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【小説】減らないチョコレート

「うわ〜!!」

ショーウィンドウに並んだ色鮮やかなチョコを詰め込んだ「当店冬季限定チョコレートアソートボックス」と書かれたポップの付いた商品を、絢音はうっとりと見つめる。

「欲しいなぁ〜。でも12粒で5,000円かぁ〜。お小遣い…今月厳しいけど、一箱買うくらいの余裕はあるし…でもなぁ〜」

この店のチョコは、藤次も大好物。

買って帰れば、当然半分こ。

それが少し嫌。

できれば独り占めしたい。

そうかと言って、藤次に小遣いの追加をせびって、無駄遣いの多いやつだと呆れられるのも嫌。

考えあぐねいた末、絢音は店員に告げた。

「すみません。それ、一箱ください。」

「あぁ、あかん。あんなに食ったのにまだ腹が空く。絢音…なんぞ隠しオヤツとか持ってへんかな。」

深夜。

空いた小腹を抱えて、お菓子やカップ麺と言った買い置きの入った戸棚を漁る藤次。

夜中に飲食など…ましてや絢音の手料理を毎食腹一杯食べてる身としては、この行為は健康上よろしくないと分かっているが、どうにも眠れないので、止む無し止む無しと言い聞かせて物色していると、戸棚の奥の奥に、何やら買い置き品とは思えない高級感のある箱が一つ。

「なんやねん。…お!カナベル!!しかもこのパッケージ、今年の冬季限定のやつやん!!ラッキー!」

きっと買ったはいいが、仕舞い込んで忘れてるのだろうと、いそいそと箱を開けてみると…

「んん?なんやこの、中途半端な減り方…」

箱の中には12粒あるはずのチョコが、何故か7つしかなくて、藤次は首を傾げる。が…

「…ひょっとして、ワシに隠れて、チマチマ食べて、ワシに取られんよう一丁前に隠しとんか?アイツ…」

そう思った瞬間、フッと笑いが込み上げてきて、藤次はそれを元の場所に戻す。

「こないチンケなことせんでも、欲しいてねだれば幾らでも買うたったるのに…可愛い。」

頭の中で、嬉しそうにチョコを頬張る絢音を想像しながらそう呟いた瞬間だった。

藤次の脳裏に、あることが閃いたのは。

「……いよいよ後2粒かぁ。寂しいけど、お店も販売終了しちゃったし、ゆっくり味わって食べよ。」

午後の家事を終えて一休みのティータイム。

お気に入りの紅茶を淹れて、そっと戸棚からチョコを取り出して蓋を開けると…

「あれ…?」

箱に入っていたのは、2粒ではなく3粒。

数え間違えかなと、その日はなんとも思わず、ラッキーと呟き、絢音はチョコを頬張った。

しかし、2日目…3日目…1週間となっても、チョコは2粒以下にはならず、何故かこのシリーズには入ってないはずの、自分の大好物のチョコまで入りだしたので、流石の絢音も焦りだし、ある日の夜、藤次に恐々と、隠れて食べてたの知ってたのと聞いてみた。

すると…

「あーあ。流石に違うもん入れたら気ぃついたか。残念残念。」

怒りもせず呆れもせず、愉快そうに笑うので、絢音は恥ずかしさで真っ赤になって俯く。

「ごめんなさい。独り占めしちゃって…」

「なにがやねん。ワシかて自由に使える金あるんや。欲しかったら自分で買うわ。それをお前…お互いの好物なら、見つけたら何でも半分こしよって性根、ホンマ可愛え。」

言って、残った2粒の内1粒を、絢音の口にチョンと運んでやる。

「不思議。いつもより、美味しい…」

「ホンマか?なら、ワシにも、食べさせて?」

「ん。」

頷き、最後の1粒を名残惜しそうに見つめながら自分の口元に持ってくるので、藤次は更に笑い出す。

「お前…ひょっとしてお気に入りは最後まで取っとくタイプか?」

「!」

図星なのか、カアッと、耳まで真っ赤になる絢音を見つめて、藤次は口元のチョコを手に取ると、戸惑う絢音の唇に押し付け食べさせると、すかさず深く口づけする。

忽ち口内に、甘酸っぱいラズベリーの味が広がり、味わうようにねっとり口づけを交わしていたら、男の性がムラムラしてきたので、彼女をその場に押し倒して、隠れて食べてたお仕置きやと言って、恥じらう絢音をキツく抱き締め、甘美な情事に…身を委ねた。


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