桜回線 #毎週ショートショートnote
日本桜回線社。全国の桜の開花を管理するインフラ企業には一通の手紙が掲示されている。季節外れの冬桜が咲いた年に届いた手紙だ。
『日本桜回線社の皆様へ
以前にも手紙を送った者です。
先日、母が旅立ちました。春までは持たないだろうと宣告され、辛い闘病生活の中で窓の外に咲く桜を見ながら、母は安らかな最期を迎えました。先立った父との思い出である桜を一目見たいという願いが叶い、母はとても満足げでした。
季節外れの桜を咲かせるため方々への調整など、ご無理を聞いていただき大変感謝しております。
私は手のかかる息子で、母にも随分と迷惑をかけてきた人生でした。そんな私が最後の親孝行として母の願いを叶えてあげられたのもひとえに皆様のお陰です。ありがとうございました。
あの日見た桜は、私の中でも一生忘れ得ぬ宝物です』
一枚の花弁が添えられた手紙は、毎年の入社式で必ず読み上げられる。
「桜で人を笑顔に」その社訓を胸に、彼らは今年も桜を咲かせる。
了(407文字)
以下の企画に参加させていただいています。
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