極東から極西へ9:カミーノ編day6(Estella〜Los Arcos)
前回の粗筋
早起き大作戦成功!
オーストラリアの婦人と知り合う。
前の話
今回は星の街から21kmほど離れたロスアルコスへ向かう。早起きに味をしめた私達。無事にアルベルゲは見つかるのか?
・Estella〜Ayegui
早起きしたつもりが、周りは皆起きていた。勿論オーストラリアの婦人もで、洗面所に立ったのを見計らってベッドを降りることができた。
顔を洗い、荷物を取り敢えずザックに突っ込んでから階下の食堂へ。まだみんな起きてはいたけれど、各々静かに準備している。パッキングは音を出しても大丈夫な場所に行きたかった。
「パッキングしに下に行ってるね。もし、圧縮袋使うなら下の方がいいよ」
Sさんに声をかけてそっと階下にある食堂にザックを移動させた。ベッド周りを綺麗にしてしまったので、もう上に上がる用事はない。
「出ますね。ブエンカミーノ!」
「ブエンカミーノ!」
オーストラリアの婦人に伝えて階下に降りた。
こっちに来て思ったのは皆屈託なく笑うなあと言うこと。笑顔が素敵な人が本当多い。そして会話する時は真っ直ぐ人の目を見て話す。最初は、慣れなくて、正直たじたじしてしまった。
でも段々と、此方の話す事を聴いてくれようとしているし、此方に伝えようと話してくれている故の真っ直ぐさだと言う事に気がついた。
だから、私も話す時は真っ直ぐに見ることにした。
出発するとまだ仄暗い。
アルベルゲのあった通りを直進した。巡礼者のヘッドライトが強めのホタルみたいに、道の上を光っている。
「今日は昨日ほどキツくないはずだよ」
「最後の坂、きつかったですもんねー」
「早めに着いて、早めに休も」
そんな事を言いながら歩き続けた。お別れかと思ったら、あのオーストラリアの婦人が軽々と前方を歩いていた。
Azquetaのカフェテリアで一息入れる。
朝ごはんにトルティージャ(またと言うなかれ、これが店ごとに味が違う。カロリーはともかくとても美味しい)とチョコチップクッキーを食べる。ガレッタ・デ・チョコラタ、と言うらしい。ソロ カマレロと貼り紙がしてあって、店員さんがワンオペで素晴らしいスピードで注文の物を作っては捌いている。
「店員さん、一人だよーって」
「すごいですね」
スタンプも、ご自分でどうぞと言う感じで置かれている。
実はこの後見てみたかった場所を素通りしてしまう。その事に気付くのはday7になってから。
・Ayegui〜Los Arcor
意外とすんなりロスアルコスに到着する。アルベルゲを一軒見つけたが、まだ開いていないようだった。
広場でオレンジジュース(また飲んでいる。そろそろ身体がオレンジ色になるんじゃないか)を飲んで時間を潰してから行ったのだが、アルベルゲは既に一杯だそう。
「なんで、まだ12時なのに……? あ、この間の日本人の男性が、韓国の人がキャラバンみたいに動いてるって言ってた。それで予約も一杯になっちゃうって!」
「それじゃ、他のアルベルゲも⁉︎」
ふと見ると、20代くらいの女性も困っていた。近くにある大きな公営のアルベルゲに急ぐ。
着くと、何人か並んで待っていた。直ぐに20代の女性も追いついた。前に並んでいるアジア人の女性に話しかけられる。
「あなた達、日本人でしょ?」
「え! どうして。そうです、日本人です」
「前の街で話してるのが聞こえたの」
一見日本人に見える、と言うか、私の叔母さんにそっくりな人。
「えっと、あなたは……韓国?」
「違うの。よく言われるけど、台湾よ。韓国の人達グループで予約入れちゃうから、アルベルゲどこも一杯だったでしょ」
にこにこと笑っている。
私達の後にやってきた20代の女の子はウクライナからだと言っていた。
「本当、市内はどこも一杯! ここはどうかな。でもなんでこんなに時間かかるの?」
「さあ、僕らも大分待ってる。きっと僕らの為にご飯でも作ってるんだよ」
イギリス人の男性も困った顔で言っていた。
漸く順番が来てパスポートとクレデンシャルを渡す。お揃いのスタッフジャケットを着た年配の二人の女性が一人一人に丁寧に規約を伝え、ベッドのナンバーを渡していた。
「あら、ベッドの番号間違えちゃった。どうやって変えるんだったかしら」
「ここ押すのよ」
「そうだ、ここよね!」
ベッド管理の画面と眼鏡越しに二人で格闘していた。
宛てがわれたベッドに行き、紙のシーツと枕カバーをセットしていると、男の子に声をかけられた。
「すみません、ベッドの番号って何番ですか?」
「? 64番です。ほら」
スタッフに渡された番号を見せるとなんと同じ数。二人でおばちゃん達の所に戻り、新しい番号を発行してもらった。
「ごめんなさい、一緒に来てもらって」
「大丈夫! 気にしないで。僕もちゃんとベッドもらえたから」
爽やかな笑顔で颯爽と男の子は去っていった。
「どうしたの?」
「同じ番号だったんです」
「ああ、大きなアルベルゲだと良くあるのよ。ねえ?」
中庭にいた台湾の女性が誰かと目配せする。あの、下のベッドにいたオーストラリアの婦人が静かに頷いた。
・街の中へ
シャワーと洗濯を済ませて、スペインの習慣に倣ってシエスタ。そして街の中へ。
大きな門をくぐり、教会の前を通る。教会は17時からだそうで、まだ開いていなかった。街をぐるりと周り、17時。エステージャよりも小さい街だったので簡単に一周できた。
実は前回のエステージャでチャムスのサンダルが痛くなって新しいものに替えていた。指に引っ掛けないタイプの為、すごく履きやすい。サイズを見てくれた店員さんに感謝。
教会の前に行くと数人の巡礼者がオープンを待っていた。中々開かなくて皆首を捻っている。
スペインの人は、割と時間にきっちりしているイメージだったので、ひょっとして休みなのかと思ったが、その内に管理人の女の人が5分遅れくらいで鍵束を持って現れた。
中は相変わらず素晴らしい。
何よりもすごかったのは大きなパイプオルガン。
上の階にも行けそうだったので、管理人さんに「2階を観てもいいですか?」と、スペイン語を調べて伝えてみた。
2階は、セグンド。セカンドと似ている。
「あら、勿論! それ見せてくれても良かったのに。階段のぼってね! あっちよ」
「ありがとう!」
スマホの画面を見て笑って、背中を叩かれた。
階段を上って近づいてもパイプオルガンは大きい。1メートル近くある大きな楽譜もあった。
教会を観た後、広場でご飯を食べた。Sさんがピザとオレンジジュースを注文してくれたのだが、届いたのは……。
「え? なぜリゾットが来るんでしょう」
「次の持ってくるから、待っててね!」
「次のって何? レシート、ある?」
見せてもらうとしっかりリゾットの文字が。カマレラ(店員さん)が、にっこにこでピザを持ってきてくれた。
改めて私がオレンジジュースを二つ注文し、ご飯を食べる。中心に近いテーブルでは、陽気なグループが盛り上がっていた。
韓国人ぽい何人かも夕飯を楽しんでいた。
青空の下、ご飯。
なんとも贅沢な時間だった。久しぶりのお米が美味い。
アルベルゲに戻り、中庭で、日記を書く。少し離れた場所でオーストラリアの婦人と台湾の女性がやっぱり何かを書いていた。
消灯時間が近づいたのでベッドに戻るとすぐに眠くなる。うとうとしていたら、先刻広場で盛り上がっていたグループが歌を歌いながら戻ってきた。
寝ている人達が皆もぞもぞ動いていたけれどそれもやがて静かになる。
歌だけが響き、ロスアルコスの夜は更けて行った。
次の話
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