極東から極西へ37:カミーノ編day34(Palas de Rei〜Boente)
前回の粗筋
お遍路についての話を聴いた。
餌付けをされた日になった。
前回
今回は少し距離は短め。
ボエンテまでのお話。
・Palas de Rei〜朝ごはん
準備をして食堂でコビさんにもらったバナナを食べる。
雨だね、と他の巡礼者と肩をすくめあって、それでもカッパを纏って出発した。たった20kmの距離だから少し時間は遅め。それでも雨降りのせいもあって十分暗い。
街中で、タケル君と出会う。
彼は好青年だし、モデルみたいにカッコいい。颯爽と進む後ろ姿を見送った。
少し進んだ森の中で道を探す人影を見つけた。ヘッドライトで道標を探し、二人でこっちっぽいねとやったところで「ツネさん?」「あれ? リーさん?」と気付く。そのくらい辺りは暗いんだなあと改めて実感する。
暗いのでそのままリーさんと歩く。
「あれは、ここら辺の特徴のある倉庫なんだ。穀物をしまって置くんだよ」
リーさんに詳しいオレオの説明をしてもらった。
「ここら辺は雨が多いから、倉庫は地面より上にあるんだ。中に雨は入らない仕組みだって」
明るくなってから、リーさんは朝ごはんを食べると言って去っていった。つかず離れずの距離感が丁度良い人。
私は人混みを避けて、もう少し先にある場所で食べることにした。
開いていそうなカフェを覗くと、朝ごはん中のカマレラとカマレロ。それでも、レインウェアを着た私を手招きしてくれた。
「ドーナツと、カフェ・コン・レチェお願いします」
「カフェ・コン・レチェとドーナツね!」
快く用意してくれたし、なんならかなり良心的な値段で美味しい朝ごはんだった。
レインウェアや靴が濡れていたから外の軒下で食べていたらヘレナさんが通りかかる。
「いいわねー。楽しんで!」
「うん、ありがとう! ブエンカミーノ」
なんてやり取りをして、気付いたらお店に人が沢山。みんなドーナツを頼んでいるから、宣伝っぽくなっただろうか。
「美味しかったです。ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうね。ブエンカミーノ!」
カマレラにブエンカミーノと言われて、元気が出た。
・朝ごはん〜Melide
朝ごはんを食べている間にリーさんに追い抜かれていた。
また二人で歩いていく。やがて大きな街に着いた。カミーノに来る前から名前は知っていた。タコで有名なメリデの街だ。
タコはpulpo(プルポ/響きが可愛い)と言い、タコ屋さんはpulperia(プルペリア)と言う。
リーさんは早速タコを食べると言って看板を探している。
「君は?」
「食べられないんです。アレルギーで」
「ああー、そうかぁ。分かった、また会おうね」
「楽しんできて!」
再び別れた。
教会を見学したりインフォメーションでスタンプをもらったりしていると、ミンニョンに追いつかれた。
「ミンニョン!」
「また会ったね。調子どう? 昨日は良く寝られた?」
「良いアルベルゲでね。良く寝られたよ!」
「私は調子良くない…….」
いっつも朗らかなミンニョンが珍しい。
思わず「何があったの?」と真剣に訊いてしまった。
「ほら、昨日私、公営アルベルゲ泊まるって言ったじゃない?」
「うん」
「一人っきりだったの!」
「えぇ!? あんな広いとこで?」
パラス・デ・レイの街の手前に公営アルベルゲはあり、ミンニョンは確かにそこに向かっていた。人がいないなあ、とは思ったけれど、まだ早い時間だったし単純にオープン前だと思っていたのだ。
「寒くて、誰もいないから怖かった。散々だった」
「うわあ……」
そんな事ってあるんだ。
一人は確かに怖すぎる。
「で、今日はどこで泊まり?」
泊まる街を訊いた筈が、話の流れで泊まる宿の種類になってしまった。
「今日も公営なの……」
「また? でも今日はきっと、人いるよ」
「で、明日も多分……公営」
ミンニョンがわざと悲しそうな顔で「ムニシパル(公営)」と繰り返すから、面白くてつい吹き出してしまった。
・Melide〜Boente
暫く一緒に歩き、ボエンテの街に着いたのでミンニョンに別れを告げる。
「えっ、ちょっと! なんでアルスーアじゃないの? アルスーアに行くと思ってたのに、近すぎでしょ!」
「雨だったんだもん。明日はどこまで?」
「ペドロウソ」
「じゃ、一緒だから多分会えるよ。公営行くね!」
ちょっと遠いけど、ペドロウソがラストウォークに丁度良い距離なのだ。
「またね! きっと明日ね!」
「うん、また明日会おうね!」
そう言ってミンニョンと別れた。
会えるかな。
会えるといいな。
連絡先交換しとけば良かった。
ボエンテは小さな集落で、アルベルゲも数軒しかない。一番手前のレストラン併設の場所を予約しておいた。
チェックインし、まだ誰も来ていなかったのでのんびりシャワーを浴びる。洗濯は明日纏めてしてしまおう。毛布完備でベッドは素晴らしく綺麗。
このアルベルゲも、ランドリーサービスがあったから頼んでも良かったのだが、洗濯、乾燥で8€だったのでやめておいた。なるべくお金はご飯代に回したい。
Wi-Fiも完備。
スマホの接続が今朝からイマイチ悪く、早速Wi-Fiに繋げて家族に写真を送る。
と、LINEの通知が増えた。
外務省のたびレジから、スペインに低気圧Alineが来ているという情報が届いていた。19日から20日にかけて悪天候の予報だ。
「……」
明日もしペドロウソに行くなら28kmの距離。でも警報が出るくらいの低気圧ってやばくないか? 一応危ないのはピレネーとマドリードと書いてあるようだ。ガリシア地方ではない。
手前の方が良いのか?
いやでも……。悩みながら軽食を食べに言った。
・夕食と飛び入り参加
雨が酷くて外にあまり出られない。
毛布にくるまり日記を書いて、頃合いを見てレストランに向かった。
外のテント席でも良かったのだけれど、寒いから店内のテーブルを選んだ。
ペルグリーノメニューを頼み、かぼちゃのスープ(実は昼間も飲んだ)と、ステーキとトルタ・デ・サンティアゴを頼む。
明日ペドロウソに行くならしっかり食べておきたい。
デザートのケーキが来たのとほぼ同時に、ドアが開いた。
一人の女性が店内に入り席を探していた。
「一緒にいい?」
「もちろん!」
そんな訳で夕食の時間を共にする事になった。
彼女はスロバキア出身のレヌスカ。フランス人の道ではなく、プリミティボの道を歩いているらしい。
「どこから出発?」
「サンジャン、サン・ジャン・ピエ・ド・ポーだよ」
「わあ、フランス人の道ね。じゃあ沢山歩いてきたのね。私はたったの300km」
「300kmはたったの、じゃないよ」
本当に、距離感がおかしくなりそう。
スロバキアの料理の話(ハルシュキ/ジャガイモで作る、ニョッキや餃子に似ている料理だそう。すごく美味しいのよ! とレヌスカ)や、鮨の話をした。
それに恒例の、なんでカミーノに来たのか、ヨーロッパの他の国には行くのか。
「今回はスペインだけ。でもいろんな国の人に会うから他の場所にも行きたくなっちゃう」
「分かるわ。本当に色んな国の人がいるわよね」
レヌスカさんは、1日滞在を伸ばした街があったそうで、仲の良い友達は皆先にいるのだと言う。
あんな国の人いたよね、こんな事があったんだ! なんて、ケーキはもう残って無いのに沢山話をした。
この時、レストランまでWi-Fiが届かないので、偶に単語を調べるのに使っていた翻訳アプリが使えなかった。頭をフル稼働させてカンニングペーパー無しで話をしていた。
最初の頃より自然に話、出来てるかな。
分からないけど、レヌスカが飛び入り参加してくれたおかげで、良い夜になったのだった。
これまで一緒だった人達が周りに居なくなってしまったけれど、ここに来て新しい友人ができた。レヌスカはずっと前からの友人みたいで、話していて楽しい人だった。
明日はペドロウソまで28kmの距離。
ぎりぎり私の丁度良い距離である25kmを超えている上に、雨だ。
「ミンニョン……会えるかな」
毛布を被って眠りについた。
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