに?
男:
何言ってるんだよ!
(BGM) 怪しい感じがわかる音楽かあるいは連続した怪しいSE
アヤ:
状況わかってますかぁ?
あんた、呪われた空間に閉じ込められてんだよ?
あたしも、ここに入ってくるの大変だったんだからね!
正直に言ってくれないと、出られないんだけど!
男:
………………彼女と一緒に来たんだ……
アヤ:
なるほど。
それが、あんたの頭の上にいる人か……
(SE) (籠ったような怪しい音)。
男:
え?
アヤ:
彼女から何か渡されなかった?
(SE) ごそごそという音。
男:
……これか?
語り:
あたしは、その男が手にもったそれを見た。
巾着袋に何か入っている。
アヤ:
開けてみて。
語り:
男が、細かく折りたたまれた紙を開くと、
複雑な文字や図形がかかれている……
男:
な、なんだよ! これ!
アヤ:
彼女さん……よく「道閉じの儀式」なんて、知ってたね。
男:
道閉じの儀式?
アヤ:
特定の相手を空間に閉じ込める呪符だよ、それ。……自分の魂を差し出して……
男:
魂?
アヤ:
うん。
それで、完成する。ひょっとして……
彼女さんをここに誘い出して…………殺した……?
男:
……………………どうしても別れないって言うから、くそお!
語り:
男は、呪符を谷に投げ捨てようとした。
アヤ
(軽い驚きの感じで)あ!
(SE) じゅう!
男:
うあっ!
語り:
呪符は、男の手に吸い付いて消えた。
アヤ:
…………呪符を捨てようとした時の処置までしてあるなんて、彼女さん、気合入ってるわー
男:
は? なんとかしてくれ!
アヤ:
……なんで……?
男:
なんでって!
こいつには、もう、うんざりしてたんだよ!
こいつと別れて、カナコと結婚するんだよ。
なんで、こんな所で!
アヤ:
…………私が、ガキだった頃なら、
単純に、あんたがクズで、
彼女さんも、バカだって思えたけど……
恋愛って、そういうもんじゃないよね……
男:
そんなこと、どうでもいいから、
何とかしてくれよ!
アヤ:
呪符が体内に入ってしまう前に、
段階を踏んで解除していけば、何とかなったんだけど
……もう、彼女さんが、あんたへの執着をやめない限り、
この呪いは解けない……
男:
そんな!
アヤ:
あなたが殺した彼女さんの名前は?
男:
…………ミヤコだ……
アヤ:
ミヤコさんに、心から謝ったら?
あんたの事を愛してるって……
永遠に一緒だって言ってくれたからって……言ってるよ?
お互いを大切に思う時間もあったんでしょう?
男:
…………ミヤ…………僕が悪かった
……本当に悪かった! 許してくれ。
僕は、一生をかけて、ちゃんと償いをする!
(SE) ざわざわする音が続く……(悪霊が騒いでる感じがわかる音なら、ほかの音でも可)
語り:
全然、納得してない感じだ……そりゃそうだよな……
アヤ:
ちょっと、離れててくんない?
男:
は?
アヤ:
ちょっと彼女さんと二人で話したいことがあるの!
ねえ、ミヤコさん!
二人っきりで話したいことがあるんだけどいい?
(SE) ざわざわざわざわ
アヤ:
ほら、あっち行って! あっち!
男:
男は怪訝そうな顔をして、離れていった。
私は、彼女に話しかけた。
(SE) ざわざわざわざわ
アヤ:
ねえ、ミヤコさん……
拗れた(こじれた)まま、こいつと閉じた世界でぐるぐるするよりも、
成仏した方が、新しい道を歩める気がするんだけど……
そうじゃなきゃ……こんなふうにしてみたらどうかな……
(SE) 怒ったような声……
(SE) ざわざわざわざわざわ。
語り:
私は、しばらく彼女と話したあと、男の所へ戻って来た。
アヤ:
説得して来たよ……
男:
へ?
アヤ:
だーかーら! 説得してきたんだよ。
説得するの大変だったんだからね!
こんなクズと一緒にいるより成仏した方がいいって、
ミヤコさんを必死に説得した!
あんたを、解放してくれるって!
これでいいんでしょ?
男:
も、もちろんだよ……ありがとう……(ため息)
アヤ:
(軽蔑した感じで)どういたしまして……さて。
男:
え?
アヤ:
ん? 警察に通報しないと……
男:
警察?
アヤ:
……当たり前でしょうが!
語り:
男は、顔色を変えた。が、あたしは谷の方を向いて携帯電話を取り出した。
(SE) 砂利を踏みしめる音。
語り:
男は、後ろから、あたしを谷に突き落とそうとした。
アヤ:
おおっと!
語り:
あたしは、さっと男を避けた(よけた)。男は、そのまま……
男:
あ、あ、あ、あ、あああああああああぁぁ!
(谷底へ落ちた感じで、だんだん声が小さくなるように)
(SE) 遠くで水に何か落ちる音
アヤ:
(大きなため息)賭けは、あなたの勝ちなんだけどさ。
本当に……これで良かったの? ミヤコさん…………
(SE) ざわざわざわざわ。嫌らしく笑う声(フェードアウト)。
(SE) 水の音。鳥の鳴き声。静寂。
語り:
あたしは、しばらく鳥の鳴き声を聞きながら、気持ちを静めていた。
また、大きなため息が出た。(大きなため息)。
アヤ:
まあ、いいや。愛の形は人それぞれだもんね……
あ、そういえば!
この近所に、温泉あったよな……たっのしみー!
語り:
あたしは、無理やり元気な声を出して、歩き出した。
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■あとがき
この作品は、私ねこつう自身が、ボイスドラマ化してみました。