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第1話<月曜日の夜>↓

夕飯を作りながら、将也のことを考えていた。

(あの子、受験は大丈夫なのだろうか・・・)将也はよく勉強ができる。学年でもかなり上位の方だ。でも、先月将也が家から一番近いA高校に行くと行った時、真弓はキレてしまった。

将也なら県下トップ校も十分に狙える学力がある。それなのに、何も近くのA高校で妥協する理由など、真弓にとってはどこにも見当たらなかった。

真弓はA高校と聞いた直後に、衝動的に拒絶してしまったので、そのあと、将也がもごもご何か言いたそうだったけれど、何が言いたかったのかわからない。真弓が最後に「もう一度考え直しなさい。」と言ったあと、将也は高校に関して、自分から何も言ってこない。

(将也、考えているのかな。私があの時、ちゃんと話を聞かなかったのは良くなかったかな・・・。でも、A高校はさすがに・・・。)

考えながらニンジンを切っていたら、形も大きさもバラバラになってしまった。

ガチャンとドアが開いた。夫の隆司だ。

隆司はリビングに入ってくると、重たそうなカバンをソファに置いた。

(そこは座るところ・・・全く何度言っても。大体、毎日重たそうなカバンを持ってくるけれど、いつもテレビとゲームしているだけじゃない。)

隆司は足を放り出して、携帯を開いた。

(あっ、ゲームだ。)

真弓は大きくため息をついた。リビングにいる人は誰にでもわかる大きなため息だ。もちろん隆司にも聞こえてる。

(あなたのことにうんざりしているのよ。わかる?大体昨日の喧嘩について、何かいうことはないわけ?)

昨日の喧嘩のことはもう忘れようとしていたのに、隆司の顔をみると、メラメラとこみ上がってくるものがある。

でも、忘れよう、忘れよう。もう呪文のように自分に言い聞かせることは慣れてきた。

真弓は、切ったニンジンをざっと鍋に入れた。隆司がキッチンの方に近づいてきた。

「今日の授業はどうだった?」

(授業!?あんたに関係ないわ・・・。そんなことよりも・・・)

「普通。」

真弓には自分の答えがどれだけ素っ気ないかわかっていた。けれど、これ以上に言いたい言葉は見当たらなかった。

隆司は敏感な人だ。真弓がどう取り繕っても、真弓の表情、仕草を読み取る。

(あー伝わってしまっただろう。私がイライラしていること・・・)

隆司は鍋を見た。

「何を作ってるの?」

「カレー。」

「え?またあ?」

隆司の反応を真弓は「拒絶」と受け取った。それが導火線になった。

「またって何よ。じゃあ、夕食は何がいい?って聞いた時、ちゃんと答えればいいでしょ。」

(なんで、こんなことを言ってしまうんだろう・・・)

隆司は、首を2、3回横に振って、まるでこの女は理解できないと言いたげな顔を見ると、益々イライラしてきた。

亜紀が読んでいた本から目を話し、心配そうにこっちを見てくる視線を感じる。

「あと、将也のこと、あなたがちゃんと話してよね。」

ここで、将也のことを話題にする理由などなかったが、気づいたら真弓は言葉にしていた。

隆司は勢いよくバシンとドアを閉めて、リビングを去っていった。亜紀がビクっと体を震わせたのがわかった。

カレーはグツグツしている。かき回した方がいいだろう。でもかき回す気になれなかった。

ひとまず、火だけを消した。

(一体どうして?どうして1日たりとも平和な日を送れないの?)

炊飯器の音が鳴った。炊き上がったようだ。食事などもうどうでもよかった。

⭐️姉妹編「境界線を持つある家族の毎日」はこちらから→
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