見出し画像

植物に聞いてみた ヘクソカズラ

難病になり人生がボロボロになっていた「私」。あるきっかけで、なぜか植物と話せるようになる。彼は、個性豊かな植物に、その生き様を教えられて、それをヒントにしながら絶望していた彼は少しずつ、変わっていく。


語り: 季節は秋から冬に移り変わりかけていて、もうセーターを着る季節になっていた。いろんな植物が、「ヘクソカズラ」の話を聞くといいと言った。私は、いろいろなことで、忙しかった。ようやくヘクソカズラのもとに来れた。ヘクソカズラはくすんだ黄色い実をたくさんつけていた。
 
私: ようやくあなたに辿り着けました。キョウチクトウさんが、ヘクソカズラさんの話を聞くといいと言ったのです。
 
語り: 私は、キョウチクトウがこんなふうに言っていたのを思い出した。
 
(回想)
 
キョウチクトウ: あたしは、ちょっと言葉がきつかったろう? ごめんよ。ところで、今まであたし以外には、どの植物と会ったんだい?
 
私: えっと、ハルジオンさん、マンリョウさん、パンジーさん、チョウセンアサガオさん、イチョウさん、スギナさん、キョウチクトウさん。
 
キョウチクトウ: はあ! ハルジオン以外は、あたしほどじゃないけど、強烈な奴ばっかだねえ。ヘクソカズラちゃんは、細やかで優しいし人の話をしっかり聞いてくれる奴だから、話してみな!
 
私: ありがとうございます。
 
ヘクソカズラ: キョウチクトウ姐さんと話されたのですか? あの方は、ことさらに強烈ですからね(笑)。来てくれて嬉しいですわ。ただ、ギリギリでしたね。もう少ししたら私たちは、いったん終わってしまいます。
 
私: はい。間に合って良かった。ちょっと、ほかのことにかまけていて。
 
ヘクソカズラ: ほかのこと?
 
私: はい。ボイスドラマを作るのに夢中になっていました。少しだけ、評判が良くて有頂天になっていました。病気で、いろんなことができなくなっていたと思っていて絶望していました。何をやりたいか、それに向けて準備を始めた方がいいと、よく医師に言われました。
全身の激痛、異常な疲労。座って長時間作業するという事が難しかった。どこから手をつけたらいいか、まったくわからなかったし、一番やりたいことは「死ぬ」ということだった。でも、それを、友人にやられたことが、私にはありました。
あれは、半分戦死みたいなものなので、本人を責めるわけにはいきませんが、心を鉈で傷つけるような行為です。絶対、それをするわけにはいきませんでした。そんな時に凄くいい長時間のラジオ番組があって、それで何とか、苦しみを紛らわしていました。
その番組が終わってしまって、その次に企画された番組は、私には合いませんでした。 そんな時、インターネットで……って、インターネットってわかります?
 
ヘクソカズラ: わかりますよ。私は、結構、人と話すの好きですから。
 
私: インターネットで、自分の音声を録音して配信する仕組みが整ってきて、従来のテレビやラジオみたいに、聞くばっかりじゃなくて、自分が話したり、配信したりしていいんだって気がついて、自分の経験や思っている事を配信したりするようになりました。
そして、もう少し、ポジティブに自分が元気になれる事を探したかった。そして、ボイスドラマを作るようになりました。ああ、これが本当にやりたいことだ。生きていてよかった。これは続けていきたい、と思っていました。だから、いつも気分が落ち込む秋も、なんとか、凌げていました。
 
ヘクソカズラ: うんうん……生きている実感のためには、そういうことは大事ですよね。
 
私: 私ばかり話してすみません。ところで、ヘクソカズラさん、どうして、そんな名前なんですか?写真で、お花の時の姿も見たのですが、物凄くかわいいお花じゃないですか。
 
ヘクソカズラ: 早乙女花(さおとめばな)と呼んでくれる方もいらっしゃるのですけどね……
屁糞カズラなんて、変な名前ですよね。
千切ると臭い匂いがするからついたのです。
 
私: なぜ?
 
ヘクソカズラ: 匂いでほかの生き物が私を食べにくいのですよ。でも、上を行く者たちもいてね。
 
私: 上を行く者たち?
 
ヘクソカズラ: 私を専門に食べる昆虫がいるのです。そして、私の匂いをつけることで、その虫は天敵に食べられにくい。
 
私: 自然界の壮絶な駆け引きですね……それにしてももうちょっと、いい名前無かったのかな。
 
ヘクソカズラ: まあ一見酷い名前ですけど、千年も前から、この名前はついているので、愛着はありますよ(笑)。
 
私: そんな古くから?
 
ヘクソカズラ: 万葉集にこんな歌があります。
 
――菎莢(ぞうきょう)に延(は)ひ おほとれる屎葛(くそかづら)
絶ゆることなく宮仕へせむ 
 
私: どういう意味ですか?
 
ヘクソカズラ: 菎莢(ぞうきょう)……これも太いごつい植物なのですけど、それにさらに絡みつくヘクソカズラみたいに私めは宮仕えにしがみつき続けてておりますよ、という意味です。
 
私: わあ……なんとも、生々しい歌ですね。
 
ヘクソカズラ: 生きるって大変なことですものね。
 
私: そう……生きるのって大変ですよね。
 
ヘクソカズラ: ……うんうん。ん? どうかしたんですか?
 
私: 少し疲れて来たんです。なんだか……
 
ヘクソカズラ: 何に疲れたんですか?
 
私: ようやく見つけたボイスドラマとか声の劇の分野も、なんだか、そう力を入れて続けられなくなりそうなんです。耳鳴りと聴力の低下が起きてきて。体が脆いとは思っていたけど、こっちもダメなのかと……
幸い、聴力低下や耳鳴りは一時的なものだったみたいでしたが、やはり無理はできないなと思いました。
だいぶできることが増えてきたけど、やはり心身が不安定で、頑張っても頑張っても、自立できない。自分が安心していられる居場所を作れない。何かを頑張れば、疲労とストレスで、体が壊れる。いろんな植物の方たちに、自分を認めてあげればいいのに、と言われました。しかし、自分を受け入れられない上に、現実的に、これからどうしていいかわからない……
 
ヘクソカズラ: うーん。誰かに気持ちを話したらどうでしょうか? あなたの体からは、尋常じゃない不安と緊張、そして、孤独と疲労の匂いを感じますよ。

私: 辛いこととか、絶望してることとか話して、何になるというのです! それを聞いても、みんな、困ってしまうだけだ!
お医者さんは、病気の薬はくれるけど、人生の薬はくれない。人生の薬は、それは、自分で作らなきゃいけないのは十分わかっている。
でも、これ以上、何をどう頑張ったらいいのかわからない!
 
ヘクソカズラ: うーん。聞きたくない人もいるでしょう。でも、少なくとも、私は、あなたの話を聞きたいです。
 
私: どこが面白いのですか?
 
ヘクソカズラ: こんな言い方するのは、失礼かもしれませんが、とても面白いのです。
 
私: 意味がわかりません。
 
ヘクソカズラ: うーん。どう言ったらいいのでしょうか。あなたは、自分の話が、相手にとって迷惑だと思い込んでいるのだと思いますが……多分、あなたが話した相手と、タイミングが悪かったんじゃないでしょうか。
 
私: 相手とタイミング……
 
ヘクソカズラ: その人が求めているものと、相手の持ちあわせているものの組み合わせというものがあります。ハンバーガー屋さんに行って、特濃ラーメンをくださいと言っても、多分、お店の人は困惑すると思います。
 
私: そりゃあ、そうですね。
 
ヘクソカズラ: 少なくとも、私は、あなたの話に興味があるし、聞きたい。伝えることって、凄く大事で。
ある女の子がいたのですけど、十五歳で、腸がどんどん壊死(えし)していく病気でした。長生きできないだろうと言われていました。
 
私: ああ……それはきつい……
 
ヘクソカズラ: それを克服して。
 
私: え? 克服したんですか?
 
ヘクソカズラ: ええ。奇跡的に病気の進行が止まったのです。でも、十回近くの手術ののち、腸は物凄く短くなったし、三十歳のときに、人工肛門を一生付けることになった。水着も着ることができなくなりました。恋愛もしていましたが、パートナーとお別れすることになった。
こういうことを愛情不足で見捨てたという人もいますが、そういうことを軽々しく言う人は、恵まれている人です。
家族として相手の持っているものを一生引き受けられるか、といったら、愛情以外にも、その人の価値観とか、生きる力、経済的な事情とか、そういうものが、本当に複雑に絡みます。人の気持ちは、コントロールできませんし、コントロールするべきでもありません。私は、こういうときに相手を責められないと思っています。
それにしたって、体のハンディキャップのせいで、パートナーと別れなければならないのは、彼女も物凄く辛かったと言っていました。結局、彼女は、その後、独身のままでした。そういうこともありますね。
 
私: ああ……人間関係がボロボロに……
 
ヘクソカズラ: でも、彼女は、腐らずに自分を信じて頑張り、のちに小児科医になって、次に、末期癌患者のセラピストになりました。良い仲間にもたくさん恵まれました。

私: え?
 
ヘクソカズラ: 病気の進行が止まった運の良さ。頭の良さとか、精神力の強さとか、経済的な部分とか、恵まれてた事も大きいのだとは思うのですけどね。
彼女は、のちに注目されて、インタビュー受けたのです。「どうやって、十五歳から難病だった少女が、病気を克服したのですか」と。そうしたら、「克服したかどうかはわからないけれど、人に自分の気持ちを伝えるようにした」と言っていました。
私が知る限りで、困難を克服した人は、みんな自分の気持ちを人に話しています。あなたみたいに「取り澄ました言葉」ではなく「本当の気持ち」を。
 
私: グサっときました…………それ、きついです……。
 
ヘクソカズラ: (笑)。でも、それは、あなただけの責任ではなくて。そういう事を少しずつでも言える誰かに出会えないでいる。そういうご縁というものもあります。あなたは、いろいろな人に会う方を選んだ。だから可能性はあります。伝えるにしても、相手と伝え方も考える必要がありますが……
 
私: 伝え方……
 
ヘクソカズラ: 彼女は、末期癌患者の人たちに集まってもらって、のんびり過ごしたり、話し合ったり、詩を書いてもらったり、定期的にそういう泊りがけのセミナーのようなことを始めました。それで多くの人を癒しました。
詩については、初め書けないって患者たちは言ってたそうですけど、何も書けなかった人は誰もいなかったそうですよ。
病人だけじゃくて、服役している人にも、詩を書いて、自分の気持ちを受け止め合う取り組みをすることがあるそうですが、それで人生が変わった人は多い……詩をポエムだとか、馬鹿にする人も多いですけど、そういう力があるものなのです。
まあ、その医者になった彼女も、もともとは詩なんか、気取っている感じがするから大嫌いだったそうですけど(笑)。
 
私: そういえば、忘れていたけど、私も、ちょっとだけ、難病の人が集まってメッセージカードを作るのを手伝うボランティアをやったことがありました。みんな、字が下手だしデザインのセンスが無いからって怖気づく人多かったですね。でも、しばらくすると、何かを書き描くようになって、私も含めて、そういうことで、救われていた。
凄くいい取り組みだったんですけど、効果が確認できないっていうことで、偉い人の命令でじきにやめになってしまいました。
 
ヘクソカズラ: (笑)偉い人は仕方ないですね……彼女も、小児科医の時代に、そんなことがあったそうですよ。
子どもにも糖尿病というものがあるのだそうですね。大人でも食事制限は辛いのに、子どもならなおさらきつい。
さらに、同年代の健康な子がいじめたりしてね。
「悔しかったら、これを食ってみろ!」
みたいなこと言うんだそうです。それで、子どもだから、やすい挑発に乗って食べてしまい症状が悪化したりする。親もやかましく生活習慣の事を言うから、親子関係も、こじれたり……
 
私: 体の病気だけじゃないんですよね。長期化すると、人間関係の病になる。
 
ヘクソカズラ :そう……だから、彼女は、そういう親子を六組だったかな。集めてね、親と子を交換して面談させたのです。
 
私: 交換して面談?
 
ヘクソカズラ: そう。親子のペアをそれぞれ、A、B、Cとすると、親Aと子どもBを面談させて、親Bと子どもCを面談させて、親Cは子どもAと面談させて、気持ちを伝えあってもらうのです。そういうことを定期的に繰り返しました。
 
私: それで?
 
ヘクソカズラ :実の親子というものは、素直に、自分の気持ちを話しにくいものです。だけど、似た立場だけど、違う家庭の親や子だったらどうでしょう? みんな、素直に「子どもがただ元気でいてほしいだけなんだ。それだけで、うるさく言ってしまうのは、君が嫌いなわけではない。自分の命より大切な存在なんだ」とか「みんなと同じ事をできないのが悔しくて、物凄く寂しい。それが、わかってもらえない。頭ごなしに、うるさく言われるのは、悲しくて辛い」などと、気持ちを伝えあえたのです。親の気持ち、子どもの気持ちが、それぞれの親子でわかるようになって、そしたら、彼らの親子関係が改善したし、子どもたちも生活習慣を大切にするようになった。
 
私: 凄いな……
 
ヘクソカズラ: そしたら、院長先生が「勝手に、そんなことして! 何か問題が起きたら、どうするんだ!」と言って終わりになったそうです(笑)。人間って必要とされていて、大事なことを変な理屈で潰しますね。
あ、意地悪な言い方をしてごめんなさい。儲かるわけではないし、数字でわかりにくいことだから無理もないと思います。そして、心の問題は複雑だから、本当に問題が起きる場合も考えられなくもない。でも、そこは、薬こそ出していないけれど、病気が改善するのですから、お医者さまの仕事として大切にしたらいいのにと、思いますが。
人間と話しているとね。スギナじゃないけれど、いろんな面白いことを聞ける。悲しみも喜びも、気高さも愚かさも。私はそれが好きなのです。ほかの方がどう思うかは、知りません。つまらないと思う人もいるでしょう。でも、私にとっては、興味があります。
伝える相手と、伝え方はよく考えないといけないけど、伝える事は価値があるし、何かが変わるのです。それは、はっきりと言えます。
境界線にまで、来たあなたは、特に。
 
私: ………………ずっと、考え続けていました。
 
ヘクソカズラ: くすくす。
 
私: なぜ、私が、植物と話せるようになったのか。イチョウさんが、話しかけた詐欺師は、自殺を図りそうだったと聞きました。
 
ヘクソカズラ: くすくす。
 
私: 生と死の境界線を経験した人が、植物と話せるようになるのですね。
 
ヘクソカズラ: それが一つの条件です……全員ではないですけどね。
 
私: 植物と話せるようになったなんて、みんな頭がおかしくなったと思われるから、みんな黙っている……
 
ヘクソカズラ: くすくす。
 
私: もう少し頑張ってみます。ただ、やっぱり焦ってしまうのは……なかなか、悪い癖って簡単に治すのは難しいです。孤独だとなおさら。
 
ヘクソカズラ: キョウチクトウ姐さんも言ってましたよ。ほんとに、あいつ馬鹿だからって。もちろん愛情を込めてね……
あなたは、力を出すために、自分を追い詰めるのが癖になってるのでしょうけど、それをやると、もっと、自分が壊れる。あなたにとって、もう、そういう生き方をする時代は、終わりの方に来ていると思います。多少時間はかかるかもしれないけれど、ぼちぼち行きましょう?
そして、植物以外にも、きちんと話しを聞いて、愛情のある形であなたを笑い飛ばしてくれる人ができるといいんですけどね。
 
私: …………………
 
ヘクソカズラ: 私は、じきに、いったん枯れます。来年、また話を聞かせてください。
自分で死んだりしたら、絶対ダメですよ。笑ってしまうほど、気にし過ぎな部分もあるけれど、私は、あなたの話が好きですから。それからね、あなたは生きていていいの。迷惑をかけるとか、生きるコスパとか、いろいろ言う人がいるのでしょうけれど、生きている罪悪感なんて感じないで、自分の命をかわいがってあげて。慣れてないと難しいと思うけれど、毎日、自分に優しい言葉をかけ続けてあげてください。
そうしたら、絶対に何かが変わる……自分をかわいがれない人は、人を愛することもできないですから。


 その他の作品の目次へ 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?