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ヌープ(1)石板

第1部 ノイズ



◆(1)7月30日 14時7分 石板

 

 どうあっても、この石板の文字は解読しなければならない。それなのに、どうしても意味が取れない。緑がどうとか書いてあるような部分が辛うじて解けそうな気がする。チャールズ・ソレッキは思った。その内容のまとまりの後半は、詩のような内容だった。

 …………

赤と白の鍵の石

 一か月 白い芽が出はじめて

 三か月 黄色い葉がついてくる

 五か月で緑の枝が伸びてきて

 八か月 紫色の花が咲き

 一二か月 赤い綿毛が飛びまわり

 数年後 世界は緑のものになる

  

 ソレッキは、その石板の文字を読みながら、首をひねった。とにかく時間がかかった。言っている事が生活に根差す事なら、わかりやすいのだが、内容があまりに突飛だったり抽象的だったりすると、とにかく解読が難しくなる。

 今までもいろいろな文面に出会った事があったが、それにしても、これは……不可解な内容だった。

 古代の遺跡から発掘される石板の文字は、興味深い言葉が多い。別の遺跡から発掘しされたものだが、五千年前の石板の文字に、

 

 

楽しい事 それはビール

 嬉しい事 それは結婚する事

 よく考えて 離婚

 

  などと書かれていて、現代の自分たちと、さして変わらないと、おおいに笑ったものだ。

 逆に、意味不明なものも多い。当時の人々には、現代に生きる自分にはわからない何らかの共通の認識があったのだろう。

 どう解釈したらいいかわからないものも確かに多い。それにしても、奇妙だ。この内容は、何かが、引っかかると彼は思った。

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(2)あるひき逃げ 

■第1部 ノイズ

(1)石板(2)あるひき逃げ(3)ある娼婦の死(4)通信障害(5)アンティークショップ(6)襲撃(7)遺跡(8)石(9)遺跡の異変(10)石板のメッセージ

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