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リベンジトリートメント #毎週ショートショートnote

※R-16くらいです

「髪は女の命なのよ」
どこか誇らしげに由紀がそう言ったのはいつのことだっただろうか。
まだ付き合いたての頃、何かの折に触れて絹のように綺麗な髪を褒めた時だったと記憶している。
勝ち気な性格だったが、結婚して間もなくは順調だった。
ただ、子供をなかなか授からず何年か経った時、気づけば僕らの結婚生活は破綻していた。
由紀の不倫が発覚した。相手は知らない男だったが、関係は短くはなかった。
私は悪くない。あなたとの間に子供ができないから。それが辛かったから。
仮に一言、謝罪の言葉があったとしても僕の心は救われない。とっくに死んでしまっていたのだ。不倫は心の殺人、という言葉が浮かんだ。
だから僕は、彼女の命を奪うのだ。
彼女のリンスの容器に入れたそれは、彼女の命をじわじわと殺していく。
最初は気づかない程度に、気づき始めた時には取り返しのつかない程度に。
何らかの罪に問われるかもしれないが、瑣末なことだ。
これは僕から彼女へのリベンジなのだから。

了(412文字)


以下の企画に参加させていただいています。

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