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死花-第2話-⑦

「ごめんね嘉代子さん。送ってもらって…」

「別に良いわよ。加奈子がグズって、あなたに迷惑かけたわけだし…」

「迷惑って…」

車を運転する元妻のそっけない言葉に、真嗣は困ったように閉口する。

ルームミラーでその姿を確認すると、嘉代子は小さくため息をつく。

「ごめん。少し意地悪だった。」

「ううん…」

頭を振り、真嗣は泣き疲れて自分の膝で眠る娘の髪を撫でる。

発表会が終わり、久しぶりに家族で食事をして、でもいざ帰ろうとしたら、娘の加奈子に泣かれてしまった。

その時言われた台詞が、真嗣の心にチクリと爪を立てる。

「(パパは、ママと加奈子が嫌いなの?)」

「ごめんね加奈子…ダメなパパで。」

申し訳なく呟く元夫に、嘉代子は僅かに眉を落とす。

「…で?どうなの。妻も子も名誉も捨てて、自分の気持ちに正直になってみて。」

「棘あるなぁ〜」

「ホントの事じゃない。」

ごもっともと言って、真嗣は複雑そうに笑う。

「結婚はしてなかったけど、好きな人がいたよ。綺麗で優しそうで…張り合うのもおこがましいよ。」

「そう…」

「嘉代子さんは?」

「軽くみないでよ。誰かさんと違って、半年でホイホイ他の男に乗り換えたりしないわ。」

「棘あるなぁ〜」

「ホントの事でしょ。」

そう言って、嘉代子はクスリと笑う。

「でも良かった。今のあなた、良い顔してる。」

「そうかな…」

「ええ。…結局、あなたにとって足枷でしかなかったのね。私も加奈子も…」

「そんな事ないよ。僕は、今でも嘉代子さんのこと、好きだよ?ただ、気づいただけなんだ。本当の自分に…そして、このまま気持ちを偽り続けて生きていくことに、自信が持てなくなった。結局、君たちから逃げただけだよ。臆病者さ…」

「真嗣…」

笑った顔が作り笑いだと言う事を、10年連れ添った経験が知らしめる。

この人はこのまま、何もかも秘めたまま、ひっそりと生きていくのか…果たしてそれが…

「ねぇ…あなた今、幸せ?」

思考が口をついた。しまったと後悔する嘉代子。しかし、暫時の沈黙の後、意外な答えが返ってくる。

「もちろん。幸せだよ。」

「そう…なら、良かった…」

叶わなくても良い。ただ、そばに居るだけで…

口をついた言葉に、嘘はなかった。

自分は今、充分に満たされている。

だけどやっぱり、求めてしまう欲張りな自分がいる。

だから…

「一度当たって、砕けてみるか…」

車窓から覗く星空を眺めながら、真嗣はポツリと呟いた。





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