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小説:人災派遣のフレイムアップ

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魔術師、サイボーグ、武道家、吸血鬼。現代の異能力者達は、企業の傭兵『派遣社員』として生活のために今日も戦う!
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小説:人災派遣のフレイムアップ

 貧乏大学生、亘理陽司は生活のため派遣会社で日々労働中。  『人材派遣』、それは必要なところに必要な人材を派遣するシステム。  ある時はフィギュアの金型の奪還のためサイボーグと戦い、ある時は人気漫画の生原稿を巡って高速道路でバトル、ある時は保険金の支払いのため山中で幽霊と会話。  『派遣社員』、それは異能力者に社会が用意した受け皿。  生活のため、己の力を駆使して任務に挑む! 1話:副都心スニーカー 新作フィギュアの金型が盗まれた。犯人は強引なマーケティングや著作権

EX1話:『企業戦士 東野』13【完】

 『師走』の文字通り、まさに12月を走りぬけ、短い正月が過ぎて松が取れると、熾烈を極めたゲンキョウの社内にも僅かなりとも落ち着きが戻ってきた。  まったく大変だった。『カペラ』は確かに自信作だったが、ユーザーの反響は予想以上に大きく、ゲンキョウは全社を挙げて、生産とサポートに追いまくられた。  亜紀を含めた開発チームもユーザーサポートに追いまくられ、殆ど他の事を考える暇も無かった。亜紀にとっては、それは少し救いでもあったのだが。  年が明けてもまだまだ戦いは続く。若者

EX1話:『企業戦士 東野』12

 近代以後、経済活動の暗部に形勢された異能者達の世界……『派遣業界』。  数多くの情報が行き交うこの世界では、常に無数の逸話と伝説が紡がれる。が、実際にその場、その異能者に出会えた者はごく僅かであり、逸話のほとんどは誇張か、単なる虚構に過ぎない。  そんな中、誰もがその実力と実績を確固たる事実と認めている、とある集団がある。  善悪の評価はどうであれ、彼等の実力を疑うものは誰もいない――裏の世界のみならず、表の世界でも。なぜなら彼等の成し遂げた事は、歴史の一ページとして

EX1話:『企業戦士 東野』09

「やられた!」  息せき切って駆け込んできたプロジェクトメンバーの一人が広げたその日の日経新聞を見て、一同はまず愕然とし、次に怒りとも怨嗟ともつかぬ声を上げた。そこには某大手電機メーカーの広告が半ページを使って掲載されており、以下のようなコピーが大々的に踊っていた。 『”貴方の感情が曲になる” 新世代携帯音楽プレーヤー『JukeBox』 12月17日発売』   そしてその下には、プレーヤー各種センサーを利用してユーザーの状態を読み取り、次に最適な曲をするといった説明が続

EX1話:『企業戦士 東野』08

「でサ。その後また社長直々に呼び出されてさ。激励の言葉をもらったってワケ。まー、ケツが痒くてまいっちゃったもんよ。カンベンしてホシーよね、ああゆうの」  大宮駅東口、例の居酒屋である。今日は洋酒のフェアだとかで、亜紀にしては珍しくウィスキーをあおっている。 「ふうん。それはまた大変だったね」  篠宮はと言えば、白ワインを一杯開けだけで、あとは専ら亜紀の聞き役に徹している。亜紀が知る限り、もともと酒の強い男ではない。飲めば必ず、独走する亜紀を篠宮が見守るという形になるので

EX1話:『企業戦士 東野』07

 夜の森の狭間を滔々とうねる大河のようなオーケストラ。    瞑目して曲が織り成す世界に没頭していた源田社長は、ゆっくりと眼を開いた。四分近く続いたペールギュントの『朝』の演奏が終わりに近づいてくる。  午前中の激務に続くハードな交渉相手とのビジネスランチで消耗した心身を、クラシックは染み渡るように癒してくれた。充分な休息。だが、いつまでもぐうたらしているわけにはいかない。  休息を終え、勤勉な実業家としての源田社長の本分がむくむくと目を覚ましはじめた。……いつまでも

EX1話:『企業戦士 東野』06

「どうせ貴方の事だから、プロジェクトメンバーの履歴書なんて一通り目を通してるんでしょ」  椅子に座りなおし、背もたれに体重を預けた。 「……まあ、一通りは」 「そう。なら、貴方がご存知の通り、ウチは早い時期に両親が離婚してね。私が小学校の時から父親と二人暮しを始めたわけ。母への慰謝料で、父の生活は相当苦しかったみたい」  父が母にした仕打ちと、母の父への恨み。どちらが過剰だったのか、あるいは等価だったのか。随分な慰謝料だったらしい。 「変な話よね。私の前では口論一つ

EX1話:『企業戦士 東野』03

「近年の携帯音楽プレーヤーの一大転機は、言うまでも無くアップル社が開発したiPodです」   東野と名乗ったその男は挨拶も早々に、持ち込んだノートパソコンをプロジェクターに接続し早速プレゼンテーションを開始し始めた。 「……ちょっと。何ですあの男?」  亜紀は隣の先輩を小突く。  彼女は不機嫌だった。眠いし二日酔いはまだ抜けない。あの男の登場で、渾身の手抜き資料は日の目を見ずに済んだが、それはそれで無駄になった昨夜の残業時間が腹立たしい。先輩は一つ唸った。 「人材派