私は外来種

遠き過去の友人たちへ。
もしくは少し過去のあなたへ。
数歩、数万歩先の未来から私は手紙を書いている。

私は外来種だ。
この国ではとりあえず、そうなる。
私はこの国の人間ではない。
数年前からこの国に住み、外来種の認定を国から受けている。
人間外来種指定法。
この国だけではない。
世界中のどの国でもやっていることだ。

生き物の絶滅は絶えることがなく、さらにその勢いを増しつつある中、固有種を守り外来種を駆逐するもしくは管理しようとする動きも活発化してきた。
そのなかで人間も生態系に含めて考えるべきだということが共有されるようになってきた。
そもそも移動手段の発展に伴って人々の行き来が増えたことがこの惨状の元凶なのだから、そう考えることは自然であろう。
そう、自然な考えであったのだが、幾年の月日と、何度もの議論が交わされた結果として、私のような移住者たちは外来種としてそれぞれの国で暮らすこととなった。
人間も種であり地域の固有遺伝子も保存せねばならない、だそうだ。
分かりやすく言えば、同じヘイケボタルでも河川ごとに引き継がれてきた遺伝子は違っているため交配させてはならない、という厳格なルールがある。
それが人間にも適用されてしまった、ということだ。
そのもっとも正しそうな意見が今やメジャーなのだから、私個人としては、まあ従うしかない。
別に反対しているわけでもないしね。

外来種の私に課されたルールはシンプルにひとつだけ。
この国でいかなる異性とも、セックスしてはならない。
避妊をしていてもダメだ。
他の国から来た別の外来種の人間ともダメ。
さらに遺伝子に混乱を生むことになるからね。

さて、あなたはどう思うだろうか?
私は別に悪い気はしていない。
セックスをしたければ、バーチャルセックスで私は十分だ。
この国は技術が進歩していて、かつ電源や通信のインフラが行き届いているため、比較的安価にハイテクノロジーに触れられる。
売春のように性病のリスクもなく、安価、相手も気軽にチェンジできる。
発達したAIとのライトな情交も決して悪くはない。
また税金を8年間納めていると、自身のクローンを残す資格を得られる。
その際は自分のクローンを養育する義務が発生するので、私はそんなのまっぴらなのでやる気はないけどね。

食べることに困らず、あたたかいベッドで寝られて、性欲もスポーツ感覚で発散できる、そして言論の自由もある。
私はこの生活に満足しているのだ。
言いたいことも言えず、死と隣り合わせの母国に戻りたいとは思わない。
ここで人らしく生きてゆけるのならば、私は外来種という区別を受け入れて生きるさ。
当然の話だろう?

追記。
もとからこの国には外国人が出入りしていたため、ハーフが多かった。
人間外来種指定法が制定されてから世界中で彼らの存在はないものとなったし、見かけなくなった。
何処にいったかは私も知らないし、おそらく固有種の人々にもわからないだろう。
この件は、アンタッチャブルな話なんだろう。

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