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小説:人災派遣のフレイムアップ

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魔術師、サイボーグ、武道家、吸血鬼。現代の異能力者達は、企業の傭兵『派遣社員』として生活のために今日も戦う!
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2019年6月の記事一覧

小説:人災派遣のフレイムアップ

 貧乏大学生、亘理陽司は生活のため派遣会社で日々労働中。  『人材派遣』、それは必要なところに必要な人材を派遣するシステム。  ある時はフィギュアの金型の奪還のためサイボーグと戦い、ある時は人気漫画の生原稿を巡って高速道路でバトル、ある時は保険金の支払いのため山中で幽霊と会話。  『派遣社員』、それは異能力者に社会が用意した受け皿。  生活のため、己の力を駆使して任務に挑む! 1話:副都心スニーカー 新作フィギュアの金型が盗まれた。犯人は強引なマーケティングや著作権

第3話:『中央道カーチェイサー』05

「……っと」  射竦められる、という表現がまさしく正しい。戦うために純化してきた生命体が、獲物に向ける無慈悲な視線。大型トラックやらスポーツカーが何台も集まっているこの駐車場でも一際存在感を放っている、蒼い猛禽類の姿がそこに在った。  GSX1300R『隼』。  車とバイクについては乗れればいいや、というレベルの知識しかないおれでも存在を知っている、特徴的なフォルムを持った自動二輪である。おれが先程双眸と見間違えたウィンカー、誰が見ても嘴を連想するであろうフロントカウル

第3話:『中央道カーチェイサー』04

「ゲームの開始は深夜二十五時ジャストに決定された。ゴールは東京都千代田区神田の喫茶店『古時計』。場所は頭に叩き込んできたか?」  仁サンのコメントにおれは頷いた。東京一人暮らしもそれなりに長い。都内の地理は脳に焼きついている。 「勝利条件は二つ。その一。『ミッドテラス』社の雇ったエージェント四人を排除し、彼等の持つ『えるみか』第42話原稿の前半部分を奪い返すこと。その二、その原稿と今お前が手にしている後半部分をセットにして、ゴールまで持ち込むこと。お前達のチームが勝利すれ

第3話:『中央道カーチェイサー』03

 社長が死神に愛想を尽かされて現職にカムバックしてからと言うもの、『あかつき』の編集部内は宗教弾圧真っ盛りの中世さながらだったそうだ。  まず最初に行われたのが、主要連載マンガ陣の打ち切りである。人気の無くなったマンガがいきなりストーリーを急速に進め、それから三、四話後に打ち切り、というパターンはどこでも良くある話だ。だが、これを『あかつき』では人気連載が唐突に行ったのである。  そして困惑する読者を尻目に次に行われたのが、同じく人気マンガの他誌への移籍。ホーリック社は『

第3話:『中央道カーチェイサー』02

『月刊少年あかつき』。  それが『えるみかスクランブル』の掲載雑誌の名前である。  決してメジャーどころではないが、タイトルは若い世代なら大抵知っているマンガ雑誌だ。ただし読んでいる人はそれ程多くなく、コンビニでもなかなか見かけない。そのくせ掲載されているマンガの中でトップの人気を誇る作品――『えるみか』はまさにその一つだ――は、誰もが一度はアニメくらいは見た事がある。そんな微妙なバランスを保ったこの月刊誌の存在が、今回のお仕事のそもそもの発端である。  『少年あかつき

第3話:『中央道カーチェイサー』01

「ぅえっくしっ!!」  おれは唐突に盛大なくしゃみを上げ、周囲の人々――長旅の疲れを癒す善良なドライバー諸氏から冷たい目を向けられた。左右に首を振りながら愛想笑いと目礼で謝る途中、もう一回大きなくしゃみをする。おれはたまらず、ささやかな夜食、たった今トレイに載せて運んできたみそラーメンに箸を伸ばした。  世にラーメン数在れど、体を中から温めるという点に於いてみそラーメンに勝るものはあるまい。シャキシャキのもやしと甘いコーンが入っていれば及第点。その点、このレストランのラー

第2話:『秋葉原ハウスシッター』15【完】

「それで、結局特許は承認されたんすか?」  受け取った封筒の感触に頬をほころばせつつ、おれは問うた。一任務終わるごとに即時現金で報酬が支給されることは、うちの事務所の数少ない長所の一つだ。迂闊に月末払いにでもされると、報酬を受け取らないうちに餓死しかねない連中も何人か所属しているので、自然とこうなったようだ。  明日からいよいよ世間様はお盆である。ニュースでは帰省ラッシュによる新幹線乗車率がどうの、成田空港の利用者は何万人だのといった情報が垂れ流されている。二十四時間体制

第2話:『秋葉原ハウスシッター』14

 月が翳り、辺りを闇が満たしてゆく。  鉄骨の林の中、限られた空間を無数の線が貫き埋め尽くす。今やそこは、『蛭』の五指両手が織り成す蜘蛛の巣と化していた。その指はどれほど長く、迅く伸びるというのか。変幻自在に放たれ捻じ曲がる無数の槍衾の渦を、直樹はコートをなびかせながらひたすらに避ける。 「なかなか素早い。しかし、所詮人間の動きでは避け切れませんよ」  『蛭』が言うや、さらにその攻撃の速度は上昇。もはや刺突ではなく銃弾に匹敵する速度で打ち出される攻撃を、それでも直樹はか

第2話:『秋葉原ハウスシッター』13

 身を起こしたおれの事などもはや眼中に無く、直樹と『蛭』は静かに視線を交えていた。片や黒いハーフコートを着込んだ初老の男。片や、このクソ暑いと言うのにインバネスなぞ着込んだ直樹。カメラ越しに見れば十二月のシーンに見えなくも無いが、おれの周囲にまとわりつく熱気が、これは紛れも無く八月猛暑の夜なのだと訴えてくる。 「先ほど事務所に真凛君から再度電話があってな。突入してきた連中と戦闘を開始したそうだ。どうやら海鋼馬の連中らしい。第一波は問題なく撃退できたが、そろそろ第二波が来る頃

第2話:『秋葉原ハウスシッター』12

 地下鉄が駅に到着すると、おれは一人改札を抜けマンションへと急いだ。駅前でぐるりと敵に取り囲まれるかとも思ったが、幸か不幸かそういったものはなく、おれは至極あっさりと地上に出ることが出来た。すでに日は落ちており、蒸し暑い夜の空気の中、おれはひたすら走ってゆく。と。 「!!」  全く反応は出来なかった。それでもその攻撃が当たらなかったのは、向こうがあえて外していたからに他ならない。おれの目の前を槍のように何かが通り過ぎかすめていったのだ。攻撃のあった方を振り向くと、そこには

第2話:『秋葉原ハウスシッター』11

「先ほどもご説明したとおり、侵入者騒ぎがあったわけですが」  おれはお茶を飲み干し、口の中を潤した。 「我々としても依頼を受けた以上、スイカの番は責任を持って果させていただきます。そのためにもこのご依頼についての確認をしておく必要があると思うのです。改めて二つ質問があります。一つ。笹村さんが開発されたスイカの研究データは、今どちらにあるのですか?」 「研究データはここ、私の個人用のノートPCですね。いつもあの部屋に置きっぱなしだったんですが、作業に備えて持ってきました」

第2話:『秋葉原ハウスシッター』10

 埼玉県草加市。  埼玉でも特に南部に位置するこの街には、おれ達が居た千代田区のマンションからドアツードアで四十分とかからずに到着することが出来た。時刻は夕方。東武伊勢崎線の駅を出て、おれ達は羽美さんが打ち出してくれた地図を頼りに駅前の商店街を進んでゆく。草加といえば煎餅が有名なのだそうだ。帰りに余裕があれば事務所の面々にお茶受けでも買って行ってやるとしようか。 「んで、またお前とかよ。鬱陶しいからおれの側を歩くんじゃねえよ」 「他人の台詞を横取りするな。今日は真凛君と

第2話:『秋葉原ハウスシッター』09

「はぁ~、お腹一杯だと幸せだよねえ」 「……奢りならなおさらな」  途中の蕎麦屋で昼飯としてざる蕎麦六枚とカツ丼セットを平らげ、おれ達は千代田区のマンションに戻ってきた。ちなみにおれが食ったのはざる一枚な。なんていうかおれのバイト代の経費はほとんどコイツのメシ代に消えているんじゃないだろうか。  別に年上の貫禄で奢ってやる、というわけでもなく、ただたんに毎回連続でジャンケンに負けているということなのだが。何故だか知らんがこいつ、ジャンケンが反則的なまでに強い。いちおうそ

第2話:『秋葉原ハウスシッター』08

「……と言っても、実際にやることはネット上の検索なわけですか」  おれは事務所の奥にある石動研究所(和室六畳間。ちなみに隣には洋室六畳の仮眠室がある)に通された。和室と言いつつ無数の配線と機材のジャングルに埋もれ、畳なんか一平方センチメートルだって見えやしない。羽美さんが巨大バイスの上にノートPCを乗っけてソフトを起動させる。おれはと言えば座るところも無いので、立ってPCを覗き込むしかない。 「まあな。来音のように紙媒体の資料を地道に漁ると言う手もあるが、今回はそこまで悠