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高野ムツオ『片翅』を読んで

私自身が詩をやっているせいか、同世代の女性詩人だったり、とてもいい詩歌に触れると体力が削れて動けなくなることが、あります。

今回の高野ムツオさんも、その「動けなくなるほどの衝撃」の中でも格が違うほど感激してしまいました。

高野ムツオさんは、私と縁がある俳人の方の師匠。

そういう意味でも、どんなうたを作られる方なのか、とてもドキドキしながら読みました。

……すごかったです。高野ムツオさん自身も東北出身なのですが、この句集は2012年からのもので、震災を扱った句も多く、そういう意味でも「この時代」を生きた俳人として、とても尊敬する方です。

今回ご紹介するのは、あえて震災句ではないもので衝撃を受けたものを選びました。

みちのくや蛇口ひねれば天の川 ムツオ

高野ムツオさんご自身がみちのくのあたりの出身のせいか、この句はとてもドラマティック。蛇口をひねるという日常の行為が、天の川という宇宙的なダイナミズムに発展する様子。それをこんなに短い中に凝縮されています。

薄氷や大人になれなかったよと ムツオ

とても悲しい句です。大人になれなかった子の悲しみ、あるいは周りから見れば「大人」の年齢なのに、大人になりきれない大人。それを、踏めばすぐに割れてしまう薄氷に託している。

最期あり我立つ星に凍て星に ムツオ

星には、「最期」があります。我立つ星は地球の事だろうと思いますが、凍て星にも最期があり、地球から空を眺めているけれど、どの星にも人間にも「最期」があるとふと気がついた句でした。

日常の中には視点の転換で宇宙規模のことが起きているように思いますし、そのダイナミズムが一句に収められているのがとてもよかったです。

17音。その中にどれほど宇宙を取り込めるか。

そんなことを考えました。

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