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映画雑談『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

(ちょっとネタバレあります、ご注意ください)

鑑賞途中で『ワンダとダイヤと優しい奴ら』を思い出しました。ジェイミー・リー・カーティス(怪演!)が出演しているし、ワンコがひどい目に合うし、なによりあのゲロネタやソーセージの指でペチペチやり合うナンセンスぶりは、モンティ・パイソンを彷彿させてくれます。(ゲロネタといえば『キックアス』なんかもイケてますが、私としてはモンティ・パイソンの中でも最低映画として名高い『人生狂騒曲』を推したいです。)
バースジャンプのトリガーとしてヘンなことをしなければならないという珍妙な設定なんか、いかにもジョン・クリーズやテリー・ギリアムが好みそうではありませんか。
そういうわけで、「『未来世紀ブラジル』が好き!」と恥ずかしげもなく言えるような人に(のみ)オススメしたい怪作、それが『エブエブ』こと『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』です。もちろん、私も大好きです。

初日の朝イチ、ど真ん中のシートでIMAX版をウハウハと鑑賞。
ノベルティのクリアファイルをいただいて、ご機嫌です。
109シネマズのロゴもエブエブ仕様となってます。

マルチバースとかいう多元宇宙、並行世界に無数の自分が存在しているという設定です。マーベル映画では、そんな別次元の自分と協力して戦ったりしましたが、『エブエブ』では別次元の自分の能力を借りて戦います。
マルチバースを縦横無尽に行き来して全宇宙を救おうという壮大な物語のはずなのに、ヒロインのエブリンが常に抱えているのは、家族への不満やら煩雑な税金の申請に対する日常的な苛立ちです。舞台はおもにコインランドリーの店内および税務事務所内だったりします。マクロもミクロもごちゃまぜです。
さらに、おしりにトロフィーをアレするとか『レミーのおいしいレストラン』みたいなアライグマとか、何を見せられているやらこちらの理解が追いつきません。もう目茶苦茶です。楽しすぎてシートを引き掴みました。たまりません。大好きです。
そんなカオスな展開でありながら、多様性の尊重などの社会的なネタを織り込み、自己の再発見や家族の再生といった普遍的なテーマも堂々描いています。ラストも期待を外さずにストンと落としてくれて、スッキリします。

私のわがままを言わせていただけるなら、最終局面においてあとひとつ、あっと驚くスペクタクルなものがあってもよかったかなとも思います。それをやれば主題となっている家族愛の描写が薄れてしまうので、あえて避けたのだとは思いますが、エンタメとしての活劇要素を求めるのも映画好きの人情なのです。
こうなればいっそのこと、あのベーグルに何もかも全部が飲み込まれて、宇宙が完全消滅してもよかったのではないでしょうか。そんな詰んだ状況をエブリンが打破し、逆転させたなら、さらなるカタルシスが得られたのではないかと勝手に思いました。
奇跡を起こす手だてはこの際、愛の力でもイデの力でもなんでもよいではありませんか。いや、『スイス・アーミー・マン』のダニエルズが監督なのだから、屁の力ですね。そういえばキン肉マンも、強敵ブラックホールの技を屁で破りました。よし、屁でいきましょう、屁で。


ミシェル・ヨーはやっぱり素晴らしいアクション・レジェンド。
主演ではありませんが
『ガンパウダー・ミルクシェイク』もかっこいいです!


『エブエブ』は有名俳優も出演してはいますが、いわゆるB級映画です。最初から万人受けを狙ってはいません。観る人を激しく選びます。受け付けない人には、一切おもしろくはないはずです。
一方で、たまらないほど好きになってしまう人もいるでしょう。
洪水のように展開するナンセンスな悪ふざけ群のわずかな隙間から、すべてのエブリンの後悔と幸福がキラキラと見えたなら、好きにならずにいられません。
自分自身の過去を省みて、あのとき意地を張ったり妥協したりで選択を間違ってしまったのではないか、可能性を閉じてしまったのではないかと心の隅で悔いながら日々を生きている人は少なくないでしょう。私だってそうです。だからこそ、岩として存在しようが対話し、動き出す、あのシーンが愛おしく思えます。

観終わって、全宇宙のすべての私に、がんばれよと心の中で言いました。おまえが一番がんばれよ、と全宇宙のすべての私から言い返されてしまいましたが。とりあえず、小指で腕立て伏せします。


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