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【詩人の読書記録日記】栞の代わりに 7月3日~7月9日

はじめに

こんにちは。長尾です。毎日毎日暑い日が続きますね……どうぞみなさま、健康とこまめな水分補給にはお気をつけて過ごしてくださいね。
今長尾は出版準備と、オンラインイベント、またシェアオフィスのみんなと助け合いながら、アイデアを出し合っています。わたしのささやかですが一生懸命な日々の記録です。
今週もよろしくお願いいたします。

7月3日 sun

昨日の午後に編集のSさんから連絡が入りました。
第二詩集『フレア』、最終校正に入ったようです。今日は午前を早朝3時からオンにして、午後休みをとることにしました。どこかで今週、一日オフを作らないと。
ゲラを確認して、最終校正のチェックを送りました。

今の所考えているオンラインイベントがあります。クローズドにお声がけしているオンライン合評をついに来週頃開くように準備しています。

午後早くは洋服や小物のショッピングに行きました。暑かったのですが、楽しい日曜日でした。

キャップとワンピースを買いました。
ワンピースは色違いでカーキも!
お昼から川が流れ出します。


7月4日 mon

今日は朝から蒸しました。暑さもあって、梅雨に逆戻り。新刊の準備もちょっとどきどきしてきて、イベントに参加されるみなさんにメッセージを送ったり、なんだかすごい夏になっています。
今日はフルタイムでラウンジシェアオフィス。
がんばれました。

・髙田郁『銀ニ貫』幻冬舎時代小説文庫

朗読でいつか聞いた記憶があり、テキストで読んでみたかったので今回読んでみました。寒天問屋の主の和助が、仇討ちで殺されそうになった父子の子、鶴之助を銀二貫で救います。
鶴之助は武士の生まれで、商人として育てられていきますが、自分のアイデンティティと葛藤するものを覚えてしまいます。
しかし、苦労している商売人の仲間たちは人情深く、あたたかな人々ばかり。そんな人々に助けられながら、鶴之助は松吉と改め、新しい人生を切り開いていくのですが……という人情ものの時代小説となっています。
この時代、武士から商人になること自体大変で、それでも松吉は生きるためにこの道を選びます。
周りを囲む人々があたたかければあたたかいほど、自分の冷たく凍っていた心も溶けだしていきます。

・蛭子能収『ひとりぼっちを笑うな』角川新書

みんなと一緒に食べるご飯はおいしい。でも時折、一人にならないとつらい時もある。
わたしは知らない人とご縁をつなぐのを「楽しい」と感じる人間ですが、集中したいときは自分のことしか見えていなかったりします。でも、「みんな」といることももちろん楽しい。楽しいのだけれど、そこで弱気になって主張を押し通すことができなくなる。
そういう体験をわたしもしてきました。
蛭子能収さんは本当に自然体ですよね。漫画家の仕事もしながらテレビに出ること自体大変そうではあるのですが、でも彼は「好きなことを好きな時にどこででも」できる人だと思っていて、そんな彼をうらやましく思ったりします。
ただ、そういう人は「大勢の中にいても自分はひとりだ」と感じることが多いのかもしれません。
それでも、「自分」を通すって、大事なことでもあるのかもしれませんね。

・星乃あかり『へんしん』小学館文庫

占い師のおばあさんと、妖怪のような白い猫。彼らと「玉屋」と呼ばれる人物が、人々の「いつか役に立ちそうな」性格であったり、行動であったりをできるようにする魔法のお守り「玉」を往来の人々に渡していき、その「玉」によって自分が少しずつ変わっていくのを知ることになる、という時代小説アンソロジーとなっています。
いいなあ、正直玉とほら吹き玉。
わたしも曲がったことは大嫌いで、スパスパ本音を言ってしまうタイプです。でも、そういう性格があだになって、自分で自分を苦しめてしまうことも。そういう時に、正直玉ならぬ「ほら吹き玉」があったら、嘘も方便で乗り切れるのになあと思ったりします。
自分で鍛錬していくしかないんですかね……。もう少し、自分磨きをがんばろう、と思えたあたたかな小説でした。

・石田衣良『大人になるということ』PHP文芸文庫

そうか、石田衣良さんは「若者」を描いている小説が多いということに今更ながら気が付きました。
書き続けている年数が長いので、今とは違うその時その時のリアルタイムなのですが、本質で登場人物の彼ら彼女たちが思っていること、大人たちが思っていることは変わらないような気がしています。
大人は全然立派ではありません(笑)
それどころか、若い人々の「理想」を「青臭い」と呼んでおきながら、その真剣さとひたむきさに憧れたりもします。
若いっていくつまでなんだろう、とふと考えたこともありますが、わたしの場合「場数を踏んでくると大人になる」というのが仕事をしていて思うことです。
もちろん学生さんは「場数」の意味が色んなことで違うと思うのですが、そういった人たちも抱えている悩みや苦しみをみな持っているんですよね。
少しその「代弁」ともなるような、石田衣良さんの小説の名言集です。

・藤原てい『流れる星は生きている』中公文庫

今ここで生きていることが当たり前になっている時代。
そういうものは、とても幸せなことなんだと思います。このノンフィクションでは、言語を絶する戦時中のなかでの一家の逃避行を描いたものです。
母と子ども3人。子どもたちには「なぜ逃げなければいけないのか」その理由すらわかりません。それでも、逃げ続けなければいけなかった。
「生きるために逃げる」ことの命がけ。
そのための一生懸命さと、今を生きているわたしのこと、そしてこれから起こりえるであろう様々なことを、思いました。

・姜尚中『生と死についてわたしが思うこと』朝日文庫

今、わたしたちを取り巻く環境を、あなたは幸せだと思いますか? それとも、今逃げ出したい地獄だと思いますか?
多分こう聞かれたら、わたしは「周りで起きていることはいたって平穏ですが、その向こうの世界はとても見ていられないほどの地獄です。そして、その地獄を見続けている間に自分自身の体や心にも地獄がやってきてしまいます」と答えると思います。
世界の不条理というものにこらえきれなくなった姜尚中さんの息子さんの苦しみは、どれほどのものだったのでしょうか。
わたしも十代のはじめに大規模な手術をして、それから「不条理」に対して抗って生きるために、「詩作」を始めました。
たぶん、世界を崩壊したい気持ちと自分を崩壊したい暴力性を形にすることができなかったから、そんな自分の暴力性を吐き出す場所が「文学」という形式でしかなかった。
そんな気もしています。だからこそ、文芸創作をやってきたという過去や現在があります。
姜尚中さんがお話になることは、とても真に迫っています。きっと彼が感じ取った美しさや芸術も(日曜美術館を見ていました)彼や彼らを救うものとしてあったのだろうなという気がしています。

・江國香織『やわらかなレタス』文春文庫

江國香織さんの小説が好きでよく読んでいましたが、彼女自身はとても平穏でのんびりとした日々を送っていることに救われた気持ちになります。江國香織さんのゆるやかなエッセイ集となります。
わたしの中で、恋愛小説と言ったら江國香織さんという謎の定義づけができていまして、その中での激しい恋が印象的でした。
でも、作家はそういう「激しさ」を作品に出すか自分の性格に持つかで分かれていると思っていて、わたし自身は前者です。以前はそうでもなかったけど。
わたし自身が結婚して、落ち着いたというのもあります。でも、「激しさ」を作品にせざるを得ないときだってあります。そういう時に寄りかかる場所として、わたしには詩がありました。
作品は自分の子どものようなもので、ある程度は似ますが、作者と作家は切り分けて考えないといけない時もあるのかもしれませんね。

・阿川佐和子『あんな作家こんな作家どんな作家』ちくま文庫

阿川佐和子さんのしゃべり上手と話しの引き出し方は思わずテレビやラジオでぼうっとしてしまうほどうまいです。
作家って、普段は自分の事を話してくれませんが、わたしも阿川さんの真似をして「聞き上手」になろうと努力しているところで、「聞く」姿勢を持っていると、出てくる出てくる。作家の本音。
阿川さんはそういうものを「人間」として冷静に観察し、作品に仕上げられているのではないか。そんな気もします。
人が背負っているものは色々あります。それは、作家でもそうでなくてもそうです。
でも、自分の事を少しだけ脇にずらしておきながら、人の話を聞いて引き出しを開けることを常にやっていると、ふいに視界が開けてくるように思います。
そういった作家の思い出話をつづったエッセイ集になります。

・白州正子『美しくなるにつれて若くなる』角川春樹事務所

美しい人。わたしは白洲正子さんのことを特にそう思っていて、若い時の白洲次郎との恋も素敵なのですが、少し破天荒でもありました。
でも、顔かたちが美しいものも含め、彼女の心はいつまでも美しいと思います。
それはなぜなのだろうと原因を探っていくと、「己を知る」ということがしっかりできているからだと思います。
別に豪華なメイクやネイルをしていても、それだけでその人のことを「美しい」と決めるのはそうではないと思います。もちろん、自分自身がそういうものが好きで、突き詰めていった結果そういうおしゃれを楽しんでいるなら、それは立派な「美しさ」でもあります。
ただ、自分のことを知っていればいるほど美しくなり、若くなる。人のことが見えてくるようになる、というのはわたしが出会ってきた様々な女性達・男性たちにいえることだと思います。
そういう意味で、ずっと彼女の「古典を愛する心」を忘れたくないなと思います。

7月5日 tue

今日は朝からラウンジオフィスで卓球大会でした。
諸々あって昨日は寝付けず、毎朝5時からのウォーキングができなかったけれど、いい汗をかきました。

わたしはラケットの握り方もわからなかったし、教えてもらってもピンポン玉に当たらない……と思っていたのですが、オフィスの皆様に教えてもらって、9回ラリーが続いたり、スライスを返せるようになりました。大笑いして汗をかいたのちに帰って一週間の作り置き。だいたい煮込み料理です。作業中に放っておいてもできるので……。

よく眠れた一日でした。

7月6日 wed

今日はよい睡眠が取れたので、朝から元気でした。
地元のスーパー(といっても少し歩きます)で朝早くにスイカやチーズを買い、夏のごちそう、スイカサラダを作りました。

チーズは丸まっているものです。オリーブオイルとレモンをかけて。

あまり人には話せませんでしたが、ここのところ事情があってうまく書けない日々が続いていました。すごく苦しかったです。
でも、昨日新作を3編書いて、今日はその推敲などをしてから作業をしました。
合評会の原稿も届き、そのことを非常に考える一日となりました。
Twitterでも支えてくれた皆様、ありがとうございました。

毎週水曜日恒例のコーヒーブレイク。
色々な「知らない人」としゃべることができるので、とても刺激的です。


7月7日 thu

昨日の夜はコーヒーブレイクでの刺激が楽しく、あまり寝付けなかったのでコーヒーブレイクで語っていただいた思い出話を中心とした新作を1編作りました。
また、自然と新作も1編。
日曜日に大切な作業が入っていたため、今日は全休をとっていました。
何かに深く安堵したのか、午前中にぐっすり眠れてよかったです。

今日はゲンロンカフェの七夕イベントで、若手の女性作家の3人の方のお話を伺いました。

普段どのペースで執筆されているのか、デビューしてからの苦労話、毎日書いて腕を磨くこと、書くためにすることとは。3時間半くらい、ずっとメモを取り続けていました。
新川帆立さん、櫻木みわさん、藍銅ツバメさん、貴重な時間をありがとうございました!

腹ごしらえはゲンロンカフェの下の階の天下一品で。
手触りも良く、これから読むのが楽しみです!
ずっと単行本で読みたかったので、会場で買えてよかったな。

7月8日 fri

なんとかいつものバスに乗ってシェアオフィスに行けました。昨日は深夜に帰ってきたので……昨日のトークを振り返りつつ、創作や楽しい読書体験をできました。新作2編。この一週間でできた詩の推敲など。

・芥川龍之介『杜子春』青空文庫

絵本で読んだ方も多いのではないでしょうか。
人の欲、というものは底なしですが、この小説は深く考えると、「人間というものはいいものなのか」ということではないかと思います。
仙人になれなくても、めぐりめぐって自分に返ってくる恩というもの。ずっと前に読んだきりで、昨日のトークイベントで出てきて読みました。
人は大金持ちになったとしても、「何か」を忘れていきそうで、その大切な「何か」をずっと感じている。それと共に生きている。
そんなことを感じました。

・藍銅ツバメ『鯉姫婚姻譚』新潮社

孫一郎という若隠居した青年と、おたつという人魚の物語になっています。おたつは孫一郎と結婚したくて仕方がないのですが、孫一郎はその穏やかな性格から、人と人でないものの結婚の話をおたつに語って聞かせ、あきらめさせようとするのですが……。
物語を「語る」ということは、その人と「聞いている人」の何かを結ぶ行為だと思いました。
だからこそ、わたしは小さなころ、両親に絵本の読み聞かせをしてもらって、いつか自分で一人で読みたい。そんな思いがあったのかもしれません。
人でないおたつを始め、猿婿であったり、つらら女であったり、人でないものたちはなぜか「人情」があったりします。
この作品の世界ではだいたいの男性がおっとりとして優しく、穏やかなのですが、女性は勝ち気で子どもで、そしてどこか妖艶な「かわいさ」を秘めています。
結末には少しびっくりしましたが、こういう「愛」のかたちもあるんだろうなと思いました。

・櫻木みわ『コークスが燃えている』集英社

生きていくという悲しくも喜びのある毎日をわたしたちは過ごしていると思います。
周囲で起きていることは平穏なのに、なぜか周期によってあらぶれてしまう「わたしたち」。母となること、つきあっていた彼を裏切ること、そして出産することと、母になりたくてもなれなかったこと……。
コークスとは炭鉱の炭の燃料です。
静かにそれでも燃えていく、「わたしたち」の物語。
いつ、わたしたちは年老いて許し、何もかもを許すことができて、「しがらみ」から解放されるのでしょうか。
何もかもを、自分に降りかかる理不尽や喜びを、すべて許すと決めたら生きやすくなるのかな。
みわさんご自身は「自分に起こったことを解明するように書いている」と昨日仰っていましたが、そういう作家の姿勢はとても重要に思います。
ジャンルが違っても、そういうものはあり得ると思っていて。
「許し」という自分に課す、強烈で激しい、でもその先は平穏な課題。それをわたしたちはいつだって抱えているのかもしれません。

所用でオフィスの外へ。ふふふ、お買い得!

7月9日 sat

 昨日のことももろもろあって、ちょっと心が大変になってしまった日でした。昨日はカフェで友人にたくさん話を聞いてもらいました。お互いに聞きあいました。
それでも、この日に電話できる友人がいたり、本当に心強いです。
わたしはみなさんに助けられているんだなと思いました。
落ち込むことは日々あるし、それでもわたしたちは生きて、暮らして、歩いていかなければならないのだと思います。
たとえそれがゆっくりであっても。
それでいいのだと思います。

追伸:読んでくださったみなさまへ

みなさま、先日はよく休めましたでしょうか。
酷暑と日々の心労で寝付けない方も多かったのではないでしょうか。
暮らしを作っているもの、ささやかな日々も、いつでも些細なことですが、そんな「些細なこと」が日々大事だとわたしは思っています。
読書感想文の一番の醍醐味は、読書ということで自分の心の中に増えていった世界をみなさまと共有できるということです。だからこそ、そんな「些細なこと」と「読書感想文」を一緒にしていて、もう1年以上が過ぎました。
どうか今日、みなさまが心穏やかに休むことができますように。

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