極東から極西へ36:カミーノ編day33(Portomarin〜Palas de Rei)
前回の粗筋
カミーノに来て良かった?
前回
今回はポルトマリンからパラス・デ・レイまでの話。
・Portomarin〜朝ごはん
思ったよりもゆっくりな出発になってしまった。気付くと部屋の電気が点いており、みんな準備をしている。慌てて寝袋をザックに入れて、出発進行!
ポルトマリンを出て歩き始める。
最初はまだまだパワフルなサリアからの巡礼者が多かったのだが、その内に面構えの違う(進撃の巨人みたいだよね)連中しかいなくなる。何というか、歩き方に堂に入っている。単純に安定感のある人だったり、膝を庇ってるけど、前を向いてストック突いて直向きに進んでいたり。
新しく来た人は分かりやすい。だってみんな物珍しい景色に釘付けだから。気持ちはすごく良く分かる。歩き始めた頃は、なんでも珍しいし、なんでも写真に収めておきたかった。キラキラしてるから、それはそれでまた新しい空気を作り出している。私も最初の頃を思い出して幾つか写真を撮ってみた。
明るくなってきたので朝ごはんを食べようと探していると、人が沢山いるカフェを発見。メニューを見てここに決める。
面白いのは、注文時に名前を教える事。なんで? と思ったら、お皿を持った厨房のおばちゃんがでっかい声で名前を呼んで席を特定していた。
「ツネーーーー! パン・コン・トマテを頼んだツネ、ツネ、ツネーーーーッ!!!!」
「はいっ、はいはいはい!!」
思わず立ち上がってお皿を受け取った。
食べる前に写真を撮っているとミンニョンがやってきた。
「ハイ!」
「ハーイ! ミンニョン!」
「パンとトマトのやつ、私も好き。今注文してきたんだ」
「ふふっ……でっかい声で名前呼ばれるよ」
なんでって顔をしたミンニョン。
直後に「ミンーーーー!!!!」と名前を呼ばれて爆笑していた。
リーさん、あやさんひろさんも来た。そしてもう一人の日本人(なんとここに来て会うとは!)に遭遇! カミーノでは最早希少人種なのにこんなに会えるとは思わなかった。
爆笑したけれど、すごく美味しい朝ごはんだった。
・朝ごはん〜Palas de Rei
パラス・デ・レイまでミンニョンと一緒に歩く。彼女は珍しく、宿の予約をして歩かない韓国の人。ザックも送らず、登り坂も下り坂も平地もスピードを変えずにすいすい歩く。
韓国は山が多くてハイキングがメジャーだとリーさんから聞いたけれど、にしてもタフ。
途中で、スウェーデンのヘレナさんがいて挨拶をする。調子どう? 楽しんでる? 楽しんでるよ、あなたは?
こんなやり取りをする。
他の人ともおんなじ感じのやり取りをする事が多い(単に私の語彙が少ない可能性もある)のだけれど、なんかいいなあと思う。楽しんでる? って聞くのは本人がきっと楽しんでいるからできること。
「降ったり止んだりねぇ」
「レインウェア、暑くて脱ぎたいけど脱げないんですよね」
「分かるわー」
そんな話も少しした。
途中の教会でスタンプを押してもらい、とうとうクレデンシャルが埋まった。盲目の司祭さんが「君たちはどこから来たの?」と聞いてくれたので、韓国と日本からだと答える。
「ああー。アリガトウゴザイマス」
「韓国語は、カムサハムニダ、だよ」
ミンニョンが教えていた。
「アリガトウ……?」
「それは日本語ですよ。韓国語はカムサハムニダね!」
今度は私が教えた。
村を抜け、暫く森の中を歩くと見覚えのある後ろ姿に遭遇。
ミンニョンがそーっと近づく。
「リー!」
リーさんがパーティーに加わった。
パラス・デ・レイまで三人で、時々ミンニョンが写真を撮る為に止まり(くらいで丁度良いペース)ながら歩いて行く。
「見てあっち、空が青いんだけど!」
「こっちは降ってるのにね」
そんな話をしていたら、なんと、虹が!
それも端から端まで綺麗なアーチを描く特大の虹。
虹が出てるよ!
早く早く! と他の巡礼者にも伝えて皆で眺めた。
本当に数分の出来事で、歩いている間に虹はたちどころに消えてしまったのだった。
パラス・デ・レイに着き、ミンニョンは公営アルベルゲに泊まると言って、そちらに向かって行った。リーさんと私も違うアルベルゲ。石畳とアスファルトが濡れて光る街の中に入った。
レセプションに向かうと、オスピタレラはスペイン語でゆっくり説明してくれた。
大丈夫、すごく丁寧だしここまでアルベルゲに泊まってきたからなんとなく流れは分かる。単語も聞いた事あるものばかり。
「予約は?」
「してあります。名前は……これです(台帳を指しながら)」
「ようこそ! パスポート出してくれる?」
こんな感じ。
経験って大事。ありがとう、いちじくのスペインのおばちゃん達。
チェックインが済むと、リッカさんとマークさんに遭遇。ハグしてまた再会を喜ぶ。
だって後何回もこんなことはできないから。
・アルベルゲ〜お昼を食べに
案内された部屋はとても綺麗。
シャワーを浴びたばかりの男性が一人、着替えを探していた。
首にスカーフを巻いているなあと思ったら多分喉頭を何かの病気で摘出されている方だった。マイクや独特の発声法を使って自己紹介してくれた。
「お昼は食べたかい?」
「シャワーの後言ってみます」
「僕はこれから食べてくるよ」
優しそうなおじいさん。
おじいさんと入れ違いで、下のベッドの人が帰ってきたので、挨拶をしようと思ったらどうもアジアっぽい。でもアジアじゃないかもしれないから、取り敢えず公用語の英語で話しかける。
「こんにちは! はじめまして、私の名前はツ……」
なんか反応が。
ぽかーんと言うかなんというか。
そしてこの独特の間は。
「ひょっとして、日本の方ですか?」
日本人だった。
杜氏がルーツらしく、学生時代は然程飲めなかったのに今は利き酒師の資格を持っているらしい。
しかもお遍路を完歩、カミーノフランセを去年も歩かれていると言う猛者。去年は35日でゴールしたそうで、今年は観たいところをちゃんと観る為に時間をかけて歩いているのだそう。
確かに駆け足すぎて見られなかった街が沢山ある。次までの宿題みたいにポツポツ存在するから、そこを踏まえて回りたくなる気持ちも分かる。
シャワーやら洗濯やらを済ませた後で二人でお昼を食べに行った。
リタイアされているけれど、前職が旅行会社関係なのだと言う。面白い話や旅先のコツを沢山聴けた。
お遍路の話は中々興味があった。
アルベルゲみたいなものは基本無く、ビジネスホテルや民宿を使用したり、お寺に寝袋だけ敷いて寝るのだとか。お寺に寝る場合は、食べに出なければならず、焼き鳥屋さんに行ったら飲んでしまうからお金を使っちゃう、なんて杜氏の先祖を持つ彼は笑って言った。
ううん、カミーノ感覚で行ったらかなりお金を使いそうだ。
しかし、カミーノに来てお遍路に興味を持つって言うのもなんだか面白い話だ。
・沢山のもの
お昼に食べたハンバーガーは結構なボリューム。
なので夕飯は適当にパンやら味噌汁やら、頂いた卵やらを食べて過ごすことにした。
実は梅干しを頂いていて、それもつまもうかなんて考えていた。日本にいた時は梅干しは好んで食べなかったのに、面白いものだ。
食堂に行き、日記を書きつつ適当な夕飯を食べていると、コビさんに珈琲の粉を二つ。
更にその後バナナまで頂いた。
そんなショッキングな食事に見えたのだろうか。
戻ると杜氏さん(仮)に昆布茶を頂いた。
次にキッチンがあったら作ってみたい。というかそんなに腹ペコに見えるのだろうか?
日記を書いていると、隣のベッドはなんと、ユンホワン君。「君の友達、明日サンティアゴだって」と教えると「そっかあ」と言って静かに笑っていた。彼は足を捻挫したようで、杜氏さんにボルタレンゲルを塗ってもらい、サポーターを装着していた。
痛み、引くといいね。
寝る直前、外に食べに行ってきたと言うおじいさんが戻ってきた。
「ご飯は食べた?」
「ええ食べました! あなたは?」
「食べたよ。美味しかったさ」
マイクを使いこなして話してくれた。
そのままユンホワン君の下の自分のベッドに行ったなと思ったら戻ってきて、手に何が握らせてくれた。
なんだろ? と思ったらチョコビスケット。
さくさく食べていたら、「なんでビスケット?」とユンホワン君が笑っていた。
こんな日もあるんだなあ。
買い物袋の中身はほぼ一周。ここに来て新しい食べ物が増えるとは思わなかった。
明日は少し短めにボエンテまで。
その次はいよいよ、サンティアゴ・デ・コンポステーラだ!
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